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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者とメイド服 中篇

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 夢現空間 浴室


 眷属たちがメイドになりました。
 みんなで食事を取るまでは良かったが、問題はここから……お風呂に入るそうです。


「ハァ……極楽極楽。そう思わないか?」

「そうだな。昔であればバカにしていたが、今では『魂の洗濯』という意味もある程度理解できる……骨身に染みる、とでも言っておいた方が良いか?」

「定番ボケだな。まあでも、そんなことを言うぐらいに余裕が生まれたようで良かった良かった。昔は酷かったからな……」

「風呂など不要、とな。肉の器にも、それなりに価値があるのだと改め直した、二番目の機会だったぞ」


 俺の隣に侍らせた白髪の美女は、お湯を掬いながらそんなことを呟く。
 おかしなことを言っているが、それは彼女の経歴を見ればさして不思議ではない。

 彼女──ネロマンテにとって、アンデッドとしての生活の方が普通だったからな。
 それもスケルトン、要は骨だけだったのだから食事も風呂も、睡眠も不要である。

 なので初期はいろいろと抵抗されたが、時間を掛けてその認識も覆された。
 今や本人も語るように、普通に食事をするし長風呂もするようになっている。


「ネロ、祈念者のことだが……」

「ああ、『息生消鎮[ブレスエット]』というのだったな。吾は知らぬ個体だが、たしかに効果はあるだろう。だがしかし、死に戻りそのものはどうしようもないだろうな」

「そりゃあそうだろうよ、吸えるのは基本的に空気とそこに内包される物だけだろうし、死に戻りを直接害するような能力は備わっていないようだ。しいて言うなら、時間稼ぎぐらいが精一杯か」


 俺が彼女をこの場に呼んだのは、主にその話をするのが目的だった。
 こと眷属の中でも、祈念者関係を調べているのはネロだからな。

 魔力を奪う、その方向性を誤った結果空気の吸引を行う[ブレスエット]。
 初見殺しのような能力なので、たしかに一度は祈念者を殺すことができるだろう。

 だが、絡繰りが分かればそれまで。
 一度目の俺と『回廊』のように呼吸を確保するための魔道具を使ったり、あるいは捨て身で停止を目指せばいい。

 後者なんて命を捨てているような物なのだが、それができるのが祈念者の強み。
 相手は意思無き(あるいは薄き)無機物の固有ユニーク種、そんなやり方もできなくはない。


「魔力だけでなく、魂魄まで取り込む能力があればなんとかなっただろうが。元の目的が魔力の吸引だった以上、そこまでの性質は与えられなかったのだろう……いや、あるいはその可能性を秘めているのか」

「データは取ってあるから、それに特化した再現もできなくはないだろうけど。偶発的にできた物を、意図的にやるのは大変そうだけど……欲しいんだろう?」

「うむ! 吸引、そして貯蓄の性質があれば可能なはずだ! 嗚呼、吾個人で行えぬことは非常に遺憾ではあるが、それは今後の課題とすればよいだけの話。すぐにでも研究を進められる」


 瞳の奥に緑色の炎を宿しながら、ある意味情熱的に狂ったことを語るネロ。
 元より、人とは違う存在だったのだ、彼女に生活以外に人らしさを求めてはいない。

 そんな彼女が祈念者を調べるのも、魂魄の可能性を調べるため。
 それゆえに俺へと協力し、眷属になったという一面もあるからな。

 …………そろそろいいだろうか、これまで湯に浸かりながら語り合った俺たち。
 共に居るネロ、そして浴室に居るメイド姿の眷属たち全員──水着を着ている。


「……水着メイド、かぁ」

「着ろと言われたから着たが、嫌なら脱いでも構わぬぞ?」

「いや、裸の方が嫌だから何かで隠してくれと言ったんだが」


 ちくせう、人の趣味嗜好を暴きやがって。
 いや、別に水着姿のメイドが好きとかそういうことじゃなくて……ただ創作物で見た時から、やけに覚えているだけだし。

 ともあれ、ネロの他にもメイドたちが居るわけで。
 ……うん、真面目な会話で逃げられるのはここまでのようだ。


「パパー!」

「メルス、娘が呼んでいるようだぞ」

「……ミントだけならいいんだよ。要るか、洗う際の補助の補助って?」


 ミントが手を振って俺を呼んでいる。
 なお、俺の視覚には不自然な光が入っていた……眷属に弄繰り回されたこの体に、不可能は存在しないのかもしれない。

 そんな彼女の周りに、なぜか待機している数人の眷属たち。
 先ほどまでじゃんけんをしていたし、それでも厳選した方なのだろう。

 現在、俺の体は“貞操防御”と[内外掌握]によっていっさいの肉体的反応を示さない。
 そのうえで、{感情}が精神的な反応も封殺しているため、『俺』は不動を貫くだろう。

 さらに言うと、俺は『俺』を人体構造を超えたやり方で封じてある。
 分かりやすく言うと……本来備わっていない収納機能を付けました。


「まあ、行くしか無いか」

「吾はここから楽しませてもらうぞ。それだけの策をして、なお抗いようのない猛攻に、メルスの魂魄がどのように輝くのか……大変興味深い」

「そんなものに興味を持つんじゃない」


 結局、ミントだけでなくその周囲の者にまで俺の体は蹂躙されることに……体に付いたのはあくまでボディーソープとシャンプー、あとお湯だけだと信じています。


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