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偽善者とお仕事チェック 三十六月目
偽善者と魔王城潜入 その14
しおりを挟む脳筋死霊術師(笑)プレイで、『封印者』との戦いを強引に終えた。
現在は魔力を吸引する骨の鎖で縛り、交渉内容を聞かせるために拘束してある。
念のため、第五層の階層主の間から移動しており、そこにはアンデッドを配置した。
何かあればその個体から連絡が来るし、そうでなくとも倒されれば自覚できる。
つまり、そのさらに奥の部屋に居る俺……というか『封印者』を救出に来ることは、ほぼ不可能というわけだ。
「はてさて、どのようにしてご説明をすれば理解していただけるのでしょうか」
「…………」
「一番に語るべきは、やはり祈念者ですか。その身は神に創られた器、何度殺そうとも蘇り、肉体的束縛のいっさいを無効化する。人族にも魔族にも存在し、そのほとんどが己の利のために立ち回っている連中です」
祈念者の視点で見れば当然ともいえる性質だが、自由民視点からすれば恐怖そのものではなかろうか。
どうやっても殺せず、だからこそ無謀な蛮行に挑み強くなる。
倫理コードで性的暴行は防げるが、それでも殺人は防げない。
その罪を贖わせることは難しく……と、その辺りは今は置いておこう。
要するに、俺たち祈念者は益:1で害:9ぐらいの存在だということだ。
「現在、魔王軍は主に彼らへの対応を重点において活動が行われています。死という明確な目的を達成できない以上、異なる手段──封殺するための術を探しておいでです」
「……それでここ?」
「おそらくは。魔力や空気を奪うことで、祈念者たちの動きを封じる[ブレスエット]。そしてその他多くの特異性により、祈念者たちを抑えられる固有種。その封印を解くことのできる『封印者』様。どちらも最適です」
全貌を知っているわけじゃないので、すべては仮説に過ぎないのだが。
普通の方法では不可能、それがネロとの調査で判明している事実だ。
運営との決め事でもあるのか、アバターに関してはいっさい手を抜いていない。
……まあ、自分たちに都合のいいよう、ある種の細工はされているみたいだがな。
だからこそ、運営神に介入の余地無く誕生した能力の持ち主たち──固有種の中に、彼らを封じるだけの力が無いか、そう【魔王】は考えたのだろう。
そして、それは不可能ではない。
人造ユニーク種を生み出した俺だからこそ確信している、それに特化した性質さえ与えられれば、一定の場所から追い出せると。
「『封印者』様が今後どのように振る舞うにせよ、地上へ赴くのであれば確実に彼らと相対するでしょう。対話は可能でしょうが、彼らとは生の価値観が違っています。そして、殺して隠匿することもできません」
「だから群れる。そのための魔王軍、あるいは君の下?」
「それが好ましい、とだけ。魔王軍にとっても、把握している固有種の封印を自在に解き得る貴女様の存在は、常に目を向けるだけの必要性を覚えます。もし、祈念者ないしは人族に手を貸すというのであれば……」
それ以上は何も言わず、骨の鎖に意思を伝えて──捕縛を解く。
手の痛みを訴えるような顔をしてたので、渋ったふりをしてからポーションを投げる。
やや訝しんだ後、結局それを使い──その効果に大変驚いた様子だ。
「もしかしてこれ、魄癒薬?」
「あー、そういう言い方もありましたね。とりあえず、魔力も完全に癒えたはずです」
「…………」
自身の調子を確認すると、『封印者』は転移──移しておいた[ブレスエット]のすぐ傍に飛んだ。
再び術式を施し、機能だけでなく今度は完全な形で停止させた後に封印する。
そして、そのまま……何かする前に、こちらを見た。
「倒せば君に合わせた形で、使えるようになる。欲する?」
「……いえ、どういった形であれ、おそらく劣化してしまうはず。そうなるよりは、その性質を保ったままの方が良いでしょう。ですので、それは『封印者』様の管理下に置かれることを望みます」
必要な情報は眷属たちが集めてくれてあるだろうし、部分的になら再現可能だ。
まったく同じものは絶対にできない、それこそが固有種の性質だからな。
俺は魔王軍に心から所属しているわけでもないので、別に[ブレスエット]を手に入れる必要はまったくない。
祈念者が弱体化しても俺は耐えられることは確認したし、それをどう扱うかは自由にしたらいいとすら思う。
まあ、使うなら使うでその場所は知っておきたいけどな。
いきなり死地を作れば、その被害者が生まれる……偽善相手が生まれるかもだし。
「それでは、こちらをお受け取りください」
「! 何かの座標?」
「現魔王城の座標です。自分用に準備をしていた物ですが、よろしければ。祈念者対策として、今は場所を転々としていますので」
「なるほど、貰う……けど、二つ」
自分が魔王城に入る際に面倒だったので、常時座標が分かるよう仕込んでおいた。
それが記した座標の内の一つ、そしてもう一つの座標にはある場所が載っている。
「そちらは始まりの街と祈念者が呼ぶ、ある場所への座標です。そこには、私の協力者が居ます。もし、魔王軍ではなく私個人へのご協力を選んでいただけるのであれば……ぜひそちらへ」
「……考える」
「では、私はこれにて。可能であれば、外へ送っていただきたいのですが……」
「ハァ……分かる」
了承、ということで俺の視界は即座に切り替わり再び迷宮の外へ。
うーんと伸びをして……俺はアンデッドを一体召還するのだった。
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