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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者と魔王城潜入 その06

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 虚声の眠る地 三層


 一層でこっそりある準備をしながら、下に行けば行くほど空気が薄くなる迷宮を探索している俺と監視役の『回廊』(+α)。

 戦闘らしい戦闘はしておらず、現在は少し強い黒い骨『邪骨イビルスケルトン』が代行している。
 位階はだいたい2、しかし種族レベルの方が200まで達している化け物級。

 おまけに瘴気や邪気を吸えば、さらに目覚ましい働きをしてくれる。
 アンデッドばかりのこの迷宮であれば、その使い勝手はかなりのものだ。


「さて、三階層まで降りてきましたが……少し、性質が変化してきましたね」

「こ、この迷宮は全四階層です。な、なのでここからは、その……さらに影響が強くなっていきます」

「なるほど、了解しました」


 呼吸確保の魔道具(寄生型)を装備していなければ、ほぼ間違いなく死んでいたな。
 空気はほぼ無くなり、そもそも生物が生きていられないような環境が広がる三階層。

 それを可能にする術を有していなければ、この場に蔓延っているアンデッドなどの呼吸不要の存在しか滞在を許されないだろう。

 また、空気が無くなるということは、同時に大気中に含まれる魔力の減少も意味する。
 要はMPの自然回復が、以降行われない中で活動をしなければなくなる。


「迷宮の魔物たちは、自動的に供給されるエネルギーで活動を維持しているようですが。ここから先は、あまり使役も試みない方が正解なのかもしれませんね」


 現在、俺は死霊術、魔道具、上層での暗躍へ魔力を同時に使っている。
 加えて現れるアンデッドすべてに、使役の魔法を掛けて服従させながらだ。

 消費は加速的に増える一方で、その回復手段は失われている。
 どれだけ適した職業を持って(いることにしていて)も、いずれは果ててしまう。

 ──そう、『回廊』やその他の監視役には思われているのかもしれない。


「ですが、問題ありません。我が偉大なる師ネロマンテ様より受け継ぎし死霊術に、不可能などございません!」

「は、はぁ……」

「と、いうことで……………………召還コール!」

「えっ!?」


 彼女が驚いたであろうもの、それはこれまでよりも大規模に描かれた魔法陣。
 そこから現れたのは、一体の鎧騎士……ただし、その首は着脱可能だ。


「『首無霊デュラハン』よ、後方の守りは任せます」

「えっ……えっ!?」

「ご安心ください、『回廊』様。この私が居る限り、不意打ちなど絶対にありえません。さて、それでは行きましょうか」

「…………ど、どうしよう」


 ボソッと漏れた声だが、事前に意識して感覚を研ぎ澄ましていたため聞き取れた。
 うん、あからさまに後ろへの警戒をされると困るよな。

 たぶん、こういった部分もしっかりと報告されるだろうが……それでいい。
 むしろ、何もしてないと思われる方が、別の意味で厄介だからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 四層


 さすがにレベル200で袋叩きにすれば、階層主であろうと突破できた。
 ……数は力なのだよ、なんてことを思いながら階段を下りての四層目。


「…………(パクパク)」

「…………(コクリ)」

「…………(上を指さす)」

「…………(コクリ)」


 四層目、そこはもういっさいの空気が存在しない場所だった。
 なので一度上層へ戻り、ある準備をした後に再び四階層へ潜る。

 俺たちの背中には、先ほどまでは居なかった霊体型のアンデッドが一体ずつ。
 種族名は『共振霊レゾナンスゴースト』、二体で一体の霊体で憑りついた相手同士の念話が可能になる。

 念話の魔道具も持っていたようだが、どうやらこの階層で試していなかったようで。
 空気中の魔力を介する必要がある魔道具経由の念話を、この場所では使えなかった。

 対して、共振霊の念話はさながら有線によるやり取り──ほぼ糸電話と同じ仕組み。
 憑依対象がその分の魔力を供給さえしておけば、どんな状況でもやり取りが可能だ。


《──では、この先の情報は無いと?》

《は、はい……ここから先は、出現するアンデッドもかなり強力で》

《なるほど、そういうことでしたか。ですがお任せください、この死霊術師ガイストに不可能はございません》


 出現するアンデッドの位階は、たしかに平均して7から9ぐらいにはなっていた。
 要は二回以上進化しているような個体、いかに魔物とてそれだけ進化すれば強くなる。

 レベルはそこまででは無いので、『邪骨』程度でも大半の個体は対処できた。
 しかし一部、それなりに抵抗する個体も現れた……が、その辺りは数でごり押しする。

 結局のところ、俺たちはなんら足止めを受けることなく階層主の待つ扉の前まで辿り着くことに成功した。


《さて、『回廊』様。準備は宜しいでしょうか? 私の方は、いつでも》

《は、はい、問題ありません》

《分かりました、それでは向かいましょう》


 アンデッドたちを使い、重い扉をゆっくりと開かせる。
 真っ暗な部屋の中を進み、中央辺りまで歩くと──扉が勝手に閉まり、灯りが燈った。


《……ダメでしたか、やはりこの場からの脱出は攻略後のようですね》


 扉に挟み込もうとしたアンデッドは、容赦なく磨り潰されてしまう。
 ズルは無し、生きるか死ぬかでしか行き先は決まらない……ということだな。


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