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偽善者とお仕事チェック 三十六月目

偽善者と緑鬼練戦 前篇

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 夢現空間 修練場


 ……燃え尽き症候群だろうか。

 なんというか、一気に魔者三体との戦闘を繰り広げたからかやる気が根こそぎ消えた。
 それこそ、【強欲】に奪われてしまったのかもしれないな。


「なんかこう、モチベーションを上げるようなものが無いかと思って見に来たが……普通に図書室の方が良かったか?」


 溜め込んだ情報の整理もできるし、それならやる気が無くともなぁなぁで可能だ。
 しかし、ここに来てからまた動くのは……それはそれで面倒に思う。

 修練場では日々、眷属の誰かしらが訪れて鍛錬を積んでいる。
 時には眷属と手合わせをしたり、新魔法のテストをしているが……。


「ああ、そうだ。とりあえず、【強欲】の方に魔法のストックをしておかないと」


 今の俺にはそういったことを行う気概がなく、単純作業をするだけ。
 まあ、傍から見れば高等な魔法を無詠唱で使っているので、凄いように見えるのだが。

 それを行使している術者の顔、やる気も無いのほほーんとした顔を見なければ、素直に賞賛できるかもしれない。

 実際には無詠唱ではなく、ただただ脳内で【思考詠唱】を高速でしているだけだが。
 詠唱した方が、無詠唱よりも魔法の燃費が軽くなるからな。


「“欲塗れの宝物庫オール・フォー・マイン”──“永劫隷属エンドレスレイブ”」


 発動した魔法を、そのまま宙に開いた穴めがけて射出する。
 あとは内部で自動処理して保存してくれるので、必要になるまで放置しておけばいい。

 このやり方は、いわばスクロールなどと同じメリットが存在する。
 必要な時に、たとえ適性が無くとも魔力さえあれば指定の発動可能になる点だ。

 そして、“欲塗れの宝物庫”の場合、穴さえ開けば更なる魔力は不要。
 ノーコストで事前に保存した魔法が使えるので、非常に利便性が高いのだ。


「“純薄色彩カラーリング”──“完璧蘇生パーフェクトリザレクション”」


 時には魔術を組み合わせ、適正を発動する魔法に特化させてから行使することも。
 そうすると、魔法の性能を上げることができるからな。

 たとえば今回の“完璧蘇生”であれば、蘇生後の生命力の回復量が微増する。
 元の蘇生率が100%な以上、そちらに変化は無いが……まあ、地味な配慮だ。


「次は──」

「我が主よ」

「ん、リョクか……」

「先日は、ご活躍を。今回は何を?」


 先に修練場を使っていたリョクが、魔力の反応を感じてこちらにやって来る。
 完全に気配を隠していたつもりだが、さすがに一連の作業は隠蔽できなかったか。

 名前同様、緑髪の長身美女。
 不可逆レベルでTSをした、元は魔小鬼デミゴブリンたちを引き連れていた現鬼人の代理王だ。

 だが、内政ばかりではなく、昔から俺のためだと鍛錬を積み続けている。
 今も俺が創ったはずの聖魔武具を握って、何千何万もの素振りを行っていた。


「その先日使った分の魔法を、もう一度溜め込んでいたんだ。さすがにアレだけ使うと、無くなるかもしれないからな」

「さすがは我が主。ですが、たしか魔法は各100ずつ保存されているのでは?」

「まあ、そうなんだけどな。凝り性な性格か分からないが、落ち着かないんだよ。ところでリョク、もう素振りはいいのか?」

「我が主以上に優先すべきものなど、この世には存在しませんので」


 彼女は文字通り【忠義】の塊である。
 ある意味狂気に匹敵するレベルであるからこそ、俺の求める理想的な体にまでなってくれたわけだし……。

 眷属にしたのはミントが最初だが、配下とはいえ俺と初めて何らかの関係を結んだのはリョクが初めてなんだよな。


「あの、我が主……一つ、お願いしたいことがございまして」

「ん? ああ、どうせ暇だしな。これも暇潰しでしかない。リョクの願いなら、だいたいは応えるぞ」

「! でしたら……その、手合わせを!」

「そりゃあ構わないが……縛りは無しの方がいいか?」


 夢現空間に居る間は、基本的に何も制限していないからな。
 完全無欠、まさに全能なのだ……まあ、全知では無いけども。

 そんなフルスペック状態の俺は、どちらかと言えばスキルらしいスキルを使わない。
 先日まで使っていた【強欲】ですら、わざわざ使わずとも勝利できるからな。

 だからこそ、眷属たちにそれを委ねて勝負することもしばしば。
 舐めプではない……本当に、どうしたらいいのか分からないのだ。


「それでしたら、ワレとある程度同じスタイルでお願いしたい。一度、自身を見つめ直したうえで、自分には無い物を知りたいです」

「なるほどな……了解。じゃあ、スキルの一部を借りるぞ。さすがに無い物が多い。けどまあ、【忠義】は使いこなせないし、そこだけは自分でなんとかしてくれよ」


 固有スキル【忠義】。
 リョクが発現したそのスキルこそ、『』が『彼女』になった原因。

 他にも俺が与えた剣に聖剣要素を加え、魔物に【勇者】職の資格を与えたりしている。
 すべては、俺への【忠義】を示すため……さすがに俺では使えない。

 それ以外のスキルは、鑑定眼で構成を再度確認して[眷軍強化]の一つ“能力共有”で借りることで調整を行う。

 リョクのスタイルは基本、その魔物由来の強靭な肉体を用いたパワースタイル。
 だというのに、妖術なんかもバッチリ使えるバランス性も兼ね揃えていた。

 その辺り、ゲームでの『勇者』みたいな万能性があるのかもしれない。
 なんてことを思いながら、一振りの剣を開いていた穴から取り出し──戦闘を始める。


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