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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者とキャリアチェック その06

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 ござる(仮)にシステムに頼らないことだけが、強さでは無いことを伝えた。
 そして、次に俺へ挑むは花子(仮)……やる気と言うか殺意ヤるき満々である。


「アレ、ござるちゃんみたいにすぐに攻撃してこないんだね」

「万全な状態を倒したいから」

「ふーん、ならそれに応えてあげるのが世の情けだね──『初心の武丸』」


 祈念者であれば、対応するスキルを獲得すれば得られる不壊の武器。
 ただし、壊れない代わりにダメージの方が呪詛レベルで低くなるたった1

 まあ、今回は勝つことが目的ではなく、花子(仮)がどれほど成長したのか知るのが目的なので問題ない。

 魔力を籠めると球体の形態が変化、その形は何の特徴も無いただの長剣と化す。


「とりあえず剣にしてみたけど、確かめたいことがあれは都度変更するからね。それじゃあ、準備はできたけど……花子ちゃんはそのままでいいの?」

「──“武具包魔マジックウェポン”、“魔力抵抗プロテクトマジック”」

「付与魔法は覚えたんだね。うん、いろいろと工夫ができる魔法だから、呪与魔法といっしょに使ってみてね」


 なお、支援系の魔法は相手に受け入れる意思が無ければかなり通しづらい。
 圧倒的な実力差があるならともかく、同程度の実力ならほぼ確実に弾かれる。

 実力者は意識的に魔力を運用し、『纏皮』でさらに抵抗力を高めるためなお面倒だ。
 俺も隙を突かれようと、展開している限りは呪与魔法を通さないだろう。

 その辺は花子(仮)も承知しているのか、魔力を浪費して試すようなこともしない。
 その分も戦闘に使うべく溜め、その手にした武器──双拳銃剣を構える。


「うーん、なんというか──萌えるね!」

「──死ね」


 ロマン武器から射出される、魔力の弾丸。
 強化した視覚で捉えたそれらを、剣の側面で逸らす。

 予期していたのか、銃剣の片方のみで再び発砲してくる。
 同じことをしようと……したところで、籠められた術式に気づいて回避を選択。

 弾丸が地面に着弾した瞬間、弾丸は周囲を凍結させる。
 魔弾、魔力の弾丸ではなく魔法の弾丸……適性ゼロでも魔法が使える便利な弾丸だ。

 問題は、魔力の弾丸と違って魔法を籠めた弾丸そのものは物理的に存在すること。
 故に装填数に限界はあるだろうし、撃ち終えれば装填に時間を要する。

 その点、実弾と魔弾を切り替えられる剣銃なんて物を持っていること自体、かなりレアなので驚きだ……二丁あるので、まあ誰かが作った物だとは思うが。


「でも、銃剣なんて面倒な物、よく使おうとしたよね。剣術、銃術、それに体術も使うんじゃないかな? そしてメインの銃剣術もあるし……かなりSPが必要になったはず」

「…………」

「まあ、やり方はみんなそれぞれだしね。そこに私がとやかく言うことはしないよ。それにしても、まったく容赦しないね。少しぐらい、会話の余地はあると思うんだけど」


 彼女が射出してくるのは──魔力弾、魔法弾、そして実弾。
 それらを織り交ぜて射出してくるのだが、何らかのスキルで意図して組み替えている。

 明らかに状況に応じて、弾丸を選びながら撃っているからだ。
 魔力弾とそれ以外なら分かるが、魔法弾と実弾をも器用に切り替えている。

 見分け自体は常に視力強化による擬似魔眼で済ませているが、魔力を纏わせたり隠蔽効果を付与したりと、これまた巧みに織り込んでくるので警戒し続ける必要があった。

 だが、それでも剣一本で対応できるぐらいの余裕が残されている。
 少なくとも、花子(仮)は【初心者】に就いていた……複数の職業を隠していた。


「ねぇ、花子ちゃん……今、何回転職したか教えてくれないかな?」

「…………」


 返答は、やはり銃撃。
 だが確実に、【初心者】の規定回数以上に転職を行っている。


「うん、もう【経験者】なんだね。さすがにそれ以上は、【強欲】でも無い限りはできないから分かるよ。そうなると……結構な数の職業を蓄えていそうだね」


 俺もかつては就いていた【経験者】。
 職業の内、下級職と中級職に属する職業であれば、そのすべてをカンスト後に格納することができるピーキーな職業。

 なお、アレにはスキル習得時の必要SP緩和能力もあったが……結局それも、最低値を下回ることはできないため、SPはそれなりに消費することに変わりはないのだ。


「ふんふん、一方的な攻撃についてはこの辺でいいかな。とっても頑張ったんだね──えらいえらい、褒めてあげるよ」

「ッ……! 近、づくな!」

「あはははっ。少しレベルを上げて、今度は防御もしてね。あっ、ござるちゃんも見ていてね──“切斬スラッシュ”」


 剣に精気を籠め、特定の動きを取ることで確実に相手に斬撃を叩き込む初歩的な武技。
 ござる(仮)の理屈であれば、これをいっさい武技に頼らず使うことになる。

 その利点は型で武技を見破られない点、そして籠める精気を微調整できること。
 たしかに、安定と確実性を除けば手動で行う方がいい……が、自動にも利点はある。


「そんなの、丸分か……くっ」

「キャンセル、からの強制駆動。そして手動での武技。どう、決まったでしょ」


 俺の動きから“切斬”だと判断し、その進路に合わせて弾丸を放っていた花子(仮)。
 なのでその途中で武技をキャンセル、失敗による硬直によってそれを回避。

 もちろん、硬直の隙を突いて新たに弾丸を放ってきた……が、体を傀儡のように操り強制的に動かし、そのまま武技をなぞって一撃加えた。

 できないのとやらないのは違う。
 弾丸を切り替える花子(仮)のように、すべての行動に意味がある。

 それをござる(仮)が理解してくれればいいんだけども……まあ、花子(仮)に勝たなければ元も子もないわけだが。


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