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偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と欲深き迎撃 その01
しおりを挟むオルメガ大陸 ハリグン
終焉の島からやや北へ、大陸として存在するそこは魔物たちが闊歩する修羅の領域。
大量の魔物が日々戦闘を繰り返し、存在進化を繰り返している。
そんな地で俺は、なんやかんやで王様として一定の領地を統べていた。
狗妖獣たちを従え、大陸に君臨する五体の魔者の一体を下し……今に至る。
この大陸における俺は、魔人族の『餓王』という存在を演じていた。
……がしかし、前回はよくても今回はその設定が問題になる。
「……あの、餓王様?」
「ん、どうかしたか?」
「あ、あの……その、雰囲気が、違われている気が……」
「……ああ、言ってなかったな。俺は一定周期で性格が変わるんだ。記憶はそのままだから、これまで通りで構わない。ただ、今の俺は餓えてはいないがな」
だいぶ強引なテコ入れだが、魔物って進化すると割と常識からズレるので問題ない。
頭が増えて人格が増えたり、アンデッドとして好む物が変わったりな。
なお、そんな違和感だらけの設定も、魔物たちが顔で個を認識していないのである程度は通る……彼らは魔力で個を判別しているからだ。
「な、なるほど……で、では、これからはどうお呼びすれば?」
微妙に魔力の波長……というか色的なものに変化を加えているため、その違いでこれからは見極めてくれるだろう。
だからこそ、今の状態ではどういった名で呼べばいいのかを聞いてくる。
正直、決めていなかったが……思考系スキルをフル回転させ、名を決めた。
「──『慾王』、この状態の俺はそう呼ぶようにしろ」
金色の瞳を昏く光らせ、そう俺は答える。
慾、つまりエゴに基づく欲望──それはまさに、【強欲】ではないか。
◆ □ ◆ □ ◆
というわけで、今回は【強欲】の力を引き出しながらの縛りプレイだ。
前回と違って、これといった目的は無いのだが……まあ、いつもの思い付きである。
俺の名前を聞いた狗妖獣は、すぐにそれを触れ回るために駆け回った。
そんな中、俺は独りである人物……そして神物に会いに行く。
「──巫女、用件は分かっているな?」
「……お待ちしておりました。慾王様、でよろしいのでしょうか?」
「ああ、それでいい。それより、さっさと始めてくれ」
「畏まりました」
傍から見れば二足歩行のワンコ。
そんな狗妖獣の中でも、彼女は巫女服を来た特殊な個体だ。
彼女はその見た目に相応しく、巫女としての仕事──神との交信ができる。
そして俺がここに来たのは、そんな力で神と話すためだ。
祈りを捧げてもらうと、社に奉っている木彫りの人形に空から降ってきた光が宿る。
光はやがて人形中に行き渡り──俺の脳内に直接意思を伝えてきた。
《お久しぶりですね。神非ざる身にして、神の域に辿り着きしお方》
「長いな……まあ良い、貴様も相変わらずだな、観測者よ」
《それこそが、私の使命ですので》
観測者、それは狗妖獣たちが捧げた祈りによって彼らへ協力する神。
ただし、上級神──おそらく運営神──によって、干渉は最低限に制限されていた。
それゆえの観測者、神としての役割ではなく己が望んだ観測者。
だが、それでも神……運営神という存在が居る中でも活動が許されている神だ。
そのすべてを信用するわけにはいかない。
信頼もまた同じこと、それは狗妖獣への感謝から行われていることなので、運営神が取引を持ち掛ければ裏切る可能性があるしな。
「本題に入ろう。俺が留守の間、よからぬ企みはしていないであろうな」
《それは……私が、ということでしょうか》
「それもある。だが、狗妖獣に危険が及ぶ以上それはまだあるまい。早急に対処すべきは四体の魔者、奴らの動向を聞きたい」
《……分かりました。では、信用されるためにも観測者として出せる限りの情報をお伝えしましょう》
神による情報伝達は、イメージによる抽象的なものだ。
故に神託は、受信者である聖職者や巫女が高い感受性を持たなければならない。
まあ、俺の場合は思考系スキルが優秀なので全部の情報を保存したうえで整理できる。
イメージごと受け取った情報を、そうして調べると……分かったことが一つ。
「……北の次は南か」
《留守の間、ゲンブに代わりを務めさせていましたね。それが露見し、東西の魔者が北へ向かいました。そして、南の魔者がこちらへ侵攻してきます》
「ずいぶんとタイミングが良いのだな」
《それはゲンブが、守りに長けていたからこそです。予め築かれた城塞、そしてゲンブの力があったからこそ、ここまでバレずに持ち堪えていたのです》
先に攻められていたから、そんな理由で一番最初にゲンブの領域を陥落させたが……どうやら正解だったようだな。
お陰で時間稼ぎが上手くいき、俺が来る今日まで持っていた。
……本当なら一番最初に会った狗妖獣、彼はその件を報告したかったかもしれないな。
「そうか……俺から奪おうとしているのか。そして、東西の者たちがこちらへ来ないのは舐めている証拠なわけだ」
《現状、ゲンブが実力で敗れたとは思っていないのでしょう》
「……なるほどな。神よ、観ているがいい。今度は南、そして東西を潰す」
東西はまあ、ゲンブに任せるとして。
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