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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者と魔王城潜入 その01

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 妖術のお勉強は反復作業に移行した。
 しばらくは妖気の変換と“妖化”をスムーズに行えるように励み、扱いに慣れておくのがいいらしい。

 そんなこんなで、再び誰かとやるべき作業が失われてしまった。
 まあ、付き添いを頼んだら大抵の眷属は断らないだろうが……忙しいからな。

 なので、次はいったい何をしようか、そう考えながら廊下をうろうろとしていたら──一通の念話が届いた。


《メルス様。こちらミア、魔王軍への潜入調査について、ご報告させていただきます》

「おっ、いいタイミングだぞミア。先に聞いておきたいんだが、今報告している場所は長期的に安全な場所か?」

《ハッ。場は整えています》

「了解だ。今、そっちに行く」

《えっ……それって──》


 ミアの返事は待たず、そのまま彼女の座標から直接転移。
 意図して壁の近くに居たりしたら、そのまま埋まる可能性もあるが……信用だな。

 念のため、次元魔法を使って転移した先はかなり広い個室……こ、個室か?
 なんというか、ホテルのスイートルームみたいな行き届いた部屋なんですけども。


「「──メ、メルス様、お待ちしておりました!」」

「急で悪いな……ああ、元隊長も騎士も、元気にしていたか?」

「……嫌な予感がしていたが、まさか本当に来るとはな」

「例のキメラ以降も、一度として顔を出さないでいたが……今さらか」


 おっと、ミアもディオも顔が怖くなっているぞ。
 やはり思った通り、彼らの発言は彼女たちの機嫌を損ねていたか。

 仕方なし、と二人の肩を……って、なぜに高速で動いて頭へ乗せようとする?
 だがまあ、望むのであればとポンッと置いてやると、とりあえず怖い顔は止めた。


「ちょうどいいし、二人に聞くぞ──ここはどこなんだ?」

「……それを知らずに来たのか? 周囲には結界も張られていたはずだが」

「そんなもの、魔法でちょちょいとな。俺の転移魔法は特別製だから、同じレベルの結界じゃないと無効化できないぞ?」

「…………貴様が力を示せば、我々人族は直接乗り込むことができたというのか」


 騎士様、何やら様子がおかしい。
 しかし、その考えは止めておいた方がいいと思うぞ。


「それ、最終的に自分たちも寝込みを襲われるからって理由で、俺を暗殺に来る流れだから無しで。使い捨て扱いにされるし、世捨て人にはなりたくないからな」

「…………そうか」

「いちおう言っておくと、例の祈念者って連中でも同等レベルは難しいと思う。まあ、普通に研鑽を積んでいけば、できなくはないと思うが……それを見つけられるか、となるとまた難しいはずだ」


 転移に特化した職業、あるいは固有スキルの存在か……いやまあ、いちおう心当たりは無くは無いけども。

 いずれにせよ、基本的に自身の欲に忠実な祈念者が従う可能性は低い。
 やるにしても、イベントとして報酬が嵩増しされてからだろうな。


「って、話を聞いてたらだいたい場所に察しがついた。ここ──魔王城か」

「そうだ、魔王軍の中枢。選ばれし者だけが住むことを許された、強者の坩堝……それがこの魔王城だ」


 元隊長がそう語る。
 座標は……うわ、『W20』なのか。
 つまり、学芸都市から5マップ分ぐらい西にある──ということになっているわけだ。

 だが、その程度ならアルカがサーチ&デストロイをできないわけがない。
 本人にやる気が無い、というのも捨てがたいが、おそらくは──


「結界があるってことは、単純な方法じゃ入れないんだろうな。たとえば──定期的に、城のある場所が変わる、とかな」

「っ!?」

「……えっ、マジで当たりかよ」

「これを知ったとき、私は驚愕したのだが。まさか、そのような手で逃げ回っていたとはな……忌々しい」


 曰く、一定周期になるとそうして魔王城の場所を変えると城中に通達されるとのこと。
 なんでも、過去に場所を特定されて襲われた魔王が居たかららしい。

 ……こちらにも、物凄く心当たりがあるんですけど。
 当の本人、バリバリで知っているのでなんとも言えない顔をしてしまったよ。


「そういえば、騎士は四天王にやられたって話だが……見つけたのか?」

「ばっ、その話は……!」

「ああ、見つけたとも……殺してやりたいと何度も何度も、何度も思っている!」

「まっ、一度殺してそれで済むなら、それでもいいと思うけどな。ここでやるべきことはいちおう終わっているし、俺的にはそれでお前さんが満足するならいいと思う」

「! 本当か!」


 元隊長は、俺を睨みつけている。
 そりゃあ自分の上司を殺す話を、さも当然のようにしているからな。


「まあまあ、けどさ。その四天王を殺したとして、次はどうなる?」

「……少なくとも、奴が死ねば被害を抑えられるはずだ。悪辣な魔族だ、自分たちの根城だと油断しているその首を斬る」

「ありえそうなことを挙げよう──まず、そもそも油断してない。次に、引き継いだ四天王がもっと悪辣。そして三つ、配下が死んで魔王がブチ切れる。最後に──殺しても、蘇生する手段が最初から用意されている」


 人族と違い、神聖魔法が効かないので、蘇生の手段は限られている魔族。
 しかしながら、不可能では無い……やりようによっては、いくらでも蘇生は可能だ。

 そして、現在魔王軍には死霊術師が一人在籍している。
 かつて存在したある魔王の後継者を名乗っており、実際にその死霊術はかなりのもの。

 その名はガイスト──現在、俺が偽名として名乗っている肩書だった。


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