上 下
2,292 / 2,519
偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者と魔王城潜入 その05

しおりを挟む


 虚声の眠る地 一層


 奥に眠るネームド種以上の魔物を求め、探索を始めた俺と【魔王】四天王の『回廊』。
 音や空気に迷宮特有の干渉が入ったここにおいて、それらを用いた探知は扱いづらい。


「………………召還コール


 召喚サモン、ではなく召還コール
 必要な材料を揃えて簡易的に呼び出すのではなく、すでに製作済みのアンデッドをこの場に呼び起こす。

 本来であればこっそり触れている魔本を経由し、一瞬で行えるであろう事象。
 だが今回は監視の目があるので、それっぽい詠唱と意味ありげな単語を唱えている。

 そうして現界したのは、小さな動物たち。
 ただし、すべてが生気を宿した瞳をしておらず、濁り切った瞳でこちらを見ている。


「ひぃっ!」

「ご安心を。彼らは私に従順ですので。よろしければ、お触りになりますか? 私のアンデッドたちは、世間一般の死霊術師と違い生前を可能な限り再現しておりますよ」


 犬やら猫やら鼠やら、さまざまな動物が居たが今回は兎を派遣してみた。
 少々怯えていた『回廊』だが、恐る恐る毛皮に触れ……目を輝かせる。


「や、柔らかぁい」

「歪な肉体に、健全な魂は宿りません。であれば、より魂が安定して定着するよう、肉体の方を調整すれば良いだけです。要するに、彼らが仕事をしやすいよう、配慮することもまた一流の死霊術師には重要なのです」

「へぇー、そうなんですね」


 話半分といった様子で、兎を愛でることに集中している『回廊』。
 ……その気になれば感覚の共有もできるのだが、その辺は自重しておこう。


「それでは皆さん、各自この場所を走ってください。階段を見つけたら、一度戻ってくるように」


 俺の命によって、囮になっている兎以外の動物たちは迷宮の中を駆け抜けていく。
 彼らの移動情報は[マップ]に表示され、迷宮全体の構造を知る手助けになる。

 音や空気は阻害できても、死霊術師の擬似的な魂の繋がりは断てないらしい。
 ならば数の力をごり押しして、さっさと攻略していこうではないか。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 二層


 階段を伝い、二層へ辿り着いた俺たち。
 再びアンデッドたちを向かわせ、地図を凄まじい勢いで埋めていく。

 もちろん、迷宮には付き物の魔物たちが出現して道を阻んだ。
 この迷宮で現れる魔物は、主にアンデッド系の魔物たちだった。

 なので俺が死霊魔法を施すと、さして苦労せず従属することで戦闘をスキップできる。
 お陰で負担は増すばかり……と『回廊』は心配したが、俺は笑顔でこう答えた。


「──ご安心を。特別な技法で、負担をおさえてありますので。位階ランクの高いアンデッドを使役することでもない限り、何百体でも従えることができますよ」

「す、凄いですね……」

「それにしても、事前に『回廊』様が教えてくださった情報通りですね。まさか、徐々に空気が薄くなっていくとは……たしかに、減少していますね」


 それより、と話題を広げられては困るので迷宮に関する話を振る。
 どうやらここ、高所とは逆で下に行けば行くほど呼吸がしづらくなるとのこと。

 気圧あたりも変化しているのか、高山病に似た症状もあるらしい。
 だからこそ、二層に入る前に魔道具を渡され……そうだったのだが、丁重に断った。

 それでも現在、俺も『回廊』も呼吸確保のアイテムを身に着けて二層を進んでいる。
 自分で用意したそれは……なんというか、妙に脈動していた。


「あ、あの……それって」

「何か?」

「…………い、いえ、何でもありません」


 生体魔道具、とも呼ぶべき寄生型のアイテム(首飾り)を俺は装備していた。
 利点は装備制限などを無視できる点、ただし通常の魔道具よりも身力を奪っていく。

 しかし、アンデッドであれば死霊術師としてある程度の制御をすることができる。
 呪われたアイテムな分、そのリスクさえどうにかできればメリットもあるからな。


「それにしても……」

「ど、どうかしましたか?」

「この迷宮の最深部には、いったい何が眠っているのか……少し興味が湧きましたね。単にアンデッド、というわけではないでしょうし。はて、何かご存じありませんか?」

「…………いえ、分かりません」


 絶対に知ってるな、これ。
 情報の共有が肝心だろうに、あるいは……知らない状態で対応させ、そのときの様子もチェックするとかだろうか。

 それ以外にも企みはあるだろうし、決して注意を怠ってはいけない。
 だからこそ、俺も『回廊』にバレないように準備を整えている。

 今頃、それは一階層で胎動しているはず。
 最初はしていた無かった共有によると、監視は全員二階層に来ている……そう、やはり一人じゃなかったわけだ。

 だからこそ、誰も居ないその場所で動物たちが準備を済ませている。
 彼らは体内に仕込まれた血を用い、無数の陣を構築していく。


「……さて、出番はあるのやら」

「?」

「いえ、こちらの話です。それよりも、三階層を見つけました。そちらへ向かいましょうか。…………………………召還」


 呼び出したのは、真っ黒な骨の兵士たち。
 種族名は『邪骨イビルスケルトン』、通常の動骨スケルトンに比べて数十倍の性能を有している。

 そんな彼らを呼んだのは、この先で待ち受けるであろう階層主フロアマスターを倒すため。
 一階層は動物の死体で寄って集れば倒せたが、さすがに同じ手は無理だろうし。

 数体の邪骨を階層主の部屋に向かわせて、サクッとボス戦を開始──そして討伐。
 俺たちは何の苦も無く、第三階層へ足を踏み入れるのだった。



しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...