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偽善者とお仕事チェック 三十六月目
偽善者と魔王城潜入 その10
しおりを挟む魔王城から迷宮へとんぼ返りし、再び交渉している俺こと死霊術師ガイスト。
ただし、今回は魔王軍としてではなく俺個人との交渉を求めているがな。
それでも魔王軍に所属している体で交渉しているので、それっぽいことを言う。
ちょうど良かったので、祈念者をだしに使い交渉することにした。
「祈念者?」
「『封印者』様、とお呼びしますね。貴女様の時代と違い、現代では運営神と呼ばれる神が台頭しています。彼らによって招かれた異界の魂たち、仮の器であるがゆえに何度でも蘇える者たちを祈念者と呼んでいます」
「へぇ、そんな存在。ただ、それが本当かは分らない」
「こればかりはどうにも……来ていただければいずれ目にする、としか言いようがありませんね。ところで、『封印者』様は迷宮の外に出られる予定は?」
すでに『息生消鎮[ブレスエット]』は封印されているが、『封印者』は起きている。
魔力など、活動に多少の制限はあるかもしれないが……それでも充分残っていた。
今までは自分ごと封印を行っていたからこそ、何もできないままここに居たわけで。
そうでは無くなった今、『封印者』が何を考え何をするのか不明だ。
「ある。君の言う祈念者しかり、今の時代において知らないことが沢山。自分で見た物なら、どんな物でもそれが真実だと思」
「魔王軍への所属など、特定の組織に属するご予定は?」
「うーん、特に考えてない。元より、一組織に所属していたつもりはないし、しばらくは自由で居」
「なるほど、そうなりますと、私の提案は不要ということですか…………いえいえ、それでは困るのですよ」
指を鳴らすと、部屋いっぱいに現れる大量のアンデッドたち。
はっきり言って、勝つことなど不可能だと分かり切っているが……演出上な。
「……本気?」
「やるならば、全力ですよ」
「そう──残念」
瞬間、アンデッドたちは消える。
正しくは、俺の視界から消えた。
それは『封印者』の魔法による事象──彼らの跡は、地面に染み込んでいる。
不可視、そして転移魔法の使用から察するにやはり空間魔法の“空間圧壊”系か。
要は上からプレスされ、物体霊体関係なくそのまま存在ごと潰されたわけだ。
正直、これには演技とかではなくガチで驚いている。
いっさいの抵抗をさせることなく、なおかつ俺に感知させないで潰しているからな。
「どう、まだ?」
「はて、何のことやら──まだまだこれからですよ」
「……これだから死霊術師」
潰しても、迷宮に回収される前ならばそれは死霊術師にとって恰好の糧となる。
大量の死骸は術式を使うためのエネルギーとなり、この場に更なる存在を呼び出す。
冥府の門──ではなく[屍魂の書]を通じて、それは姿を現した。
四足の肉食獣をベースとし、濁った眼以外はほぼ生前のまま……歪な牙を鳴らして。
「『屍融牙獣』、とある錬金術師の作品ですよ。そして“死改糧工”……これで、空間魔法や転移は封じさせていただきました」
「っ……面倒」
「それを──“冥界顕現”。さぁ、少し疲れてもらいましょうか」
闇属性の領域を広げる死霊魔法。
その性能は、俺が今までに生物を殺傷した数に比例して増大する。
まあこれまで、俺はさまざまな場所で殺しまくっていた。
その結果として──『屍融牙獣』は、禍々しい咆哮を『封印者』に放つ。
「…………」
「では、行きなさい!」
『────!』
融牙獣が出現したイベントにおいて、四足型は中盤までだった。
もちろん、人型のストックもそれなりに揃えていたが、お試し程度なので四足型だ。
声なき声を上げ、脳のリミットが解かれた動きで『封印者』を襲う。
だが、相手は空間魔法の使い手、体を動かすことなく短距離転移であっさり回避。
何度か空間魔法を使ったようだが、追加した空間魔法への耐性が抵抗する。
転移も、捕縛も、圧殺も……すべてを弾きながら、やがて牙を立て──
『──』
「この程度なら、大したことない。それに、まだ足りない」
手をかざすと、そこには圧縮された空間による障壁が構築された。
どれだけ牙を突き立てようとも、その守りが砕けることは無い。
逆に近づいていた屍融牙獣に対して、ペタリと手が触れられ……違和感。
繋がりはあるはずなのに、いっさい動かなくなった屍融牙獣。
「なるほど、封印ですか」
封印系の術式によって、活動に必要な核の方を封じられたのだろう。
どれだけエネルギーを供給しようと、何をするか命令を受け取れなくなっている。
「『封印者』を名乗る、その意味を図り損ねたね──『限定解除』」
「限定解除、とは……っ!?」
てっきりもう追い返される、あるいは攻撃魔法を使ってくると思った。
しかし現実は違う、『封印者』はその手にした物に掛けられた封印を解いたのだ。
触れた物、それは部屋に鎮座されていた球体──『息生消鎮[ブレスエット]』。
自身で封印したはずのそれを、『封印者』は再び目覚めさせていた。
「『限定解除』、それがおそらく【魔王】が求めているもの。都合のいい能力のみを目覚めさせ、利用。ちょうど良いから君で試」
「ぐっ……」
おそらく、俺と俺の周辺だけを指定して吸引を開始したのだろう。
失われていく魔力、それは一度目に訪れた時以上に魔力を俺から奪っていく。
普通なら、優れた術者であっても長期的に持たせることはできないだろう。
もし気絶したら、送り返してくれるのだろうか……なんてことを考える。
「さすがにそれは反則でしょうに……」
「勝てば良い」
「……そう、ですね。では、私も勝つために足掻くとしましょう」
「! これだけ吸われてまだ有?」
魔力の縛りを解放……したわけじゃない。
単に一階層に仕込んだ物の一つ──まだ居る大量のアンデッドを魔力に変換し、その身に取り込んでいた。
それと同時に、運用技術の一つ『遮絶』で魔力のいっさいを体内に留める。
強引に引っ張られそうになっているが、それでも操作に集中した魔力を押し込んだ。
そう、奪えないように対策さえすればどうとでもなる。
──あまり長くは持ちそうにないし、早く倒さないとな。
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