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偽善者とお仕事チェック 三十六月目
偽善者と魔王城潜入 その15
しおりを挟む祈念者の危険性について『封印者』に語った後、俺は迷宮から出た。
魔王軍としての任は果たせなかったが、俺個人としては充分に果たせている。
二つの座標も渡したので、そのどちらかにはいずれ来てくれるだろう。
魔王城か始まりの街か……はてさて、選ぶのはどちらかな?
「──ふぅ、ただいまー」
「「お帰りなさいませ、メルス様!」」
「うん……メイド服?」
空間魔法を使わせるためだけに召還していたアンデッドを、元居た場所に送り返す。
そして、部屋と──現実と向き合う、そこにはメイドが二人待っていた。
彼女たちはミアとディオ、俺のスキルから生み出された存在。
仮初だと言う者も少なからずいるだろう、それでも俺は一個人の人権を信じている。
さて、そんな彼女たちがなぜか身に纏っているメイド服。
少なくとも、俺が命じたことではないのだが……眷属が絡んでいるな、これ。
なお、元隊長のアンデッドと騎士も同室しているが、彼らは隅の方に居る。
追い出していないのは、ひとえに彼らを生の対象とすら捉えていないからだろう。
「いちおう確認しておくぞ、それって誰の差し金なんだ? ……ああいや、悪い。こういうときは先にこっちだったな──二人とも、よく似合っている」
「「~~~~ッ!」」
「たしか、フレンチメイドだっけ? その長さは。邪道とかいう人も居るらしいが、俺的には全然ありだ。デザインもいいし、二人に合わせた感じになっているじゃないか」
暫定だが、眷属が絡んでいるだけある。
白と黒のメイド服を、ミアとディオに適した形で意匠を凝らしてあった。
元より、武具っ娘同様に……ある意味それ以上に、俺の願望を体現した見た目をしている彼女たちなので、そこにイイ感じの服が組み合わさると大変悦ばしく思えます。
「ところで、その服は誰が?」
「それは──」
「ディオ!」
「あっ……」
「そうか……言えないか。まあいい、残念ではあるが仕方あるまい」
なお、鑑定スキルに関しては制作者の部分だけが認識できない。
普通の隠蔽ではなく、俺個人に対して分からないように干渉が入っているな。
これは確信犯、それもかなり大規模で行われているみたいだ。
うん、最悪全員メイド服で迎えるなんてことも…………嗚呼、メイド服が怖い!
「さて、そろそろ本題に移るぞ」
「「! は、はい!」」
「騎士も隊長も、そんな隅に居ないで戻って来てくれ。俺の見た物を伝えるから、それに関する意見を聞かせてくれ」
「……いいだろう」
「ああ、分かった」
彼らの立ち位置を変更してあと、俺は迷宮で見た物について語っていく。
まずは『息生消鎮[ブレスエット]』、そして『封印者』に関する話。
「──というわけだ。『回廊』と俺、そして監視の連中は一度追い返されて、報告のために魔王城へ戻ってきた。とりあえず、ここまでで何か意見はあるか?」
「……[ブレスエット]、たしかにその名には聞き覚えがあるな。街一つを崩壊させ、無人の荒野を生み出した悪夢の事件。たしかそのプロジェクト名だったはず」
「たぶんそれだな。で、その魔道具が魔物になってユニーク種になった。封印されていたそれを利用して、何かやろうと考えていたのが【魔王】たち上層部だな」
四天王である『回廊』には、そのうえで封印した当人である『封印者』の解放もセットで要求されていた。
職業は死亡しなければ、その人数枠が減ることは無い。
確実に高位職である『封印者』、封印を別の者に解かせるよりは雇う方が早いだろう。
「…………」
「はい、我が騎士さんや。何か意見があるならば、どうぞ」
「……その封印というものは、人族の住む地域でも確認したことがある。それらは、魔族によって行われたのか?」
「あー、だろうな。ただ、詳しい話ができなかったから、当時の関係性があんまり読み取れなかったんだよな。好意でやったのか、あるいは魔族の領域だったからやったのか……いずれにせよ、その封印を解く術がある」
さらに言えば、視た限り強引な方法なら祈念者でも突破できそうだった。
封印を固有個体と結び付け、報酬目当てで挑むヤツも……居ないわけじゃないだろう。
まあ、その大半は抑止力である善意のランカーたちがどうにかするはずだ。
問題は、それでもなお止まらない連中……そして、暗躍する魔族たち。
「争奪戦になるだろうな。倒してしまえば、とりあえず危険は失われる。祈念者以外が特典を手に入れれば、殺すことでその能力を持つアイテムも消すことができる。どの勢力が速く討伐するか、競い合うのが目に見える」
Z商会でも、さすがに特典自体を販売はしていなかったな……。
それでも、ディーこと[『進退流転』ディヴァース]を彼らは保有していた。
特典の保有権限に関しては、【強欲】ですら手を付けられない領域。
……裏技もあるにはあるが、ある意味獲得者の死が必須なのであんまり意味が無い。
「ミラ、ディオ。しばらくは、【魔王】もそこまで俺に目を向けなくなるだろう。これまで通り、ガイストっぽい演技をやって何かあれば報告をしてくれ」
「「承りました」」
「ふぅ……当代の【魔王】、いったい何を計画しているのやら」
祈念者が行うグランドストーリーは、そこまで進んでいないはず。
時間経過で着々と難易度は上がっているだろうが、それでも計画はまだ闇の中。
それは彼らの冒険が順調に進むか、あるいは計画が万全に整った時か。
いずれにせよ、いつか来るその時のためにも……内部を調査しておかないとな。
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