上 下
2,292 / 2,518
偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者と魔王城潜入 その05

しおりを挟む


 虚声の眠る地 一層


 奥に眠るネームド種以上の魔物を求め、探索を始めた俺と【魔王】四天王の『回廊』。
 音や空気に迷宮特有の干渉が入ったここにおいて、それらを用いた探知は扱いづらい。


「………………召還コール


 召喚サモン、ではなく召還コール
 必要な材料を揃えて簡易的に呼び出すのではなく、すでに製作済みのアンデッドをこの場に呼び起こす。

 本来であればこっそり触れている魔本を経由し、一瞬で行えるであろう事象。
 だが今回は監視の目があるので、それっぽい詠唱と意味ありげな単語を唱えている。

 そうして現界したのは、小さな動物たち。
 ただし、すべてが生気を宿した瞳をしておらず、濁り切った瞳でこちらを見ている。


「ひぃっ!」

「ご安心を。彼らは私に従順ですので。よろしければ、お触りになりますか? 私のアンデッドたちは、世間一般の死霊術師と違い生前を可能な限り再現しておりますよ」


 犬やら猫やら鼠やら、さまざまな動物が居たが今回は兎を派遣してみた。
 少々怯えていた『回廊』だが、恐る恐る毛皮に触れ……目を輝かせる。


「や、柔らかぁい」

「歪な肉体に、健全な魂は宿りません。であれば、より魂が安定して定着するよう、肉体の方を調整すれば良いだけです。要するに、彼らが仕事をしやすいよう、配慮することもまた一流の死霊術師には重要なのです」

「へぇー、そうなんですね」


 話半分といった様子で、兎を愛でることに集中している『回廊』。
 ……その気になれば感覚の共有もできるのだが、その辺は自重しておこう。


「それでは皆さん、各自この場所を走ってください。階段を見つけたら、一度戻ってくるように」


 俺の命によって、囮になっている兎以外の動物たちは迷宮の中を駆け抜けていく。
 彼らの移動情報は[マップ]に表示され、迷宮全体の構造を知る手助けになる。

 音や空気は阻害できても、死霊術師の擬似的な魂の繋がりは断てないらしい。
 ならば数の力をごり押しして、さっさと攻略していこうではないか。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 二層


 階段を伝い、二層へ辿り着いた俺たち。
 再びアンデッドたちを向かわせ、地図を凄まじい勢いで埋めていく。

 もちろん、迷宮には付き物の魔物たちが出現して道を阻んだ。
 この迷宮で現れる魔物は、主にアンデッド系の魔物たちだった。

 なので俺が死霊魔法を施すと、さして苦労せず従属することで戦闘をスキップできる。
 お陰で負担は増すばかり……と『回廊』は心配したが、俺は笑顔でこう答えた。


「──ご安心を。特別な技法で、負担をおさえてありますので。位階ランクの高いアンデッドを使役することでもない限り、何百体でも従えることができますよ」

「す、凄いですね……」

「それにしても、事前に『回廊』様が教えてくださった情報通りですね。まさか、徐々に空気が薄くなっていくとは……たしかに、減少していますね」


 それより、と話題を広げられては困るので迷宮に関する話を振る。
 どうやらここ、高所とは逆で下に行けば行くほど呼吸がしづらくなるとのこと。

 気圧あたりも変化しているのか、高山病に似た症状もあるらしい。
 だからこそ、二層に入る前に魔道具を渡され……そうだったのだが、丁重に断った。

 それでも現在、俺も『回廊』も呼吸確保のアイテムを身に着けて二層を進んでいる。
 自分で用意したそれは……なんというか、妙に脈動していた。


「あ、あの……それって」

「何か?」

「…………い、いえ、何でもありません」


 生体魔道具、とも呼ぶべき寄生型のアイテム(首飾り)を俺は装備していた。
 利点は装備制限などを無視できる点、ただし通常の魔道具よりも身力を奪っていく。

 しかし、アンデッドであれば死霊術師としてある程度の制御をすることができる。
 呪われたアイテムな分、そのリスクさえどうにかできればメリットもあるからな。


「それにしても……」

「ど、どうかしましたか?」

「この迷宮の最深部には、いったい何が眠っているのか……少し興味が湧きましたね。単にアンデッド、というわけではないでしょうし。はて、何かご存じありませんか?」

「…………いえ、分かりません」


 絶対に知ってるな、これ。
 情報の共有が肝心だろうに、あるいは……知らない状態で対応させ、そのときの様子もチェックするとかだろうか。

 それ以外にも企みはあるだろうし、決して注意を怠ってはいけない。
 だからこそ、俺も『回廊』にバレないように準備を整えている。

 今頃、それは一階層で胎動しているはず。
 最初はしていた無かった共有によると、監視は全員二階層に来ている……そう、やはり一人じゃなかったわけだ。

 だからこそ、誰も居ないその場所で動物たちが準備を済ませている。
 彼らは体内に仕込まれた血を用い、無数の陣を構築していく。


「……さて、出番はあるのやら」

「?」

「いえ、こちらの話です。それよりも、三階層を見つけました。そちらへ向かいましょうか。…………………………召還」


 呼び出したのは、真っ黒な骨の兵士たち。
 種族名は『邪骨イビルスケルトン』、通常の動骨スケルトンに比べて数十倍の性能を有している。

 そんな彼らを呼んだのは、この先で待ち受けるであろう階層主フロアマスターを倒すため。
 一階層は動物の死体で寄って集れば倒せたが、さすがに同じ手は無理だろうし。

 数体の邪骨を階層主の部屋に向かわせて、サクッとボス戦を開始──そして討伐。
 俺たちは何の苦も無く、第三階層へ足を踏み入れるのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。

ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。 高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。 そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。 そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。 弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。 ※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。 ※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。 Hotランキング 1位 ファンタジーランキング 1位 人気ランキング 2位 100000Pt達成!!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ

雪月 夜狐
SF
「強くなくても楽しめる、のんびりスローライフ!」 フリーターの陽平が、VRMMO『エターナルガーデンオンライン』で目指すのは、テイマーとしてモンスターと共にスローライフを満喫すること。戦闘や冒険は他のプレイヤーにお任せ!彼がこだわるのは、癒し系モンスターのテイムと、美味しい料理を作ること。 ゲームを始めてすぐに出会った相棒は、かわいい青いスライム「ぷに」。畑仕事に付き合ったり、料理を手伝ったり、のんびりとした毎日が続く……はずだったけれど、テイムしたモンスターが思わぬ成長を見せたり、謎の大型イベントに巻き込まれたりと、少しずつ非日常もやってくる? モンスター牧場でスローライフ!料理とテイムを楽しみながら、異世界VRMMOでのんびり過ごすほのぼのストーリー。 スライムの「ぷに」と一緒に、あなただけのゆったり冒険、始めませんか? 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】 『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/270920526】

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

三男のVRMMO記

七草
ファンタジー
自由な世界が謳い文句のVRMMOがあった。 その名も、【Seek Freedom Online】 これは、武道家の三男でありながら武道および戦闘のセンスが欠けらも無い主人公が、テイムモンスターやプレイヤー、果てにはNPCにまで守られながら、なんとなく自由にゲームを楽しむ物語である。 ※主人公は俺TUEEEEではありませんが、生産面で見ると比較的チートです。 ※腐向けにはしませんが、主人公は基本愛されです。なお、作者がなんでもいける人間なので、それっぽい表現は混ざるかもしれません。 ※基本はほのぼの系でのんびり系ですが、時々シリアス混じります。 ※VRMMOの知識はほかの作品様やネットよりの物です。いつかやってみたい。 ※お察しの通りご都合主義で進みます。 ※世界チャット→SFO掲示板に名前を変えました。 この前コメントを下された方、返信内容と違うことしてすみません<(_ _)> 変えた理由は「スレ」のほかの言い方が見つからなかったからです。 内容に変更はないので、そのまま読んで頂いて大丈夫です。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

邪神を喰った少女は異世界を救済します

犬社護
ファンタジー
クラスごと異世界に召喚された主人公、清水茜。彼女だけ、なぜか女神に嫌われ、ステータスを見ても能力値は平凡、スキルは2つ、「無能」「フリードリーム」、魔法に至っては何1つ表示されていなかった。女神に嫌われたのをキッカケに、彼女は悲劇の道を辿り、邪神と遭遇する事になる。そこで朽ちるのか、そこから幸せな道を辿るのか、彼女の命運が試される。

処理中です...