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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者と妖術修練 前篇

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 リョクとの模擬戦によって、燃え尽き症候群からは脱却した。
 そして、ついでに次にやりたいことも思いついたので、翌日俺はある人物の下へ。


「おっ、見つけた」

「──。……」

「って、無言で行かないでくれるか? 今日はちゃんと用事があるんだよ、リンカ」

「……傾聴」


 声を掛けたのは、黒髪黒目の褐色少女……の姿をしたとある妖怪の成れの果て。
 なんだか人と妖怪の世界を無茶苦茶にしそうだったので、回収して人形に封じた。

 その後はまあ、いつも通り。
 ただ、いつもと違ってかなり強引に眷属にしたのだが……今ではすっかり、他の少女たちと仲良くやっている。


「…………」

「あの、リンカさん? 耳を塞がれると、聞こえないんじゃないんですかね?」

「…………」


 しかしながら、ガチ泣きさせたせいか、あまり好かれていない気がするんだよな。
 もちろん、今回のように最低限は応えてくれるのだが……微妙に拒否られる。

 まあ、最後にはちゃんと聞いてくれるし、根は善良な子なのだ。
 …………あっ、でも、経歴を考えると善良な要素は──。


「……で?」

「あ、ああ。ちょっと前に、リョクと戦うことがあってな。そのときに妖術を結構乱用したんだが……ふと思ってな、もしかしてリンカって、全種族の妖術が使えるのか?」

「当然、可能」

「マジか、凄いな……」


 理論上、精気を妖気に変換する技術と、その逆ができれば、あらゆる妖術が使える。
 しかし、それぞれの妖怪に種族性質に合わせた妖術を再現するのは極めて困難だ。

 俺が鬼の妖術を扱えたのは、リョクが眷属である点がデカい。
 魂の系譜的なものが擬似的に繋がれ、他の妖術に比べれば扱いやすくなっていた。

 だが、リンカはそうではなくとも、あらゆる妖怪の妖術を使うことができるようだ。
 それもそのはず、彼女はかつて、妖怪を転生させることすらでき得た能力の持ち主。

 決して真っ当な方法ではなく、さらに言えば闇堕ちしていたが……まあ、そこは無視。
 ともあれ、そんな力が有ったからだろう、すべての妖怪に通じていてもおかしくない。


「じゃ、じゃあ、ほら、種族としてある程度体のパーツが必要な能力って──」

「妖狐──“守尾シュビ”」

「おおっ……!」


 リンカの宣言と共に、モフっと生えてきたのはまさしく狐の尻尾。
 惜しむらくは、頭部にキツミミが装着されていないことだろうか……くっ。


「……何故?」

「おっと、すまない……リンカ、耳って生やせるか?」

「可能、拒否」

「……すまん」


 できるがやらない、その言葉の意味ぐらいは理解できる。
 ちゃんと謝ると、リンカはせっかく出していた尻尾も解除してしまう。


「……本題」

「そう、だな。リンカ、単刀直入に言っておこう──その全部、俺に教えてくれ。指導は嫌なら断わってくれていい、ただ視るだけでいいから」

「何故?」

「ほら、ギーが居れば模倣自体はできる。だからそれを基にどうにか──」


 理由を説明しようとした俺に、リンカは距離を詰めてくる。
 顔で視界がいっぱいになるほど近づいた彼女は、俺にあることを問いかけてきた。


「何故?」

「えっ、だからそれを今説明……」

「………………別に、嫌、否定」

「……お、おう」


 少々赤みがかった頬を隠すように、言い終えたリンカはすぐにそっぽを向く。
 だが、その誠意は伝わった……だからだろう、つい頭を撫でてしまった。


「ふ、不敬!!」

「ごめげふぉっ!」


 うん、好き嫌いってあるよね♪


  ◆   □   ◆   □   ◆

 夢現空間 修練場


 そんなこんなで、本日も修練場を訪れる。
 俺が扱える妖術は、リョク、そしてグーの使える鬼系統と妖狐系統の妖術……なんだけども、とりあえず一通りやるらしい。

 なお、リンカ経由で使えないのは、彼女は彼女自身の能力によって、あらゆる妖術が使えているからだと思われる。

 要するに、『リンカ→あらゆる妖術』なのに対し『俺→リンカの能力→あらゆる妖術』と一段階踏まなければならないため、再現度が一定以上まで高められなかったのだろう。

 だが、その辺はまず他の妖術の使い方を覚えれば何とかなる自信があった。
 先ほど説明した通り、模倣すれば元より再現できる可能性は高い。

 そのうえで、覚えた物をリンカの能力を通して行えば……さらに精度が上がるはず。
 仮定の話でしか今は無いが、何でも試してから考えよう。


「というわけで、お願いします!」

「了承──“狐火”」

「おおっ、狐ミミ来たぁあ!」

「…………連弾」


 前回とは逆、尻尾ではなく耳が生えたリンカに思わず興奮。
 ……したら一個、それも極小サイズだった火の玉が大玉レベルかつ無数に生成された。

 いやまあ、数が多いので解析も捗るには捗るんだが……し、死んじゃうよ?
 だが、リンカは容赦なくその火の玉をこちらに向けて放つ。


「ひ、ひぃいいい!」

「終了、条件。妖術、習得」

「いや、この状況でそんなこと言われてもぉおお!」

「……頑張」

「がんば!?」


 次々と火の玉が飛んでくる。
 もともと修練場を使っていた眷属も、理由があるならとまったく助けてくれない。

 ……結局、数分後に“狐火”を自力で使えるようになるまで終わらなかった。
 グーの恩恵でこれなのだから、他の妖怪の妖術は……うん、考えたくない。


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