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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者とメイド服 前篇

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 夢現空間 玄関


 魔王城で待機してくれている、ミアとディオ(+元隊長アンデッド&人族騎士)たちに今後の話をした後、俺は再びその場から転移して去った。

 普段なら直で自室に向かうのだが、この時の俺は玄関へ転移することを選ぶ。
 ……先んじてミアとディオがメイドの恰好だったので、なんとなく予想がついたから。


「嗚呼、やっぱり」

「──お帰りなさいませ、メルス様」

『お帰りなさいませ』

「ああ、ただいま…………で、これは誰が考えたことなんだ?」


 玄関で待っていたのは、メイド服姿の眷属たち……仕事の予定があった眷属も混ざっているのだが、まあ彼女たちのハイスペックさなら張り切るだけで問題なく終わるか。

 そんなこんなで、大半の眷属がメイド服姿で集結している。
 後ろの方で震えているカナタ……まあ、あとでコアさんが(いろいろと)慰めるさ。

 俺の問いかけに対して、前に進み出たのは黒髪のメイド。
 彼女──リッカは妙にこちらをからかうような笑みを浮かべ、カーテシーを行う。


「いかがかしら、ご主人様?」

「……文句の付けようが無いくらいに最高なのは間違いない。けど、だからこそその先に何があるのか分からなさ過ぎて怖い」

「そうね、強いて言うなれば価値観の共有、かしら。眷属同士で決めた衣装、今回で言えば私のメイド服。それをご主人様に見てもらうの。大まかに決めただけだから、それ以外は見ての通り差異があるでしょ?」

「たしかにそうだな。ただ、一部の連中があからさま過ぎて酷いが」


 和装だったり上にon白衣だったり、ややメイドという存在から懸け離れた者も。
 いやまあ、前者はギリギリ頭の中で納得できるが……後者はもう絶対違うだろ。


「まあ要するに、しばらくはメイドさんに甘えたい放題ってことよ」

「……えっ、一日限定じゃなくて?」

「ご主人様だって、一日で全員を満足させられると思うの?」

「…………あー、俺が満足させる方なの」


 彼女たちは服装と振る舞いで俺を楽しませて、俺はそんな彼女たちに甘えて何らかの欲求を満たさせる。

 ある意味、WinWinという話なのか。
 俺としては全く以って好ましい展開なんだが……なんだろうなうん、このテコ入れみたいなイベントは。


「──ご安心を、メルス様。各眷属ごとにいつでもCGが確認可能にしておきますよ」

「……うん、そういうことを考えたわけじゃないから。というか、それってまさか全部集めないとこれ終わらな──」

「それじゃあご主人様、とりあえず夕食にしましょう。ああ、それともお風呂の方がいいのかしら?」

「……。………………飯で」


 しばらく、『それとも──』みたいな台詞が無いか待ったが、結局誰も言わなかったので二択から決める。

 予め取り決めていたのか、てきぱきと動く眷属──否、メイドたち。
 ゆっくり歩いて食堂に向かえば、すでにご飯の準備は整っていた。

 調理をしてくれたメイドに感謝をして、全員を席に着かせてから食事を行う。
 ……茶番として、俺が一度言わないと座らないなんてテンプレもこなしたな。


「──ごちそうさまでした。で、こうなると次は風呂なんだが……どうしてか、変身魔法が使えなくなったんだよな」

「パパ―、どうしたの?」

「んー、お風呂は一人で入ろうかなって」

「えー!? パパの背中、わたしゴシゴシしたかったのにー」


 ミントさんや、それを許すと絶対に後でロクでも無いことになるんですよ。
 ショタにすらならせてもらえない現状、何が……ナニがどうなるか分からない。

 こうなったとき、頼れるのは彼女だけ。
 こうなることが分かっていたのか、手を叩くとまさに求めていたタイミングでその彼女が現れる。


「まさか、ここまでの暴挙に及ぶとは……いちおう確認するが、この件に関わっていまいな? というわけで──クー、俺に安寧を与えてくれ」

「はーい──“貞操防御”」


 クーは【純潔】の武具っ娘。
 俺がそうあれと望んだためか、心理系のスキルの他にもまさにそれらしいスキルを保有している。

 それがこの“貞操防御”。
 とりあえず、これが機能している間は誤射などを含めたアレやコレやノクターンいきは凌げるだろう。

「…………けどこれ、貞操が守られるだけで肉体的接触自体はどうにもしてくれないんだよな。自分の体は自分で守れってことか──[内外掌握]」


 肉体関係の機能も操れるこのスキルで、とりあえず俺の意思が保つ限りはそもそもとして反応しないようにしておく。

 精神面は{感情}がどうにかしてくれるだろうし、あとは意志を貫くのみ。
 ミントは喜ぶし、俺も娘に背中を洗ってもらえる……うん、イイこと尽くめだ。


「問題は…………ハァ」

「どうかしたかのう、ぬし様よ」

「いや、お前みたいな変態に背中を預けることはめったにないだろうなと思ってな」

「ぐふぅっ……儂には辛辣!」


 変態のように、いろいろと企んでいる者たちが混ざっているのが気になる。
 純情幼女たちで囲う手もあるが、それはそれで絵面がアレなので断念せざるを得ない。

 ……俺はバスケ部の監督やバンドのマネージャー、ポーカークラブの顧問ではないのだから、そこまで非合法なことに手を付けるわけにはいかなかった。

 だがそれでも、ミントの期待には応える。
 傍から見たら狂人間違いなしの決意を胸に抱き、俺は風呂場へと向かうのだった。


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