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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と欲深き迎撃 その02

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 再び魔物の領域で、王として欲のままに暴れることを決めた翌日。
 俺は玉座にて、配下である狗妖獣……そしてゲンブの使者の話を聞いていた。

 神である観測者からの情報は、あくまで遠くから視れば分かる程度のもの。
 それ以上に必要な情報は、それを知る者から集めなければならない。


「──ふむ、数はそれなりか。その程度であれば、どうとでもなる」

「おおっ! さすがは餓……いえ、慾王様ですね!」

「うむ。であらば、そこの使者よ。すぐに準備を始める必要があるな」

「か、畏まりました……ですが、資材がまだ足りておら──っ!?」


 意味もなく、脚を組んで指を鳴らす。
 すると宙に開いた穴の中から、膨大な量の資材が溢れ出してくる。

 防壁を修復するための物、回復アイテム、そしてお手軽に扱える……兵器。
 さまざまな物が、そうしてこの場に突如として現れた。


「ふむ、これでは足りぬか?」

「い、いえ!! 足ります、充分にありますので!!」

「そうか。では、さっそく取り掛かろう。皆の者、向かうのであればついて参れ」

『ハッ!』


 アイテムは再び指を鳴らせば、すべて元の穴の中へ吸い込まれていく。
 所有権を持つ品であれば、こういうことをすることもできる。

 ……まあ、無くても条件を満たせばできるのだけれど。
 ただ放蕩の限りを尽くす、帝城の時とは別のやり方も【強欲】には可能なのだ。

 援軍である狗妖獣クー・シーの兵士たち、そして使者と共に外へ。
 そして、準備ができたところで右手を何も無い場所へかざし──あるモノを取り出す。


「開け」
《──“欲塗れの宝物庫オール・フォー・マイン”》

「こ、これは……転移陣!?」

「ただ喰らうだけの餓王とは違い、今の俺はこれくらいのことならば余裕だ」


 理屈は単純、予めストックしておいた転移魔法陣を、座標の書き換えを済ませてからここに取り出しただけ。

 奪った物は自分の物、ならば好きなように弄れる……そんなジャイアニズムに富んだ能力だからだろう、一部を変更することも、俺自身が行ったことが無い場所でも可能だ。

 ただし、既知ではない場合、自身の領土で無いとダメみたいだが。
 その辺りは、別の権能が担当している部分なんだろうな。

 ともあれ、そうして上手く転移魔法を用意することができた。
 彼らと共に転送陣に乗り、俺たちは最前線へ文字通り飛んでいく。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 オルメガ大陸 南南西


 南の領域を統べる魔者『スザク』。
 北の支配者である『ゲンブ』同様、その名は中国で崇められる四獣の名を冠した存在。

 だがそれは、運営神によって人為的に与えられた名前だ。
 とある実験、その産物が魔者であり魔獣としての力を持つ彼らの正体である。

 ゲンブと同じ法則を当て嵌めるならば、種族は炎を操る鳥系だろうか。
 だからだろう、ハリグンを攻めてくる軍勢もまた飛行系の魔物たちだった。


「──ふはははっ! 圧倒的ではないか、我が軍は!」


 そんな中、俺が持ち込んだ多くの資材。
 それらによって、状況は大きく変化した。

 魔物でも扱える兵器、マシンガンやバリスタといった武器が火を噴く。
 弾丸は俺特注の退魔性能付き、当たっただけで致命的なまでのダメージを与えられる。

 狗妖獣、そしてゲンブの配下である魚介類の魔物たち。
 彼らでも扱えるよう、基本的には台座付きで魔力さえ籠めれば発射する仕様だ。 

 自動装填はされないが、終われば俺が収納して新しい物を出している。
 空を飛ぶ魔物、そして少数だがそうではない魔物であろうと容赦なく撃ち抜いていた。


「これならば、しばらくは警戒するはずだ。では、これより侵攻を開始する」

「ほ、本当に……お独りで?」

「ああ。自衛は必要だ、貴様らが貴様らの得た物を守るためだ。しかし、これから先はその域を超える。攻めること、それは奪うことだ。そしてそれは、俺から奪うことを意味する……」


 要は全部奪いたいので、邪魔はしないで欲しいということ。
 元より、狗妖獣は安寧を求めて俺の配下になったのだ……これ以上はやらせない。

 自分の住処を守るため、戦う……それは仕方の無いことだろう。
 だが、己の糧とするために暴れるのは、それとまったく違っている。


「俺の、邪魔をするか?」

『ッ!?』

「……まあいい。俺はこれから、スザクの下へ向かう。貴様らにはその間、ここを死守することを命じる。無事、俺の財を守り抜いたのであれば、少しは認めてやろう」

『は、はい!』


 いい返事を聞いたところで、俺もある程度準備を始めた。
 指を鳴らし、装備を入れ替え──纏うのはビシッと決まった礼装。


「あとは……来い、[天華]」


 取り出すのは透明な槍。
 その柄に足を乗せると、傍から見れば空中浮遊のように見えるだろう。

 魔法も使わず、スキルのエフェクトも発生しないでの浮遊。
 分かる人には分かる凄さである……まあ、本当に凄い人は透明な槍を知覚するけども。

 そして、[天華]にお願いをしてスザクが居る領域へ向かってもらう。
 ある程度近づけば、その魔力反応を掴むことができるので問題ない。

 ──さぁ、戦争を始めようじゃないか。


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