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偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と欲深き迎撃 その12
しおりを挟む謎の正体は自己時間操作だったビャッコ。
それを知ってもなお、魂ではなく生命力を奪う選択をした俺にブチ切れ。
地面に叩き落としたが、スザクとセイリュウを相手にしながらもまだ咆えている。
……そりゃあまあ、舐めプやってますと告げているようなものだからな。
だが実際、一度触れられたら終わりというのは、恐怖を刻みという観点では没だ。
運がどうだの、アレは偶然だの言われたらお仕舞だからな。
その点、生命力は枯渇するまで奪うために何度も接触する、もしくはずっと触れなければいけないので、それを許した敗北感を味わうことができる。
「ふむ、もう来たか。やはり奴らには、ある程度罰を与える必要があるか」
「いい加減! 死ねぇええええ!!」
激昂のままに振るわれる爪の連撃。
スキルか何かで宙を飛ぶそれらは、さらに時間操作によって加速して射出される。
ただの魔物なら、認識する間もなく殺されるのかもしれないが……。
眷属が手を入れたこの体は、ほんの少し身力を注げば超常的な動体視力をもたらす。
「ハァ、つまらん──“空間断絶”」
「うおぉっ!?」
時間操作に対抗するように、魔法を貯蓄した“欲塗れの宝物庫”から取り出した空間操作による攻撃魔法。
どれだけ早く、力が注がれていようと。
射線上にあるすべてを断つギロチンは、上へ上へと昇って来る爪撃をいっさいの抵抗すら許さず破壊していく。
そして勢いをそのままに、“空間断絶”はビャッコの下……いや、上へ。
飛ばした爪撃の末路を知るからこそ、必死の形相で回避行動を取る。
「…………ふっ」
「~~~~っ!?」
「嘲笑われるのが嫌か? ならば、まず認めることだな。貴様が、俺に劣るとな」
再び宙に展開する大量の“空間断絶”。
使い勝手の良い魔法は、多めにストックしてあるからな。
容量を気にしなくていい、そしていろんな利便性のある“欲塗れの宝物庫”に暇な時はちょくちょく補充しているのだ。
そんなストックを一気に開放。
ギロチンの雨が降り注ぎ、ビャッコを容赦なく襲う。
ただ、その雨も完璧では無いので、時間を加速して抜け出せば良いと思うのだが。
つまりはそういうことだ……永続的に操り続けられるわけではない。
「俺には視えるぞ、貴様が屈服し、頭を下げる姿が。そうなる刻が訪れるその瞬間は、もう間もなくだろう」
「ふざけ──!」
「ふざけてなどいない。俺の言葉を妨げるでない──“時間減衰”」
速めているのであれば、遅めてしまえばいいじゃない。
逃げようとしている最中、掛けられたことでビャッコの動きが緩慢なものに。
だが、再び能力を発動したのか速度を上げて完全に脱出を果たす。
……しかし、ビャッコは大変疲弊した様子で、すぐにその場から動かない。
「どうした、それで終わりか?」
「ハァ、ハァ……う、うるさい!」
「回復しようにも、滞空するために時間を遅らせねばならない。先ほどまで時間を早めていた分、消耗も激しいのだろう?」
加速、そして停滞。
跳躍時のエネルギーを調整することで、長期的に宙で俺と戦えていた。
だが、俺の干渉によって通常以上に切り替えを用いてしまっている。
するとどうなるか……目の前のビャッコはゆっくりと、下に墜ちつつあった。
「俺が手を下すまでも無かったか。せっかくの“奪命掌”も、結局時間切れだ。ハァ、貴様のせいだぞ?」
「り、理不尽な……!」
「“時間減衰”もある、やがて自滅するだろうが……ふむ、ではこうしようか」
施していた魔法を解除。
遅くなっていた時間は元に戻り、息を整えることができたビャッコ。
こちらを見る眼は猜疑心に満ちている。
そりゃあここまで追い込んでおいて、どうして今さらという感じだな。
「何度も言うが、俺にとって貴様を一撃で殺すことなど容易い。しかし、ただ殺して蘇生しても貴様は真の意味で屈服などしないだろう。それゆえに、だ──チャンスをやり、そのうえで降した方が良かろう」
「…………」
「タネを知って、分かってなお敗北。これだけでも充分だと思ったが、それでもまだ諦めぬ闘志を感じた──なんと無駄なことだ。ならば来い、近づければ勝てると思う、そんな浅ましき【強欲】を俺が奪い取ってやろう」
要するに、触れられれば負けるからこそ、勝てないと思われるのは不服なのだ。
一切合切、全力で挑んでもなお届かない絶対的強者、そういう認識をさせたい。
「……は、ハハ」
「どうした、来ぬか? ならば、こちらから行かせてもらうぞ」
「ハハ、ハハハ、ハハハハッ! いい、いいぜいいぜいいぜぇえええ!! 来いよ、こっち来いよぉおお!!」
「──“時空封鎖”」
墜ちていたビャッコは、突然何もない場所で着地してしまう。
俺の使った時空魔法の効果によって、一定エリアの時間と空間が固定されたからだ。
結果、雲すらも固定され、そこが擬似的な足場となった。
すぐにそれを認識したビャッコは、狂ったように笑いながらこちらへ飛んでくる。
正直、ガチの殴り合いだとあんまり長持ちはしないのだが……まあ、もうノリだ。
いちおうの足掻きとして、可能な限りやってみようじゃないか。
「夢現流武具術闘之型──“移転闘法”」
「──『白虎大閃爪』!」
片や瞬時に転移を繰り返すことで、移動を省いて行う闘技。
片や今までよりも巨大な爪の斬撃を、何千と生み出して放つ連撃。
お互い全力を、この瞬間に放つのだった。
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