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偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と欲深き迎撃 その14
しおりを挟む対ビャッコ戦、無槍[天華]まで使って大人げなく勝利しました。
戦闘終了後、ビャッコの顔芸を楽しんだりして──魂を徴収する。
「……どうした、まだ不服か?」
「別に!」
「それこそ、不服である証拠だが……まあ良かろう。貴様がどのように思おうと、これで晴れて奴隷の仲間入りだ」
かなり手慣れた隷属作業を済ませ、蘇生を行う一連の流れ。
サクッと済ませてビャッコの表情筋を動かすと……大変不服そうな顔で固定された。
スザク、それにセイリュウと合流したのだが、どちらも憐憫……ではない、同情するような表情をしていやがる。
俺、そんな顔をされるようなことをしただろうか?
お前たちが進軍して来たから、俺は国を守るために……そう、仕方なくやったのに。
「今さらだが、何故貴様らは此度の侵攻を目論んだのだ? わざわざ来ずとも、一定の領地を持っていただろうに」
「──では、私がお答えしましょう」
「セイリュウか」
「端的に言いますと、天からの啓示です。逆らえば力を奪われる以上、私どもに拒否権はございません」
曰く、不定期に指示を下す何者かが存在しているとのこと。
魔獣としての能力を与えたのもソイツらしいが、その正体は分かっていないらしい。
「……よくもまあ、そんな得体のしれない者から力を授かる気になったな」
「私どもは、異なる事情ではありますが力を求めていました。それを失いたくない、だからこそ天啓をこれまで果たしてきました」
天啓は何者によるものなのか。
おそらく、観測者を自称する神によるものではないだろう……そうならば、わざわざ俺に語り掛けてくる必要など無いからだ。
となると、心当たりは二つほど。
一つ、観測者とはまた別の役割が与えられているかもしれない神……そしてもう一つ、まだ現れていない五体目の名を冠する魔者。
「キリン、あるいはオウリュウ。その名に覚えはないか?」
「? ……いえ、ございませんが」
「俺の知識によると、貴様らが冠した四つの名は四神と呼ばれる領域の守護者のものだ。東西南北、そして中央。その地を統べる者の名こそが先ほど挙げた二つだ」
麒麟、そして黄竜。
これを冠する魔者もまた、存在するはず。
たしか、赤色の世界の姉弟の場合は、その名前は黄龍の方だったみたいだが。
まあ、玄武と玄冥のように両者を成立させるような魔者かもしれないけれど。
いずれにせよ、最終的にはこの大陸に現れるはずだろう……それがテンプレだ。
「ついでに言うと、最終的には貴様らを糧として復活する可能性もあるな。すでに四神を冠する貴様らが敗北したのだ、目的を果たせば不要となるだろう」
「……かも、しれませんね。蘇生後の弱体化かもしれないと思っていましたが、たしかに力が弱まっているように思えます」
「だろうな。ゲンブがそうだったから、同じようなことになるとは踏んでいた──いちおう貴様らでも試してみよう……『飲め』」
『!!』
三体の魔者たちに飲ませたのは、ゲンブにも与えた万能薬。
そして、強制的に命じて飲ませ、効果がすぐに反映されるかを確かめる。
俺の出した物だから嫌がるヤツ、貴重だから取っておこうとするヤツ、そもそも万能薬が何なのか分かっていないヤツ……いちいち問答するのも面倒だったからな。
「それで、セイリュウよ。効果は?」
「……これは、もう少し取っておきたかったですね。ここぞというタイミングの、切り札となっていたかもしれませんのに」
「貴様が俺に命令する気か? 俺が知りたいのは、万能薬がどこまで通用するかだ。先のことでない」
「そうですか。解消されただけでも、感謝をしておかねばなりませんね」
常に繋がって徴収しているのではなく、敗北を引き金に行われる呪いみたいなものだったのかもしれない。
それならほぼあらゆる状態異常を解消できる万能薬で、治せたのも納得だ。
ただまあ、魔獣としての力そのものを奪われるかどうかはまた別の話だがな。
「中央の領域、貴様らが不可侵としている場所だが。まあ、当然居るのであれば、そこにいるだろうな。麒麟、そして黄竜とは中央の守護者として語られているからだ」
どうする……行ってみるか?
正直、後回しにしても問題は無いのだろうが、間違いなく面倒事になるはずだ。
例えばそう、復活したら復活したで、足りない分の力を補給するべく魔者や魔物から奪うために暴れる。
で、その結果どこかしら被害が出て、その対処に縛り中に対応しないとならないとか。
できなくは無いだろうが、そのときの縛り内容によっては難しくなるだろう。
逆に、ここで手を付けるということは、その先に期待ができなくなるということ。
……いやまあ、偽善的には美味しいイベントではあるんだよな。
「……ここは、両方を取るか。【強欲】、いや『慾王』だからな、今の俺は」
「お決まりになりましたか?」
「とりあえず、貴様らは自らの領域に戻り、領地を再び守護しろ。他所へちょっかいを出さないならば、やり方はある程度貴様らに委ねる……遊びでの殺しは止めろ。貴様らの配下もまた、俺の財産なのだからな」
そう伝え、俺は移動を開始する。
目的地は中央──うん、考えるのが面倒になってきたし、とりあえず行ってきます!
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