上 下
2,290 / 2,519
偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者と魔王城潜入 その03

しおりを挟む


 魔族の因子を注入し、死霊術師ガイストとしての変身を完了した。
 しばらくの間は、死霊魔法系の能力を用いた縛りプレイを行うことになる。


「まずはそうですね──[屍魂の書]」


 取り出すのは、死霊術師プレイの必需品。
 過去に集めたアンデッドたち、彼らとの契約術式を書き記した特別な魔本──の一部。

 その場に現れるだけで、存在感が周囲に圧迫感を放つ。
 そんな禍々しい魔本を手に取ると、適当なページを開き──魔力を流す。


「これですね──『偵察霊レコンゴースト』」

『────』

「では、よろしくお願いしますね」

『────』


 召喚陣を通じ、呼び出したのは偵察に特化した霊体たち。
 位階は4だが、それでも隠蔽や索敵能力に長けているので調査にはもってこいだ。

 目的は当然、この魔王城の情報収集。
 ミアとディオはバレて俺の待遇が変化することを警戒し、基本的にこの部屋でできることだけに留めていたようだ。

 なのでほとんど穴だらけの魔王城の地図情報を、新たに霊体に任せて埋めていく。
 物凄い勢いで[マップ]は更新され──ごく一部、それでも埋まらない場所があった。


「ふむ……こことここ、それにこれらの場所には何か心当たりは? どうやら、何かを恐れて近づいていないようですが」

「そこはおそらく【魔王】様、そして四天王様の部屋だろう」

「なるほど、であれば納得です。さて、敬語での口調はある程度思い出しました──ここからは、普段の振る舞いだな」


 先ほどまでの口調は、いちおうでも上司に対する口調だった。
 それ以外の時は、ネロのような振る舞いを心掛けている。

 これから【魔王】への謁見もあるのだ、優先するのは前者だろう。
 ……なんせ数時間後には、顔を合わせないといけないわけだし。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 そして、数時間が経過した。
 部下を残し、たった一人で向かったのは埋めることのできなかった部屋の一つ。

 扉の前で立たされていると、やがてゆっくりと誰も居ないのに開いていく。
 遠くに見える五人の強者、そして絨毯の左右で待つ及ばずとも精鋭の実力者たち。

 レベルは……鑑定を使うと絶対にバレるので確実では無いが、それでも種族限界である250を優に超えた存在感を有していた。

 そんな彼らの下へ、俺は歩み寄る。
 精鋭たちの視線は無視、四天王のそれはあえてし返すように魔力を押し返して対応。


「へぇ……」「ほう」「ひぃ!」「……」


 四者四様の反応を示すが、そちらに関してはどうも思わない。
 そうこうしている内に、遠かったはずの道のりを歩き終え、【魔王】のすぐ近くへ。

 礼儀として跪くと、しばらく何も言わずに時間が過ぎ去るのを待つ。
 やがて、魔力の圧が緩まったのを確認し、顔を上げ──ずに名乗りを上げる。


「死霊術師ガイスト、御身の下へ」

「汝に一つ、訊きたいことがある。先に済ませておきたい」

「ハッ、何なりと」


 あえてこのまま訊く、それにはれっきとした意味がある──つまり、俺という存在に不信を抱いているということだ。


「人族と魔族、我々は血で血を洗う戦いを繰り返してきた。互いに互いを憎み合い、奪い合った……汝は死霊術師であろう、我々の行いについてどう思う?」

「そう、ですね……発言の自由は?」

「認めよう」

「ありがたきお言葉。では、言わせてもらいますと──ええ、本当にくだらない」


 その瞬間、俺の影から複数の剣が現れる。
 突然飛び出したそれは、これまた左右から突如として行われた挟撃を防ぐ。

 犯人は先ほどまで【魔王】に侍っていた者たちのうち、二人。
 小柄な子供サイズの魔人、そして大柄な巨漢サイズの魔人だった。


「──止せ。おれは発言を許した」

「チッ」「……」

「続けろ」

「くだらない……だからこそ、貴方様の行いには大変興味があります。私に仕事のおける裁量権を与えてくれた件、しかし水上都市で行われた魔物の復活。さて、いったい何をお考えなのやら」


 抵抗、反抗する意思のある者を殺すだけならまだ平和を望んでいると言える。
 しかし、水上都市で行われた封印の解放の場合、住まう者すべてに危機が訪れていた。

 目的をこちらで読み切れないのだ。
 何より先ほどの発言、ただ人族を殺したいだけの奴の言葉じゃない……そして、和平を結びたい奴の言葉でもな。


「……汝を呼んだのは他でもない。死霊術師ガイスト、汝に仕事を与えよう」

「ハッ、恐悦至極にございます」

「うむ。汝の実力を量りたい、これより汝にはある封印を解除してもらう」

「封印ですか? はて、どういった物なのでしょうか」


 水上都市で解放されたのは、レイドボス級ではあるがそこまで強くは無かった。
 強い祈念者が集まれば、工夫せずとも倒せるぐらいには。

 しかし、封印といっても掛けられているであろう術式は千差万別。
 最高位でいったら、やはりクエラムを封印していたティルの鎖みたいなものだろうか。

 さすがにそれ級に手を出すのであれば、今の状態ではただじゃ済まなくなる。
 事前にそれを防ぐためにも、何を封印しているのかという情報は必要不可欠だ。


「それはかつて、我々魔族に大きな災いを振りまいた怪物だ。しかし、奴には災いと同じほどの大きな価値がある。生きている間も、それこそ──死後も含めてな」

「……なるほど」

「同伴者を付ける。詳細はその者に聞くと言い、話は以上だ」

「承知しました。必ずや、その命を果たしてみせましょう」


 穴だらけの指令、これで俺の利用価値を見極めようとしているわけだ。
 ……まあいいだろう、俺としても見逃せない相手だ──試してやろうじゃないか。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。 彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。 だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。 神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。 アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO! これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。 異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。 そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

処理中です...