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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者と緑鬼練戦 中篇

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 リョクと手合わせすることになった。
 ただし、縛りとして俺はリョクのスタイルで相手をすることになっている。

 ここで改めて、リョクについていくつか振り返っておこう。
 彼女であり、元彼であるリョクは魔小鬼デミゴブリンを率いる群れの長キングだった。

 本来であれば祈念者たちにとっての初めてのイベントで、殺されるボス役である。
 それを俺が独占し、そのまま手下に……という経歴だ。

 順調に成長したリョクは、人である俺と居たためか【鬼人王】へ進化した。
 ……このときはまだ、男性型でかなりのイケメンだったんだよな。

 そして、それと同時期に獲得していたのが固有スキルである【忠義】。
 その権能の一つ、名を冠した能力によってリョクは──俺の望む姿へと変貌したのだ。

 ──さて、ここで纏めよう。

 リョクは魔物たちの長、そして王だ。
 そのうえで、【忠義】──<美徳>に該当する力を有し、その能力によって俺に報いる姿と化した。

 つまりは【魔王】と【勇者】、それぞれの資格を有しているわけだ。
 ミシェルのように混ざり合っているのではなく、あくまで両立ではあるが。

 そんなリョクの戦闘スタイル。
 それはパワースタイルであり、妖術も織り交ぜたバランスタイプでもある──それこそまさに、ゲームの『勇者』ではないか。


  □   ◆   □   ◆   □

 とまあ、要するにリョクは物理と妖力で大半のことは熟すオールラウンダーだ。
 正直、眷属の大半はオールラウンダーなのだが……なぜそこを目指すのだろうか。

 お陰で何でもそつなくやってしまうため、俺は頼るだけになってしまうことが多い。
 だからこそ、単独行動時は可能な限り独りでできるように励んでしまうのだけれども。


「──よし、共有完了。それじゃあリョク、始めるとしようか」

「その胸、お借りします」


 ……借りたいのは俺です、と急に本音をぶつけるわけにはいかない。
 視線を一ヶ所、じゃなく二ヵ所から逸らしながら、構えた武器と共に様子を窺う。

 自分は手合わせをしてもらう身、そういった意識のリョクがまず動き出す。
 握る武器は聖魔武具『屍結産牙』、かつては呪いの武具だった巨大な剣だ。

 それに合わせ、俺が使う武器もまた大剣にしてある。
 特殊な能力も備えてあるが、今回は使わないのでただ丈夫な剣でしかない。


「行きます!」

「ああ、来い」


 リョクの攻撃は、上から両断する勢いで振るわれた一太刀。
 大抵の者が受ければ、その防御手段ごと断ち切られてそこで終わりかねない。

 だが、今の俺はリョクとほぼ同レベルの能力値を有している。
 大剣を横に構えると、ズシンと響く重い一撃を受け止めた。

 この際、衝撃は『土堅』を通じてそのまま地面へ受け流す。
 そして、その勢いをある技巧で再び体内に取り込み──勢いよく地面を蹴る。


「むっ……」

「唐竹割なら、これぐらいはやらないとな」


 リョクの剣を弾き返してもなお、止まらぬ勢いでそのまま跳躍。
 意味もなく宙返りをし、円の軌道を描いてから剣を振り下ろす。

 軽業、そして暗躍と集中スキルを使って可能にしたこの一撃。
 戦い方、そして一部のスキルはリョクと同じだが、部分的に俺オリジナル要素もある。

 今までの縛り得たスキル……の一部だ。
 さすがに全部はアレなので、あくまで能力値以上に存在する、種族としてのスペック差に対する補助みたいなものである。


「そいやぁああ!」

「くっ……」


 精気を操り自身を軽くし、逆に剣を重くすることでさらに威力を向上。
 リョクもまた、俺と同じように大剣を横にして防ぐ──違いは地面に入った罅。

 わざわざ稚拙な技術を使わずとも、リョクの膂力は一撃を防ぎきっていた。
 罅だって、正確には俺の攻撃を受けたからではない──反撃をするための準備だ。

 リョクが一呼吸すると、漏れ出す息から妖気が溢れ出る。
 同時に、剣へ手を伝って注がれる妖気……それは激しい熱を帯びていた。


「──“火炒鬼ヒイキ”!」


 妖気、そして妖術。
 主に妖怪系の存在が操る特殊な技術で、魔法とは異なる法則で、似て非なる事象を引き起こすことができる。

 魔小鬼系統の魔物は本来、魔法を操るのだが……鬼人に進化したことで、体内で妖気が生成されるようになっていた。

 そして、そんな妖術を操るリョク。
 火は剣と剣を通じて俺の下まで迫り、焼き焦がそうとしてくる……炒めるなんてレベルじゃない、一瞬で焼き尽くされる火力だ。


「──“水摩鬼ミズマキ”」


 だからこそ、俺も対抗するように異なる妖術を発動する。
 精気力APを変質させた妖気によって創り上げるのは、散弾銃のように飛び散る水。

 だが今回はそれは行わず、意図した操作によってそれらを剣の鞘として扱う。
 そして、その水がリョクの生み出した火とぶつかり──蒸気が爆発的に発生する。

 俺は勢いに身を任せ、そのまま吹き飛ばされてから宙で態勢を整えて着地。
 リョクはその場から微動だにしていない、だが体内で妖気が循環しつつある。

 そんな様子を見て、次に何をしたいのかがすぐに分かった。
 それに応えるべく、俺も妖気を体内に巡らせ──妖術を発動する。


「「──“鬼々壊々キキカイカイ”」」


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