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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と欲深き迎撃 その05

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 スザクは切り札である地底湖フィールドへ俺を招いた。
 名前の由来である朱雀は、意外にもその住処が水系の場所だとされている。

 だからだろう、水気が多い場所だというのにスザクは活性化していた。
 まあ、何らかの条件はあるだろうが……ともあれ、強くなったことに変わりはない。


「だからこそ、その我欲を奪うこともまた俺の使命か──“奪魔掌マジックテイカー”」

「っ……またその能力か! だが、もうタネは分かっているぞ! 触れられなければ、どうということもない!」


 湖に着水したスザクが手を掲げると、水が上に登っていく。
 だが水から離れると、水滴すべてが火に変換され──炎が渦巻いていった。

 スザクの予想通り、たしかに【強欲】の能力は手を介して発動している。
 移動中は裏技で拡張をしていたが、それでも手を模った魔力が必要だった。

 リスクが少ないからこその、発動部位による制限なのだろう。
 ついでに言うと、裏技をやったときも手で触れるよりも変換効率が低かったし。

 なので炎は触れた部分であれば処理できるが、それ以外の場所だと避けられない。
 自慢げに言うということは……えっ、それだけを信じて攻撃してきているのか。

 なお、渦巻く炎は普通に躱して回避中。
 翼は無いので、“飛行フライ”をストックから取り出して使っている。


「ハァ……“欲塗れの宝物庫オール・フォー・マイン”」

「無駄なことを! たとえどのような魔法を出そうと、この場に置いて僕を超えることはできない!」

「それが貴様の魔獣としての力か? だが、関係あるまい──“強制脱水ディハイドレート”」

「なっ……水が!?」


 スザクの言うことが正しいなら、この領域では無敵に近いのかもしれない。
 だがそれは、火を使うことでしか発揮できず、その火も水を変換する必要がある。

 見る限り、水自体も何やら加工しているみたいだったが、使うまでは水そのものだ。
 ならばどうするか──触媒とされる前に、湖の水を全部抜いちゃえばいいじゃない!

 まあ、そんなノリで発動した禁書魔法。
 その効果は覿面で、湖の水を根こそぎ俺の下へ集めていく。

 途中でスザクが抵抗したからか、多少は水も残っている。
 しかし、それはもう湖というより池……サイズがワンランクダウンしているな。


「──“奪物掌アイテムテイカー”。ふむ、要らぬ物ではあるが貰っておくとしよう」

「き、貴様!」

「ずいぶんと余裕の無い表情だ。顔を合わせた時の…………いや、面倒だ。何でもない」

「最後まで言えぇえええ!」


 炎が高ぶった感情と共に爆発するが、まったく気にせず飛んだ状態で回避。
 そんな姿を見てさらに怒り、どんどん冷静さを欠いていくスザク。

 まあ、創作物の火属性使いにありがちな、感情による強化っぽい現象も起きている。
 つまり、それなりに火力は上がっているのだが……うん、まだ足りないな。


「──“奪魔掌”」

「アァアアア!!」

「……もういい、つまらん──“奪魂掌ソウルテイカー”」

「ァ──」


 朱雀、そして他の神鳥の伝承からして、おそらく命にはストックがあったはず。
 どうせ殺されても、蘇ってこちらの不意を突く……とかそんな展開だ。

 なので、容赦なく魂を奪う。
 命を奪う、ではなく魂そのものを。
 だが、それで終わりにするわけじゃない。
 命が勿体ない、ならば有効利用するだけ。


「──“永劫隷属エンドレスレイブ”、“完全蘇生パーフェクトリザレクション”」


 禁書、禁忌魔法は他の魔法よりも多めにストックしてある。
 後者は字の如く、そして前者もまた字で察しがつく魔法だろう。

 死んでも隷属をさせる魔法。
 それは禁書に記された禁断の魔法。
 だがそれは同時に、肉体と魂を強制的に紐づける術にもなる。

 元より、完全な蘇生を約束する魔法を使っているが、上手く定着させるのはまた別問題なのだ……ゲーム的なたとえを出すと、この方がデスペナが少なくて済みます。

 というわけで、無抵抗な状態で隷属したうえでデスペナを減らして蘇生。
 蘇ったスザクは、しばらくボーっと虚空を見つめている……まあ、普通はそうなる。


「今の内に……『無駄口を叩くな』、『俺の命令は絶対』、『従わないなら苦痛を』。そして、『俺以上の権限による命令は可能な限り無視、あるいは身命を賭して抵抗しろ』」

「!」

「最悪、神からの勅令で強引に動かしてくるからな……これぐらいしておかないと。もういいか、さっさと『起きろ』」

「っ……あががががが」


 命令に背いたため、スザクは魂魄へダメージが入っていることだろう。
 隷属の首輪などは、肉体なのだが……使った魔法が魔法だからな。


「さぁ、俺に従え。まずはそうだな……」

「くっ、殺せ……」

「…………マジでつまんねぇ。女騎士の真似事なんてするなよ」


 だが、隷属させた以上何もしないというのもこれまた勿体ない。
 しばらく悩む……のも無駄なので、さっさと次の命令を与える。


「ハリグンに向けた軍は撤退させろ。そして以降、攻めることを禁ずる。形式上、属国ということにしておく」

「……畏、まり、ました」

「あとは────────だな」

「! そ、それは……ぐがぁああああ!」


 嫌がる命令も、魂から隷属させられているスザクに拒否権は無い。
 そして俺は、ある場所へ向けて再び移動を再開するのだった。


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