上 下
2,289 / 2,519
偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者と魔王城潜入 その02

しおりを挟む


 死霊術師ガイスト。
 嘘か本当か、かつての魔王【不死魔王】の後継者を自称し、高度な死霊術を知らしめている謎の魔族。

 その正体を知る者は、魔族の中には存在しない……アンデッド、そして人族の中には一人ずついるのだが。


「──なるほどな。ミア、ディオが頑張ってくれたお陰で、こんな高待遇がされるまでにガイストの名が轟いていたのか」


 死んでも困らない死霊軍団、その需要はそれなりにあったようで。
 俺が居ない間も、魂魄を偽装してガイスト役を二人が演じて活躍していた。

 どうやら、国を亡ぼす……なんてことはさすがにしていないものの、超級職を持つ自由民を追い返したり、それなりに強い祈念者を殺したりしていたそうだ。

 俺が二人に厳命したこと、それは自由民に限り丁重な扱いをすること。
 蘇る祈念者は容赦なく、むしろ魔王軍だとアピールするように苛烈にやってもらった。


「けど、自由民を逃がして。それを不審に思われたりはしなかったのか?」

「初めは反感を買っていましたが、それ以上に力を示せば何も言わなくなりました。何より、ある日通達が来たからです」

「通達って……まさか」

「はい──【魔王】からです」


 曰く、『目的さえ果たせれば、その内容の貴賤は問わない』とのこと。
 そこまでアグレッシブに、人族を滅ぼす気は無いのかもしれないな。

 いやまあ、実際のところは分からないが、別に強いてくるなら逃亡すればいいし。
 少々【傲慢】だが、どういった契約を課せられようと解除できるからな。

 ともあれ、死霊術師ガイストは任務におけるある程度の裁量権を得た。
 ガイストが侵攻する際、事前に避難勧告をしてから襲うようになっているらしい。

 そのうえで攻めるのだが、強盗や強姦などもいっさい禁止。
 ……というか、後者に関してはそういう部署を派遣してもらっているそうだ。


「そんな部署あるんだな」

「……ええ、あります」

「なら、一度挨拶に……って、冗談だから。その目は止めてくれ」

「「失礼しました」」


 二人(+どうでもいい二人)の視線はともかく、三大欲求の内二つはちゃんとフォローがされているようだ。

 睡眠欲、そしてついでに物欲に関しては、自分たちでどうにかするしかない。
 そんなホワイト魔王カンパニーで、彗星の如く現れた死霊部署。

 その統括であるガイスト課長は、上役にも大変高評価になっているそうで。
 とりあえず、この部屋についてはそんな説明で納得できた。


「それで、わざわざ俺を呼んだってことは、そんな裁量権を与えられている二人で対処しがたい状況に陥っているってことだな。先に結論だけ訊きたい、俺はこれから何をすればいいんだ?」

「「…………」」

「説明しづらいか? じゃあ──騎士、代わりに頼む」


 何やら言い含むミラ、ディオの代わりにいちおうだが雇用している騎士に言わせる。
 俺を好ましく思っていないこの者ならば、正直に教えてくれるはずだ。


「────だ」

「……ん? すまない、もう一度」

「──謁見だ、【魔王】と」

「…………もう一度、は無理か」


 一瞬、耳を疑うレベルの情報を突きつけられてしまった。
 なるほど、それで二人は申し訳なさそうな顔をしているわけだ。

 ここは魔王城、そしてすでにここに来てから何日が経っている模様。
 ……そりゃあ城の主に、挨拶ぐらいしておかないといけないよな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ホワイト企業(仮)な【魔王】社長は、いつも忙しく出張をしていたらしい。
 だがそれでも、日を調整してもらってその面会日を用意してもらったようだ。


「ところで、【魔──」

「「──男です」」

「お、おう……即答か」

「「メルス様には劣りますが、世間一般的にはイケメンです」」


 チッ、男か……最近、魔者連中など会う奴がイケメンばかりなんだよな。
 もちろん、ミアもディオも俺が一からカスタマイズしたから美少女だ。

 彼女たちと居るだけでも、そりゃあ幸せになるけども。
 しかし、人の【色欲】は簡単には満たされない……どれだけ見ても困らないしな。

 まあ、【魔王】については諦めるとして、四天王や例の部署に期待をしよう。
 そこも男だったら……うん、本当にここ、辞めようかな?


「まずは、準備をしようか──ほいっと」


 指を鳴らし、その姿を一度設定した者へ。
 同時に因子を注入し、ただ姿を偽るよりも高い変身を行う。

 死霊術師ガイストは魔族の男。
 普段の俺は外見上、普人なのでその見た目だけで本来の姿と一致させることは難しい。

 何より、<畏怖嫌厭>の呪いすら因子を上手く使えば一時的に無効化可能だ。
 ……なぜかそのときは、因子のお陰かこの美男美女だらけの世界に合った容姿になる。


「……ここまで化けるとは」

「これも俺……いや、私の能力の一つです。これは他者にも使うことができますが……お一つ、いかがでしょうか?」

「遠慮しておく。人の身を止めたいとは、一度として思ったことが無いからな」

「そうですか。一つ付け加えておくのであれば、これは不可逆の能力ではありません。変装や変身、必要に駆られればいつでも言ってくださいね……さて、この口調がガイストのもので合っていますか?」


 事情を知るこの場の者たちで、かつて演じていた死霊術師を思い出しておく。
 うん、これで対応可能だ……さて、謁見までにやるべきことを済ませておこう。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...