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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と欲深き迎撃 その03

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 北の支配者スザクの配下による侵攻。
 それを自身の部下たちに任せ、俺は単独でその支配領域へ向かっていた。

 縛りプレイは【強欲】の行使。
 ただし、これはかなり幅広い選択肢が取れるので、正直縛りというにはかなり緩い……なのでもう一つ、枷を用意していた。


「チッ、やっぱりノリで使ったのがすこし不味かったか? どんどん欲が高まってきているな……」


 本来、【強欲】の所有者は常時強い衝動に襲われる。
 集めたい、己の望む物を……たとえ他者をどれだけ犠牲にしても、そんな感じの欲を。

 前回、【暴食】で空腹度を再現していたように、今回はそんな物欲度を用意した。
 常時数値は高まり、蒐集した物を使えば使うほどその速度は加速的に変化する。

 静める方法は奪うことだけ、無い物を補い永遠の渇きを一時的に静めるのだ。
 まあ、奪う物は何でもいいので、どうとでもなるんだけどな。


「──“奪魔掌マジックテイカー”、“奪命掌ライフテイカー”」


 左手と右手、両手にそれぞれセットするのは相手から指定したものを奪い取る能力。
 それを向けるのは、俺の国ハリグンへ向かう多くの魔物たち。


「魔術のストックっと……“魔力ノ手マジックハンド”」


 転移魔法陣同様、予め保存していた魔術を引っ張り出して発動。
 魔力によって再現される巨大な両手、それらは空を飛ぶ魔物たちを挟み込む。

 その動作に合わせ、俺自身の両手もピッタリと重ね合わせている。
 するとどうだろう、魔力で創られた手の中に居る魔物たちが見る見る痩せ衰えていく。


「このやり方でも、ちゃんと欲を抑えてくれてよかった……さて、どんどん奪うぞ」


 奪った身力はストックされるので、これもまたあとで利用することができる。
 もちろん、その分だけ衝動が増えるのはご愛敬……あんまり使いたくないな。

 まさに自転車操業。
 減った分だけ増やし、増えた分はすぐ減っていく。

 一度魔術を仕舞い、必要魔力量を増やす代わりに生やす手の数を増量。
 奪う量をどんどん増やし、魔物たちの数を減らしていく。

 そうして奪いながら進んでいくと、やがて山の上に城のような物を捕捉する。
 今まで見えなかったのは、そのためだからか……そう思えるほどに燃え盛っていた。

 その中には当然、強力な魔力を有する個体の反応もあった。
 炎という環境に相応しい、火属性の魔力である。


「よし、掴めたぞ……[天華]よ」


 俺がそう告げると、これまではただ飛んでいただけの透明な槍に変化が。
 速度は加速し、城へ向けて一直線……飛んでくる魔物たちは容赦なく貫いていく。

 そうして糧となった魔物に関しては、俺が直接触れて更なるドレインを行う。
 死んでも生命力を供給し、一時的に蘇らせてから殺す……なんてこともやっている。


「! ぐ……かはっ! き、貴様は!?」

「死にぞこないよ。貴様に求めるのは、生き足掻くことだ。我が腕の中で、大人しく眠ることを許容するか?」

「ふ、ふざけるな! たとえ──がはっ!」

「……長いぞ。俺の貴重な時間を奪うとは」


 無意味ではない、一時的に蘇ると足掻くように魔力を生み出すのだ。
 非効率的な魔力変換、だがそれを奪うだけの俺にしたらそれはちょうど良かった。

 適当に横暴な台詞を吐きながら、暇潰し感覚でドレインを続けていると──穂先がもう間もなく城へ……といったところで、固い感触が衝撃として足へ伝わってくる。


「障壁か……無駄なことを。[天華]よ、そのまま征け」


 オリジナル神器『無槍[天華]』。
 神すら殺す槍として創り上げた逸品が、障壁程度で阻めるわけがない。

 ほんの数秒、防いだ障壁も次第に罅が入っていき……やがて槍を中心として崩壊。
 すべてのエネルギーをこちらに回そうとしていたのか、障壁そのものが消え失せた。

 向こうも驚いていることだろう。
 止まっていた時間を取り戻すかのように、[天華]はその速度を一気に加速。

 俺はそのまま文字通りの城壁を貫き、敵の本元へ辿り着く。


「急で済まない。だが、正当なアポなど時間の無駄だからな。初めまして、ハリグンの王である『慾王』だ」

「……慾王? たしか名前は、餓王と聞いていたのだけど?」

「今はその名ではない。貴様に説明する必要など無いだろう。だが、間違いなくゲンブを下したのは俺だと明言しておく」


 城の中で待っていたのは、赤髪の美丈夫。
 中華風の衣装を身に纏う男は、パッと広げた扇で口元を隠しながら俺に尋ねてきた。

 だがそれも、俺がゲンブを倒した男だと知れば一転。
 その感情を表すかのように、周囲の温度が急激に上昇する。


「そうか……君が。なら、ここに一人で苦多目的は一つかな? 自分の負けです、どうか見逃してくださいって頭を下げに──」

「時間を無駄にしたくない、そう伝えたはずだがな。逆だ、逆。貴様が俺の軍門に下ることを許してやる。頭を下げ、媚びへつらえ」

「……冗談が好きなのかな? でも、あんまりセンスは無いんだね。なんだか、体が熱くなってきちゃったよ」

「知るか。従わないのであれば、従わせてやろう。来い、遊んでやる」


 と言いつつ、すでに[天華]は収納済み。
 ……いやだってほら、維持コストがもう回収できなくなってたから。

 こちらが無防備で来たとも知らず、何やらいろいろと語りながら本気モードっぽい姿になり始める朱雀……さて、どうやって演出しようか。


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