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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者とキャリアチェック その05

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 クランハウス 修練場


 ござるの潜在的【傲慢】を打ち砕くべく、修練場への集合を伝えてもらった。
 そして、次は花子(仮)の話を……という流れだったのだが。


「少し早くなったけど、まあ花子ちゃんの言うことももっともだしね……いやでも、認めちゃったらこれまでの流れを全否定だし」

「……こっちの方が、効率的でしょ」

「まあ、花子ちゃんはみんなより少し調べ辛いところもあったし、直接見るのが一番いいのも事実なんだよね。うん、だけど最初はござるちゃんだからね」


 部屋に入って開口一番、花子(仮)は修練場に行くよう俺に促した。
 完全に会話を拒否していたが、まあ心当たりがあり過ぎるので俺も従うことに。

 そうして少女たちが全員集まり、俺はござる(仮)と共に部屋の中央へ。
 彼女がクナイを構えたところで……先んじて一言。


「あっ、本当のスタイルでね」

「…………本気でござるか?」

「そんなあからさまな忍者、今時やらないでしょ? 私の眼は特別製だからね…………ああそうだ、私を完膚なきまでに叩きのめせるなら、この眼を奪ってみたら?」

「メル、何を言っているのですか!?」


 クラーレが驚いているが、ござる(仮)は変わらぬ平静さ。
 慣れているのだろう……普段からそういった行動も、やりかねない環境というわけだ。


「ここでみんなにアドバイス。魔眼スキルは成長させると人それぞれ何かしらの眼を発現するけど、スキルは眼そのものに由来した装備スキルみたいになっているんだ。だから、それを奪われればスキルごと失われる」


 祈念者の場合、嫌なら魔眼スキルを成長させなければいいだけだしな。
 奪われた魔眼は一時的にレベルダウンするが、使いこなせば元通り。

 まあ、適合しないと失明するリスクもあるが……物理的・魔法的施術のどちらでも、その可能性が存在する。

 今回の場合、本当にござる(仮)が眼を奪うのなら完璧な施術をしてやる予定だ。
 クラーレたちにはそんなやり取りが異常に思える、ある意味叫んで当然だろう。


「私の眼は何種類か変更できるけど……今の眼は右目に鑑定眼、左目に魂魄眼だよ。どちらも相手の実力を見抜くのに非常に便利な眼だけど……ござるちゃんはどっちがいい?」

「…………」

「うんうん、試合中は使わないから安心してね。まあそういうわけだから、本気で来ても大丈夫だよ。私も少しだけ、真面目に戦ってあげるから」

「……心得た、でござる」


 ござる(仮)はクナイを仕舞う。
 代わりに武器を取り出すことも無く、ごく自然な形で立っている。

 準備ができたのだろう、俺も武器を──と思った瞬間、眼前にクナイが飛んできた。


「っ……!」

「──」


 最低限の動きでそれを躱し、気配を頼りに気功で硬化した腕を構える。
 途端、キンッと甲高い金属音が鳴り響き、襲撃を俺に伝えた。

 状況を把握しようとするも、今度は爆音と閃光が俺の感覚を潰す。
 それでも気配を必死に──直感が告げた方向は、気配のある位置とは違う。

 両方に腕を構えると、これまた双方から金属音が鳴った。
 ほんの少し、直感で掴んだ方向から動揺する感情が伝わってきた……なるほどな。


「うーん……二十点かな? 気配を偽るのは上手いけど、工夫がまったくない。どうしてクナイ以外の武器を使ったり、そもそも同じことの繰り返しなのかな? …………ああ、私を舐めていた、それだけか」


 無言のござる(仮)だが、不服そうな感情は今も伝わってくる。
 表情を隠すことはできても、{感情}由来の検知を誤魔化すことはできないようだ。

 そう、ござる(仮)はスキル面でのあれこれをまだ舐め腐っている。
 こちらの忍者はそちらも磨いており、だからこそ隠蔽系のスキルも育てていた。

 まあ、俺が知る本物の忍者は、すでに死んでいたわけだが。
 それでももう死んでいるからと、いろいろと教えてくれたものだ。


「理に頼って三流、理を使って二流……これはこっちの世界の忍者が言っていたことだけど。それじゃあござるちゃん、一流の条件はなんだと思う?」

「…………」

「はーい、時間切れ。正解は──理と生きて一流、だよ。要するに、システム通りに発動させるわけでも、自力でいろんなことをできるようにすることでもなくて、ある物を上手く活かすことが重要なんだって」

「っ……!? いつの、間に……」


 隠蔽、そして気配遮断スキルに加え、身力制御スキルと『遮絶』でほぼ完全に気配を隠して近づいただけだ。

 ござる(仮)が気づけなかったのは、俺を舐めていたから。
 レベルもスキルも俺の方が上、それでも自分の本気には敵うまいと。

 まあ、俺がそう誘導していたのもあるし、彼女がそれに気づいてもなお、気づかぬふりで居続けたのも理由だろう。

 そのツケを今、彼女は手刀を突きつけられる形で支払っている。
 ……何もしなかったら、『侵蝕』付きの能力か職業に目覚めていたかもな。


「はい、結論。ござるちゃんは、とりあえずAFOでできることを熟知すること。向こうの事情はよく分からないけど、何かあるならそれはそれでいいよ。ただ、面倒だし私に差し向けたりはしないでね」

「…………はい」

「それじゃあ、次は……っと、やる気満々だね。そんなに楽しみだったの?」

「死ね」


 改めて、面接の最後の相手と対面する。
 花子(仮)……彼女の進路を、しっかりと相談(物理)してもらおう。


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