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偽善者とお仕事チェック 三十六月目
偽善者とキャリアチェック その01
しおりを挟む浮島 クランハウス『月の乙女』
メイドたちに癒されまくった翌日、俺は空飛ぶ小島にやって来ていた。
……最後に会ってから、どれぐらい経っているんだろうな、なんて思いながら。
姿は普段のままだと好まれないため、みんなから愛されるメルフォームへ。
むしろ、ここだとメルとしていた時間の方が長い気がするな。
「はーい、みんなお久しぶりー! みんなのメルちゃん、ただいまご帰宅だよ…………って、アレ?」
「あ~、メルちゃ~ん!」
意気揚々と扉を開けたのだが、いつもと違い出迎える声は一つだけ。
黒い三角帽やら長杖など、分かりやすい魔女のイメージを体現する彼女。
クラン『月の乙女』の中では、遠距離からの魔法とアイテム支援を担当するプーチ。
彼女だけが、クランハウスの中に居て俺を迎え入れた。
「プーチお姉ちゃんだけだった? 他のみんなは、何か用事かな?」
「みんな~、クエストだよ~。私は~、少~しやることがあってね~」
「…………えっと、その大釜の中身のことなのかな?」
「そうだよ~、中身はね~──毒薬~」
うん、そんな気はしていたよ。
大釜の中で煮詰められているそれは、あまりにも禍々しい色をしているから。
目玉みたいな物も時々浮かび上がって来るし、その見た目で蘇生薬……とか言われたら正直反応に困っていたところだ。
生産班の調薬担当ことプリパレに頼まない辺り、魔女の秘薬みたいなシステム制限が掛かっているのかもしれない。
レシピ通りに作っても、対応する職業に就いていなければ製作できないアイテムもたまに存在する……生産神の加護持ちなら、それも無視できるんだけどな。
「職業クエストに~、必要~なんだって~」
「へー、私はそういうの一度もやったことないから知らなかったよ。ねぇ、それをクリアすると何が貰えるの?」
「秘密~。言っちゃ~ダメなんだって~」
そういえば、ナックルも似たようなことを言っていたことがあった気がする。
AFOとしての仕組みがどう働いている知らんが、情報漏洩はすぐバレるらしい。
しかも、たとえ現実でかつ口頭で伝えてもアウトなんだとか。
……知覚、そして認識とかそういう類いで判断しているのかもな。
一部の職業やクエストには、情報を他者へ伝えてしまうとそれだけで失敗認定になったり、クリアの難易度が上がったり、あるいは報酬が減ってしまうものもあるんだとか。
そんなわけで、何も語らないプーチはじっくりことこと鍋の中身を煮詰めていたが、しばらくするとその作業を止めて席に着く。
しばらくは放置していてもいいのだろう。
代わりに長杖が勝手に動き、大釜の中身を掻き回している……一度は見てみたいファンタジーな光景の一つだな。
「ところで~、メルちゃんは~どうしてここに~?」
「さっき入って来た時に言ったけど、久しぶりにね。みんながどうなっているか気になっていたし、それを見に来たんだ……まあ、だからってアポなしで来た私が悪いんだけど」
「ふふふ~、もし来るって分かってたら~、みんな大騒ぎだったよ~」
「えー、本当かなー?」
まあ、『メル』が来るとなればそうなっていたかもしれないな。
だが確実に一人、『俺』が来ると嫌そうな顔をする者も居るんだが。
悪戯半分に変身を解いたら、絶対に面倒なので今はそのままだ。
……別にこちらの姿でなら友好的だし、問題ないと言えば無いんだよな。
「ねぇ、プーチお姉ちゃん。お姉ちゃんたちは、上の職業って目指しているの?」
「もちろん~。その方が~、いろいろ便利でしょ~?」
「じゃあ、その毒薬も……って、訊いちゃダメなんだっけ。魔女系の職業って、生産も魔法も両方できないといけないから、大変なのは聞いたことあるけどね」
魔女の一般的なイメージとして、魔法を使える点と大釜で煮詰めて薬っぽい物を生み出す点が挙げられるからだろうか、職業補正もそういった分野に集中している。
なので、万能型と一芸特化型で魔女系の職業でもバラバラになるんだよな。
このクランは生産職も居るだろうし、そちらに特化したものは選ばないだろう。
毒薬を作っているし、魔法に特化したものでもない。
そうなると残されたのは特化はせずとも、幅広い分野に対応した魔女職──
「──【魔女王】、かな? ああ、正解とも不正解とも言わなくていいよ。全部私の勝手な推測だからね」
他の【呪淫魔女】や【灰薬魔女】などは、毒薬を必要としないだろうから省いた。
なお、前者はアレだし、後者は万能だが回復魔法も必須なので違うと思われる。
「【魔女王】は超級職だし、極級の足掛かりにするにはちょうどいいかな? うん、プーチお姉ちゃんならその先も努力次第で行けるとは思うよ」
「……メルちゃんは~、その後も知っているの~?」
「うん、いろんな人に教えてもらったから。教えられることは教えてあげたいけど……基本的に魔女系の職業って、同じ職業の人じゃないと話せないしね。私の場合、教えてくれた人が特殊だったから」
うん、死人に口なしというヤツだ。
俺から聞くことで、プーチの就職前提条件が無くなってしまうのは忍びない。
極級も存在する、そして俺はそれを知っている……ぐらいの情報で充分だろう。
プーチの瞳に、仄暗いナニカが燈ったのでそれは間違いない。
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