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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と欲深き迎撃 その06

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 スザクを捻じ伏せ、隷属させることで国への侵攻を防いだ俺(【強欲】縛り)。
 そして現在、スザクにあることを命じたあと俺は別の場所へ移動していた。


「……ここか」


 魔法で飛びながら確認するのは、どこかへ向けて進軍する魔物たち。
 その方角は北、俺の国であるハリグンではない。

 そこにあるのは──


「ゲンブの国……たしかリュウグウ(?)に侵攻する軍だな。ただ、系統に法則性が無く混沌としているから……両方の軍から切り離された連中か」


 崖に囲われた入り江に存在する城。
 そこを目指して北進する、多種多様な魔物たち……だがそこに意欲を持つ者は少なく、責付かれて嫌々来ているようだった。

 兵士っぽい格好の者は極少数、抵抗する者や進軍を遅らせる者を急かしている。
 そんな光景を上空で眺め……どうにかするのが偽善か、と思い実行に移った。


「“欲塗れの宝物庫オール・フォー・マイン”──“微睡乃霧ヴィジョンフォグ”」


 魔法をストックしている能力から取り出した、幻霧魔法による真っ白な霧。
 突然自分たちを覆った霧に戸惑う彼らは、やがて虚ろな瞳になり……意識を失う。

 兵士は装備で耐性が付いていたのか、最初は無理やり起こそうとしたり原因である俺を探そうとしていた……が、彼らもまた時間経過で抵抗に失敗して同様の状態になった。


「ふむ……“奪憶掌メモリーテイカー”」


 そんな兵士たちに対し向けるのは、記憶を奪う掌。
 触れた瞬間、流れ込んでくるさまざまな情報──本来なら、耐えられなくなる。

 いちおう、【強欲】の能力を育てればそれに対応した能力も入手できた。
 が、今回はそちらを使わず[夢現書館]に情報のすべてを注ぎ込んでいく。

 理由は単純、[夢現書館]の方が眷属に適した情報サーバーだから。
 能力の方も、用途次第では便利なんだけども……あんまり使わないんだよな。


「……ヤツらがセイリュウ、そしてビャッコであるか」


 一度預けた記憶を再び、ただし今度は限定的に情報を絞って取り出す。
 索引機能のようなもので、関係している記憶のみが俺に届く。

 混成軍であるがゆえに、両陣営からそれぞれのトップを知る兵士が混ざっていた。
 そこまで位が高くないからか、拝謁などの経験者はいなかったが……それでも見れる。


「しかし、どっちもイケメンだった……クソが、忌々しい」


 今なら【強欲】だけじゃなく、【憤怒】や【嫉妬】まで発動させられそうだ。
 アレか、四神パラダイス略してシシパラでもやりたかったのだろうか?(錯乱)


「だが、居るはずの麒麟、あるいは黄龍か応龍の存在は誰も知らなかった。ゲンブも知らないと言っていたし、ある程度パクったスザクの記憶からも確認できなかったからな……どういうことだ?」


 赤色の世界で、それぞれの名を冠した存在が居ることは確認できている。
 なればこそ、何らかの形で現れるはず……懸念材料として、考えておかないとな。


「まあいい。それよりも今は──この先か」


 西と東、その双方から本隊による大侵攻が行われている。
 それを感知できなかったのは、彼らがトップである魔者の支配下に収まっているから。

 上手く探知できないよう、魔獣としての性質で何かをやっているのだろう。
 しかし、そちらも記憶経由である程度場所の割り出しに成功した。


「防御のゲンブと持久のスザク。そして、攻撃のビャッコと撹乱のセイリュウ……どちらに狙いをつけるのがいいのやら」


 攻撃に特化した獣系の魔物を統率しているビャッコ、そして妨害やらを得意とする植物系の魔物を統率しているセイリュウ。

 ……セイリュウの方は意外かもしれない。
 だが、スザクの住処同様に青竜の『青』は今でいうところの『緑』──つまり植物系のことだからな。

 これは赤色の世界の迷宮で、ユラルが植物関係の試練を受けたことでも明らかだ。
 ……ついでに言うと、この島の東方はかなり植物が生い茂っているし。


「精鋭が集っている以上、ゲンブの居城はかなり厳重だ。攻撃に特化していようと、そう容易くは破れない……が、総大将にまでその理屈を当て嵌めるのはやや難しい」


 ビャッコ自身が出向き、暴れ回れば防ぎきるのは難しいだろう。
 そうして抉じ開けられた場所から、さらに軍が入ってきて……そんな感じか。


「だが、セイリュウの軍が撹乱をして隙を見せれば、元よりすべてが城へと攻め入って来るだろう。特に、撹乱の定義が曖昧だ……小難しい方を先に潰す方が吉か」


 ファンタジーな自然界には、それこそ洗脳すら可能な植物が生えている。
 それらを使い、敵を自らの駒にする……などとやられては困るからな。

 もちろんすべて、これまでのすべてが俺の妄想に過ぎない。
 しかし、備えておいて損は無い──あと、損するのも俺じゃないからな。


「よし、決まりだな。セイリュウを先に片づけるとしようか。ビャッコはゲンブ自身に足止めをさせ、時間を稼がせればいい。それもできないのであれば……まあ、そのときはそのときだろう」


 すぐに飛んで……行きたいところだが、ここで先にやっておかないとならないことが。
 霧で微睡んでいる者たち、彼らの有効活用である。

 自ら生み出して霧なので、魔力を籠めれば後からでも幻惑の内容を変更可能だ。
 さて、どういったものにしようか……俺にとって都合がいい内容なのは確定だな。


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