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偽善者とお仕事チェック 三十六月目
偽善者と魔王城潜入 その03
しおりを挟む魔族の因子を注入し、死霊術師ガイストとしての変身を完了した。
しばらくの間は、死霊魔法系の能力を用いた縛りプレイを行うことになる。
「まずはそうですね──[屍魂の書]」
取り出すのは、死霊術師プレイの必需品。
過去に集めたアンデッドたち、彼らとの契約術式を書き記した特別な魔本──の一部。
その場に現れるだけで、存在感が周囲に圧迫感を放つ。
そんな禍々しい魔本を手に取ると、適当なページを開き──魔力を流す。
「これですね──『偵察霊』」
『────』
「では、よろしくお願いしますね」
『────』
召喚陣を通じ、呼び出したのは偵察に特化した霊体たち。
位階は4だが、それでも隠蔽や索敵能力に長けているので調査にはもってこいだ。
目的は当然、この魔王城の情報収集。
ミアとディオはバレて俺の待遇が変化することを警戒し、基本的にこの部屋でできることだけに留めていたようだ。
なのでほとんど穴だらけの魔王城の地図情報を、新たに霊体に任せて埋めていく。
物凄い勢いで[マップ]は更新され──ごく一部、それでも埋まらない場所があった。
「ふむ……こことここ、それにこれらの場所には何か心当たりは? どうやら、何かを恐れて近づいていないようですが」
「そこはおそらく【魔王】様、そして四天王様の部屋だろう」
「なるほど、であれば納得です。さて、敬語での口調はある程度思い出しました──ここからは、普段の振る舞いだな」
先ほどまでの口調は、いちおうでも上司に対する口調だった。
それ以外の時は、ネロのような振る舞いを心掛けている。
これから【魔王】への謁見もあるのだ、優先するのは前者だろう。
……なんせ数時間後には、顔を合わせないといけないわけだし。
◆ □ ◆ □ ◆
そして、数時間が経過した。
部下を残し、たった一人で向かったのは埋めることのできなかった部屋の一つ。
扉の前で立たされていると、やがてゆっくりと誰も居ないのに開いていく。
遠くに見える五人の強者、そして絨毯の左右で待つ及ばずとも精鋭の実力者たち。
レベルは……鑑定を使うと絶対にバレるので確実では無いが、それでも種族限界である250を優に超えた存在感を有していた。
そんな彼らの下へ、俺は歩み寄る。
精鋭たちの視線は無視、四天王のそれはあえてし返すように魔力を押し返して対応。
「へぇ……」「ほう」「ひぃ!」「……」
四者四様の反応を示すが、そちらに関してはどうも思わない。
そうこうしている内に、遠かったはずの道のりを歩き終え、【魔王】のすぐ近くへ。
礼儀として跪くと、しばらく何も言わずに時間が過ぎ去るのを待つ。
やがて、魔力の圧が緩まったのを確認し、顔を上げ──ずに名乗りを上げる。
「死霊術師ガイスト、御身の下へ」
「汝に一つ、訊きたいことがある。先に済ませておきたい」
「ハッ、何なりと」
あえてこのまま訊く、それにはれっきとした意味がある──つまり、俺という存在に不信を抱いているということだ。
「人族と魔族、我々は血で血を洗う戦いを繰り返してきた。互いに互いを憎み合い、奪い合った……汝は死霊術師であろう、我々の行いについてどう思う?」
「そう、ですね……発言の自由は?」
「認めよう」
「ありがたきお言葉。では、言わせてもらいますと──ええ、本当にくだらない」
その瞬間、俺の影から複数の剣が現れる。
突然飛び出したそれは、これまた左右から突如として行われた挟撃を防ぐ。
犯人は先ほどまで【魔王】に侍っていた者たちのうち、二人。
小柄な子供サイズの魔人、そして大柄な巨漢サイズの魔人だった。
「──止せ。我は発言を許した」
「チッ」「……」
「続けろ」
「くだらない……だからこそ、貴方様の行いには大変興味があります。私に仕事のおける裁量権を与えてくれた件、しかし水上都市で行われた魔物の復活。さて、いったい何をお考えなのやら」
抵抗、反抗する意思のある者を殺すだけならまだ平和を望んでいると言える。
しかし、水上都市で行われた封印の解放の場合、住まう者すべてに危機が訪れていた。
目的をこちらで読み切れないのだ。
何より先ほどの発言、ただ人族を殺したいだけの奴の言葉じゃない……そして、和平を結びたい奴の言葉でもな。
「……汝を呼んだのは他でもない。死霊術師ガイスト、汝に仕事を与えよう」
「ハッ、恐悦至極にございます」
「うむ。汝の実力を量りたい、これより汝にはある封印を解除してもらう」
「封印ですか? はて、どういった物なのでしょうか」
水上都市で解放されたのは、レイドボス級ではあるがそこまで強くは無かった。
強い祈念者が集まれば、工夫せずとも倒せるぐらいには。
しかし、封印といっても掛けられているであろう術式は千差万別。
最高位でいったら、やはりクエラムを封印していたティルの鎖みたいなものだろうか。
さすがにそれ級に手を出すのであれば、今の状態ではただじゃ済まなくなる。
事前にそれを防ぐためにも、何を封印しているのかという情報は必要不可欠だ。
「それはかつて、我々魔族に大きな災いを振りまいた怪物だ。しかし、奴には災いと同じほどの大きな価値がある。生きている間も、それこそ──死後も含めてな」
「……なるほど」
「同伴者を付ける。詳細はその者に聞くと言い、話は以上だ」
「承知しました。必ずや、その命を果たしてみせましょう」
穴だらけの指令、これで俺の利用価値を見極めようとしているわけだ。
……まあいいだろう、俺としても見逃せない相手だ──試してやろうじゃないか。
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