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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と欲深き迎撃 その15

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 オルメガ大陸 中央


 四神を冠する魔者たちを下した。
 だが、この大陸にはまだ魔者が居るのではないか……そう訝しんだ俺は、その実在の有無を確かめるべく、大陸の中央へ向かう。


「さて、この地のどこかに居るのだろうか。麒麟、あるいは黄竜は」


 神話的に、どちらの名を冠しているのかは不明だが。
 俺のにわか知識には、それを当てられるほどの正確な情報は無かった。

 また、四神の魔者を下しても出てこない以上、出現条件などにも当てがない。
 あるいは時間だろうか……まあ、それを調べるためにここを訪れたのだ。


「ネタバレは好かぬのだがな……最低限、必要な情報のみを引き出す──“全知収奪ワールドレコード”」


 脳裏を焼き焦がす激しい衝撃。
 目に映るすべての情報を、強制的に脳に焼き付けようとしている。

 それは目に入った物が何なのか知りたい、その極致へと至った【強欲】な者へ与えられる力──最低最悪のネタバレ能力、そう俺が呼ぶ能力だ。


「これかっ──中止!」


 この地の情報──生息する魔物、植物の情報、誕生理由などの今は不要なもの──をいつもの如く[世界書館]に押し付け、必要な情報のみを探す。

 そして、魔者に関する情報が見つかったその時点で、即座に能力をキャンセルする。
 幸いにして、他での縛りで得たスキルのお陰で、そこまで負荷は強くなかった。

 ──だがそれでも、ポタポタと鼻血が垂れている。


「チッ、だから嫌なんだ」


 ポーションを飲むと、それはすぐに治る。
 あくまでいつも以上に、強引なやり方で脳の処理演算をさせられたからこそ、耐えられなかった分が反動で来ただけだ。

 今回は鼻血で済んだが、それ以上だと目からも血が出たり……また、調べ続けた果てに見てはいけないもの・・・・・・・・・を見てしまうと──そのまま発狂して死ぬことだってある。

 ともあれ、魔者の情報は掴んだ。
 やはり存在はするらしい……が、特定するにはまだ問題が。


「現時点だと、どれが来るか分からんな……条件をこちらで整えるべきか?」


 どうやら麒麟/黄竜は、一定時間経過で出現するらしい。
 ただし、その時点でこの大陸がどうなっているのか、それで存在が変化するようだ。

 その条件とは──死亡数。
 それが少なければ麒麟、そして多ければ黄竜として名が与えられるとのこと。

 問題は、あくまでそれが魔物だけをカウントしているという点。
 ……魔者が死んだ場合、それを想定しての情報は見つけられなかった。

 まあ普通、わざわざ名前を与えた魔者がくたばることは想定していなかったのだろう。
 計画的には、麒麟/黄竜復活後に何かする予定だったのかもしれない。

 もちろん、配下として使うというルートもあるのだろうが。
 あくまで出現情報を調べただけなので、その辺りは分からない。


「未来の情報は、その過程まで探るからな。もっと深刻なダメージを受けていただろう」


 そんなわけで、五体目の魔者の出現に関してはまだ猶予があるようだ。
 今の俺にできるのは──多少の嫌がらせをしておくぐらいだろう。


「イケメンになるんだろう? くっ、そうはさせるか! ──“欲塗れの宝物庫オール・フォー・マイン”!」


 ある意味、今回こそがもっともその能力名に相応しい使い方ではないか。
 中から取り出すのは、俺の欲がこれでもかと詰め込まれた一品。


「ふっふっふ、もし最初から事前知識が与えられているなら、驚くだろうな……まあ、そうじゃない方がいいんだけども。おっと、げふんげふん──再誕を祈ろう、どうか精々その身を楽しんでくれ」


 俺が取り出したそれこそが、最後に生まれる魔者の中核となる。
 ……うん、俺をよく知る人々なら、話を聞くだけで何をしたのかお察しだよな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ハリグン国 社


 帰還した俺がまず最初にしたこと、それは防衛を従事した魔物たちへの労いだ。
 食事、そして価値のある魔道具など……国への貢献に対する正当な報酬を支払った。

 与える物はいくらでもある。
 理屈としては、配下の存在に物を与えようと、どれだけ与えても俺の物として扱うことができる……そういうことだ。

 なので大盤振る舞い。
 魔物たちは認められたと喜ぶし、俺は承認欲求的なものが満たされる……WinWinな関係では無いだろうか。



 そして、今回も俺の行いを観ていたであろう観測者を名乗る神の下へ来た。
 現状、コイツ以上に詳しい話をする相手が居ないからな。


「……なんだと、知らないだと?」

《四神を冠した魔者、彼らのことは観測するに当たって説明がありました。しかし、その第五の魔者に関して、事前に情報は与えられておりませんでした》

「ふむ……それは観測者としてどうなんだ」

《私は正式に観測者、というわけではございませんので》


 まあ、その辺は詳細な情報を聞いたところでどうしようもないからな。
 とりあえず、リオンとその友神に伝えておくぐらいにしておくか。


「しばらく俺はこの地を離れる。可能であれば、巫女を通じて危機があれば俺に連絡をしてくれ」

《ええ、その程度であれば》


 うん、観測者なら絶対にやらないであろう間接的な干渉を許容した。
 やっぱり観測者じゃないな……だが、これで良い。

 ──最後の魔者、誕生が楽しみだよ。


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