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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者と魔王城潜入 その09

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 迷宮の最深部には、ユニーク種を封印していた『封印者』が眠っていた。
 自身共々封印することで、その影響力を抑え込んだのかもな。

 俺と『回廊』、そして監視役の人々は全員が迷宮の外に排出されていた。
 気づけばそこは、生きた心地のしない廃墟だった……ああ、空気ごと吸われた名残か。

 そんな廃墟の一角に、あからさまなほど分かりやすい地下へ続く道。
 そこが迷宮への入り口なのだろう……今さら戻る気は無いだろうけど。


「それで、『回廊』様。この後はいかがなさいますか?」

「えっ? あ、あの……」

「解き放つという命は果たしました。ただ、それが再封印されるであろうこと、そしてそれが『封印者』の手によるものだということは報告出来ます」

「そ、そうですね……まずは【魔王】様にご報告、ですよね」


 彼女の反応からして、どうやら『封印者』が出張ったことは最初から予想できていた事態なのだろう。

 元より[ブレスエット]はおまけ、本命こそがあの『封印者』だった。
 全員を一気に転移させたあの実力なら、間違いなく即戦力だろうし。


「なるほど……『回廊』様、お一つ質問がございます。その報告、私も相席させていただけませんか?」

「…………どういうことですか?」

「今回、私はその命を果たすことができないまま、こうして迷宮より弾かれました。あまりにも申し訳ない結果です。なればこそ、その責が『回廊』様のものではないことを、証明したいのです」


 実際、俺よりも事前情報が多かったはずの『回廊』よりは、無知ゆえに失敗しましたと俺が伝えた方が【魔王】からの印象は良いはず……というか、そういう風に伝える。

 どうせ俺が混ざれば、その後に俺抜きで報告会が行われるはず。
 ……あえてそうしてもらった方が、好都合だからな。


「わ、分かりました、同席を許します」

「ありがとうございます!」

「で、では、行きましょう──早急にお伝えしないと」


 そうして俺たちは、『回廊』の能力によって魔王城へ帰還。
 可能な限り早く【魔王】の下へ向かい、そして『封印者』について報告する。

 その後──


  ◆   □   ◆   □   ◆

 虚声の眠る地 第一層


 俺の姿は、一度潜った迷宮の中に在った。
 足元には魔法陣──召喚の術式によって、再びこの地を訪れている。


「さて、RTAの開始だな」


 一度目を共にした『回廊』(と監視)の姿が無いので、全力での移動が可能になった。
 縛りである死霊術はそのままに、死霊術で行うことの幅を増やす。


「来い──『呪動器カースドウェポン』」


 その手に触れた[屍魂の書]を開始、呼び出すのは禍々しい呪いに塗れた剣。
 それを握り締め、俺は走る──道を阻むすべてを切り裂いて。


「──『服従しろ』、『俺に従え』」


 ただし、アンデッドは一周目同様に支配して回収しながらの移動。
 剣は階層主などの契約不可な相手にのみ使い、ただ握り締めるだけ。

 二層、三層と構造を完全に把握している場所を走り抜ける……が、四層目を抜けようとした辺りで、障害が発生した。


「これは……空間の壁か」


 空間魔法“空間屈折シフト”。
 空間を異相へとズラすという効果を示すこの魔法、上手く使えば無意識の内に相手の進路を捻じ曲げることすら可能だ。

 祈念者の[マップ]システムにより、俺自身の行動は随時確認している。
 その中で、急に俺は自分が道を誤っている理由を発見した。


「邪魔だ。“開牙カイガ”──“渡取ワタリドリ”」


 リュキア流獣剣術、その中でも俺の師ティルが開発した空間を切り裂く斬撃を振るう。
 強烈な干渉、そして呪いを帯びた剣の力によって──道が開かれた。


「当然、これは気づかれるか……さて、行くとしよう」


 剣を収め、再び走り抜ける。
 そして再び──第五層へ足を踏み入れた。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 第五層


 ちょうど、『息生消鎮[ブレスエット]』が封印されるタイミング。
 俺が扉を開けて侵入すると、さも驚いたと言わんばかりの反応を示す『封印者』。


「……驚く。いったい、何故?」

「いえ、お伝えしたいことがありまして。ここからは、私個人との交渉をお付き合い願いたいのです」

「魔王軍ではなく、貴方……ここまで来た蛮勇に免じる」

「ありがたいお言葉。単刀直入に申しましょうか──今しばらく、私と契約していただけませんか?」


 だからこそ、俺は【魔王】を配下の居ないここでその提案をする。
 俺個人として、[ブレスエット]に興味は無いわけだしな。

 それよりは、【魔王】が欲していると思われる『封印者』に興味があった。
 だが、完全に【魔王】の手の者になられると困る……そこでこの提案だ。


「現在、【魔王】様は人族とは異なる陣営との戦いを行われています。『祈念者』と自ら名乗る彼らは、何度倒しても蘇る不死の軍勢です。それが故の蛮行により、見る見るうちにレベルを高める厄介さすらあります」

「…………で?」

「[ブレスエット]の解放も、彼らへの対策の一つでしょう。蘇る点を除けば、奴らのほとんどは人族と同じスペックです。能力を調べ上げ、[ブレスエット]の力を奴らの蘇る場所に置けば……封じることもできるはず」


 まあ、死に戻りしてもすぐ死ぬクソゲーになるだけで、そのうち勝手に慣れて活動するようになるだろうけども。

 自分でも言っていて、これは無理だろうなと思いながら言っているし。
 それでも、時間を稼ぐ必要があった──気づかれていることを前提として。


「なら、何故今の【魔王】様ではなく貴方と契約する必要?」

「……簡単な話です──私が問題視しているのは、あくまで祈念者だからです」


 地下で眠っていた『封印者』。
 彼女が魔王軍に所属するのは惜しい……封印云々だけでも厄介だというのに、空間魔法の才もピカイチである。

 すでに『回廊』が居ることで、移動に関して魔王軍は苦労などしていないだろう。
 しかし、それと同等……あるいはそれ以上の運搬ができる者が現れれば、なお厄介だ。

 ──この交渉に二度目は無い、なんとしてもやり遂げなければ。


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