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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者と魔王城潜入 その04

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 魔王城に潜入した俺こと死霊術師ガイストは、【魔王】からある依頼を受けた。
 それはとある場所に存在する封印を、解放しろというもの。

 古今東西、封印というものは基本的に害悪となる物を抑え込んでいる。
 彼らは人族に仇なす存在、そんな彼らが求める封印の中身ともなれば……。


「…………」

「は、はひっ! ……うぅ」


 さて、そんな依頼の詳細は、同伴者から聞けとのこと。
 そして、俺の監視役も与えられているであろう同伴者は──四天王の一人。

 桃色の髪と瞳、背中から生えた蝙蝠の翼。
 そして、尻尾の先はハートの形……どこからどう見てもサキュバスか小悪魔な少女が付添人で、俺は救われた。

 男だった【魔王】に絶望したが、幸いにも四天王の構成は『男:2 女:1 ?:1』という確実に一人は女性が居る形である。

 そんな四天王の紅一点(仮)、俺が謁見した際は『ひぃ!』と言っていた者こそ、四天王の『回廊』らしい。

 名前は【魔王】だけが知っており、同じ四天王も知らされていない……なんてことを、なぜか知っていた元隊長より教えてもらっていた。


「えっと、自己紹介をしましょうか。私はガイスト、死霊術師でさまざまな状況に応じてアンデッドを呼び出して操ります。好きな物は……極上の輝きですね」

「わ、わたしは『回廊』、です。名前は……ごめんなさい、教えられません。しゅ、種族は見ての通りですけど、あんまり上手く扱えません。す、好きな物は甘い物でしゅ!」

「『回廊』様、ご丁寧にありがとうございます。差し支えなければ、こちらを」


 擬装用に着けていた魔道具『魔法鞄』の中から取り出したのは、黄金色の飴。
 砂糖を煮詰めて作った鼈甲飴だが……おっと、目を光らせていますな。


「趣味で作った物ですので、味はさして保証できませんが……それでもよろしければ、お近づきの印に」

「あ、ありがとうございましゅ……うわっ、美味しい」

「お褒めに与り光栄にございます。よろしければ、まだございますが?」

「も、貰います!」


 自分に素直になった『回廊』には、ご褒美として飴を進呈。
 ちゃんとラッピングもしてあるので、しばらくは持つだろう。


「さて、『回廊』様。【魔王】様からの依頼について、お話をお聞かせいただければ」

「むぐっ!? ……ん。は、はい、ご説明いたします!」


 これから俺たちは、とある迷宮の最深部に眠る魔物を封印から解き放つんだとか。
 名前は忘れられているようで不明だが──ネームド種以上であることは確からしい。

 彼らは総じて、祈念者同様に頭上に名前が表記されるからな。
 世界が強さを認めた証、故にそれを世界へ知らしめなければいけないという代償だ。

 封印時に認定されていた以上、封印の仕方によってはユニーク種に昇格している可能性もある……そういった観点からすれば、ある意味確認もまた、偽善に含まれるかもな。


「なるほど、一つ確認します」

「は、はい」

「私に課せられた使命は、その封印を解き放つことですね? そして、『回廊』様に課せられた使命は、私がそれを果たせるのかを監視する事──それだけですか?」

「っ……!?」


 隠し事ができない娘みたいだな。
 おそらく、封印そのものかその先にまだ何か隠されているのだろう。

 元より、封印の解放は『回廊』に与えられていたであろう使命。
 それを俺という都合のいい駒が、どれだけの動きを見せるかの調査に兼ねたわけだ。


「そ、それは……あの──!」

「いえ、申し訳ございませんでした。立場、というものがございましたね。ただ、少し気になることがございまして……『回廊』様がこの任に就いたのは、どうしてでしょう?」

「はひっ!? そ、それはですね……あの、四天王の中で、一番わたしが、その、適しているから……なーんて」

「なるほど、分かりました。それでは、任務に当たっての擦り合わせの時間をご用意いただきませんか? 何ができて何ができないのか、隠すにしてもある程度は開示しておかなければ仕事もやり辛いですので」


 死霊術師として振る舞う俺は、アンデッド経由でさまざまなことを行える。
 ただし、ネロのようにすべてを自在に……というのはさすがに不自然な点が多い。

 なのでその万能性には、いくつもの制限があるよう演じてもらっていた。
 コスト、召喚時間、そして同時数の限界など……実際には無いので設定は自由だ。

 これまでもある程度の調査はされていただろうが、今回の依頼でより細やかな情報を回収されるであろう……『回廊』、そして何らかの要因からもな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ???(迷宮) ???


 冠する二つ名の通り、『回廊』──つまり座標同士を繋ぎ合わせての転移を得意としていた『回廊』。

 話し合いを終え、転移門をどこからともなく呼び出して、潜った先は迷宮だった。
 その場所を一言で表すならば、静かすぎる空間……だろうか。

 ちょうど似たような場所として、『■まりの■水湖』を思いだした。
 あそこは会話を禁止していたが、こちらは音そのものが不自然に立たなくなっている。


「しかし、声は出せるのですね……『回廊』様、この迷宮はいったい」

「は、はい。ここ、『虚声の眠る地』は、封印された魔物の影響で、音や空気に異常が生じているんです」

「音、それに空気ですか……」

「なので、反響を利用した探知、そして風系統の魔法はあまり向いていません。それに、大多数での行動も」


 連絡手段が制限されている以上、たしかに多人数で挑んでも難しいか。
 しかし、封印された個体の影響か……どれだけの力を迷宮に染み渡らせているのやら。

 ──まあ、とにかく進むしかあるまい。


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