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偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と欲深き迎撃 その04
しおりを挟む北を統べる魔者スザクとの戦い。
伝承によると、スザク──いや、朱雀は鳳凰や不死鳥、神鳥ガルーダと同一視されるような存在だ。
少なくとも、鳳凰の要素は確認済み。
戦闘モードに入ったスザクの背からは、本でよく見た鳳凰らしき翼が展開されている。
「ふふふっ、そのままだと死んじゃうよ?」
「俺の行動の自由を奪うな。貴様が何をしようとも、俺は俺の欲を満たす」
「! ……何を言って」
「黙ってみていろ。俺はあらゆるものを奪う『慾王』だ──“奪魔掌”」
はためく翼が炎を生み出し、この城そのものをさらに焼いていく。
だが、俺は掌をかざすだけでいい──宣言と共に、炎は手の中へ吸い込まれていった。
魔力を奪う“奪魔掌”。
その対象は幅広く、魔力を介している現象であればほとんどは取り込める。
……まあ、ナースの“虚無”など、無理な物もあるんだけど。
だが、少なくともスザクの炎程度なら──
「余裕だな」
「くっ……なら、これでどうだ!!」
「ほお、鳥の魔物か……それに限り、命を与えるのが貴様の力ということだな」
炎の中から生み出される魔物たち。
鳳凰はたしか、鳥の王だったか……ついでに言うと、鳳凰やフェニックスなどは死と再生の象徴とされている。
スザクは魔者であり、魔獣としての性質を与えられたネームド個体。
それらの伝承を再現するための力を、先天的か後天的にか有しているのだろう。
鑑定スキルで覗いてみても、その情報はほとんど開示されない。
迷宮産の魔物は視やすいのだが、野生の魔物は強いと分かりづらい。
そして、隠蔽系のスキルを持っていたり強力な個体になると、生み出した分体すらその影響で見づらくなる。
そりゃそうだろう、そのスキルの影響や強者の波動を受け継いでいるわけだし。
だからとりあえず炎鳥(仮)として扱い、対処を行っていく。
「武器、武器──“欲塗れの宝物庫”」
「これは……大量の武器!?」
「悩むのも面倒だな、銘も無き品々ではあるが……それはそれで好都合か」
「ふ、防ぐんだ!!」
「無駄だ──貫け」
もう、やっていることは某慢心の王様。
意味もなく腕を組み、背後に展開された穴の中から武器を射出していく。
違うことと言えば、穴の数が一つなのと出てくる品がそこまで価値の高くない物というところ……明確なイメージをしていなかったからか、失敗作ばかりが展開されていた。
失敗作、俺の作り上げた品々。
だがそれらは、『生産を極めし者』と生産神の加護によって格を引き上げられている。
火力は火の鳥たちよりも高い。
おまけに奪った身力が自動供給されることで、武器に仕込んだ能力が発動──雷やら氷やら、さまざまな事象が発生する。
「ふむ……火を取り込むと再生するか。それは貴様も、当然有しているだろうな」
「っ……さて、どうだろうね」
武器の中には、火を生み出すものもあったのだが……それを浴びた鳥たちは、どの個体も活性化していた。
そのことから分かるのは、フェニ同様に火の影響を受けること。
そして、その性質は彼らを生み出したスザクも有していることだ。
「誤魔化すな、戯けが。時間の無駄だ……すべて凍てつけ──“豪烈深雪”」
「こ、これは……!?」
「なんだ、この程度か……他愛無いな」
武器の代わりに取り出したのは、ストックしていた豪雪魔法“豪烈深雪”。
一寸先すら見えなくなる猛烈な吹雪が、城の内部で吹き荒れる。
スザク、そして炎鳥たちはその影響で纏う火が一気に減衰。
鳥たちに至っては、雪にその熱量を完全に奪われて消滅していく。
また、その冷気は城全体に伝わる。
火そのものは消えずとも、領域内の魔力は水や氷のものへ……つまり、火の力を発現しづらくなっていった。
「燃えることしか能の無い雑魚であれば、これでもう仕舞だな」
「…………くっ、くくっ、ふははははは! そうだね、もしそうだったら終わりだったかもね。でも残念、僕はまだ負けてない!」
「そうか……ならば足掻け。そして、俺を飽きさせるな。貴様程度に時間を使った、その価値があったと証明しろ」
「この……いつまでそんな態度を取っていられるか楽しみだよ! ──炎よ!!」
スザクを中心に炎が燃え盛ると、城はその足元から融解していく。
穴の開いた場所から下層へ、そしてそこにも穴が開いて……その繰り返しだ。
防ぎようはいくらでもあったが、何をしたいのか気になったので見逃した。
それが分かっているからか、こちらを睨む顔は美丈夫でもやや怖い。
そして、一層目すらも焼き尽くして開いた穴の先──
「……地底湖か」
「そう、この山はあくまでもフェイク! これこそが僕の力の根源さ!」
ぽっかりと広がる底は、巨大な湖だ。
周囲を漂うのは水の魔力……だが、それらによってスザクは強化されていく。
「湖、あるいは海……それが貴様の住処なんだろう? 知っていれば、予期できることではないか」
「!? な、何者なんだ!! それを知っているのは、ほんの僅かなはずだぞ!」
「知識欲をも奪っていただけだ。まあ、貴様には関係の無いことだがな」
ゲンブの一件で、魔者と魔獣で二種類の能力を持つことは予想できていた。
が、バカ正直には言わずあえて別の方向へ誘導する。
これは後の布石だ──だからこそ、とっととその余裕を打ち砕いてやろう。
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