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偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と欲深き迎撃 その11
しおりを挟むついに始まったVSビャッコ戦。
凄まじい跳躍で宙に居る俺を攻撃してきたが、横紙破りはつまらないので、風の魔法でそのまま再び撃ち落とした。
地上にはスザクとセイリュウが待機しているので、もう一度そちらと戦い始めるはず。
スザクはともかく、セイリュウはある程度回復しているので粘ってくれるだろう。
「ふむ……ならば俺がすべきことは何だろうか。うーん…………思いつかん。まあ、適当でいいだろう──“欲塗れの宝物庫”」
この縛りで重宝している、何でも収納できる【強欲】な荷物入れを起動。
先ほどは魔法を取り出したが、今回は別の物を取り出すことに。
「──『激臭薬』を十本っと」
開けた瞬間、強烈な臭いを放つであろう魔法薬を手放す。
重力の理に従い自由落下の後、試験管に入れた中身が撒き散らされる。
「おっと、忘れてた──“重力檻”」
その場から動けないよう、かつ地面との密着度を上げるべく魔法を投入。
……なんだか、怨嗟の声が下から響いてきた気もするが、まあ気のせいだろう。
スザクは炎と同化して重力を無効化できるだろうし、セイリュウは地面に干渉して植物でいくらでも攻撃できるはずだ。
そして、ビャッコは虎型の魔者。
辰……は微妙だが、鳥よりかは嗅覚が優れているからこそ、散布された刺激臭をより強く嗅ぎ取ってしまうはず。
なんてことを考えていると、突然魔法を操る感覚が途切れた。
無効化されるとかそういうことではない、なんというか……違和感のある終わり方だ。
「──よくも、やってくれたなぁああ!」
「うるさい獣畜生だな。それよりも、なかなかに興味深い能力だ。どのようにして魔法を解いたか、せっかくだから暴いてやろう」
「マジか!? なら! やれるものならやってみろよぉおお!!」
「──“強威剥落”」
試すため、掛けたのは衰弱魔法のデバフ。
一定以下の質を有した魔法で無いと、どれだけ効果のある魔法であっても使うことができなくなる。
掛けられたビャッコに変化は無い。
どうやら、魔法によるものではない──と考察していた直後、再び不自然なタイミングで魔法が解除される。
そして、ビャッコの動きが突然加速し、俺に攻撃を仕掛けてきた。
動き自体は身力で視覚を強化すれば、あっさりと対処可能なものだ。
「喰らえ! 俺の『白虎爪乱』を!」
「恥ずかしげもなく語るな──“消魔”」
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
「……効果なし、これも違うか。とりあえず防ごう──“神聖障壁”」
ストックしている魔法には、神聖魔法も含まれている。
連撃を一連の攻撃と定義し、一度の攻撃を無効化する防御魔法で技っぽいものを防ぐ。
先に使った“消魔”が意味を成さなかったということは、それは魔法ではない。
スキル、あるいは種族能力……もしくは後天的に付与された魔獣としての力。
「やるじゃねえか! おいおい! それで俺の能力は分かったか!?」
「……そうだな、まだ分からん。だが、ある程度予想は付いたぞ」
「──あん?」
「答え合わせをしよう──“時間計測”」
発動対象はビャッコ。
計る時間は──効果付与から終了まで。
計測が終わると、その答えが当たりだったことを俺は知る。
ビャッコが行っていた魔法の強制解除、だがそれはある意味強制では無かった。
「なるほどな。貴様のそれは──肉体の時間操作、だろう?」
「おおっ! 正解! 正解だぜおい! なんで分かった!?」
「そういう魔法だっただけだ。しかし、そうか……そう理解できれば、貴様程度は容易く対処できるな」
ビャッコの仕掛けは不明だが、それがもたらすものは理解できる。
要は魔法を受けたら肉体ごと時間を加速させることで、発動時間を終えているのだ。
どんな魔法だって、発動に動力源となる魔力が必要で、それが有限なのだから、ある意味最強の解除方法とも言える。
ただし、人族がそんなやり方を取れば相応に寿命が削られるだろうが。
その辺り、刹那的な生き方をしておきながら、長生きをする魔物らしい能力だな。
「こうして宙に留まっているのも、ここに居る時点で時間を遅らせているからか。あるいは、戻しているのか? いずれにせよ、タネが分かればどうということも無い」
「おいおい! それじゃあいったいどうやって俺を殺すんだ!?」
「簡単な話だ。貴様を殺すことに、それらは何ら支障など無い。そのまま殺すだけだ」
そう、時間を停めて生命力を減らさないわけでも、時間を遡って元通りにできているわけでもない。
時間を早めて治癒速度を上げることはできても、理不尽な無効化はできないのだ。
ならばそれでも治せないほどダメージを与えて、屈服させればいいだけのこと。
「つまりこうだ──“奪命掌”」
「あん? ただ生命力を奪うだけ──」
「一つ、賢くさせてやろう。この能力は最大値を奪って減らす。効果時間中、少なくとも俺との戦闘中ば返ってこないぞ」
「──ッ!?」
つまりはそういうことだ。
どれだけ時間が経っても、減り続けているならばビャッコは追い込まれていく。
正直、消極的な考えだとは思うが、それでも確実だからな。
魂を奪う“奪魂掌”ではない、あえてこれで下すことに意味がある。
「一撃なんてつまらんだろう? 恐怖を、俺という存在を刻み付けてやる」
「ふ、ふざけるなぁあああ!」
「だが、まずは地上で待つ仲間の下に行ったらどうだ? 安心しろ、きっと彼らも丁重に貴様を迎えるはずだ──“反重力”」
「クソがぁああああ!」
そして、そのまま墜ちていく。
あとはゆっくりと降りていくだけ。
下では再び、激しい闘いが始まっているのだが……ビャッコは先ほど激しく動けない。
逃げるため、背中を見せればさすがに二人相手にやられる。
そうなれば、堂々とやってきた俺に生命力が奪われてさらにヤバくなってしまう。
そう、戦うしか無いのだ。
だからこそ、すでに彼には敗北しか残されていない。
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