上 下
2,267 / 2,519
偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と欲深き迎撃 その01

しおりを挟む

 オルメガ大陸 ハリグン


 終焉の島からやや北へ、大陸として存在するそこは魔物たちが闊歩する修羅の領域。
 大量の魔物が日々戦闘を繰り返し、存在進化を繰り返している。

 そんな地で俺は、なんやかんやで王様として一定の領地を統べていた。
 狗妖獣クー・シーたちを従え、大陸に君臨する五体の魔者の一体を下し……今に至る。

 この大陸における俺は、魔人族の『餓王』という存在を演じていた。
 ……がしかし、前回はよくても今回はその設定が問題になる。


「……あの、餓王様?」

「ん、どうかしたか?」

「あ、あの……その、雰囲気が、違われている気が……」

「……ああ、言ってなかったな。俺は一定周期で性格が変わるんだ。記憶はそのままだから、これまで通りで構わない。ただ、今の俺は餓えてはいないがな」


 だいぶ強引なテコ入れだが、魔物って進化すると割と常識からズレるので問題ない。
 頭が増えて人格が増えたり、アンデッドとして好む物が変わったりな。

 なお、そんな違和感だらけの設定も、魔物たちが顔で個を認識していないのである程度は通る……彼らは魔力で個を判別しているからだ。


「な、なるほど……で、では、これからはどうお呼びすれば?」


 微妙に魔力の波長……というか色的なものに変化を加えているため、その違いでこれからは見極めてくれるだろう。

 だからこそ、今の状態ではどういった名で呼べばいいのかを聞いてくる。
 正直、決めていなかったが……思考系スキルをフル回転させ、名を決めた。


「──『慾王』、この状態の俺はそう呼ぶようにしろ」


 金色の瞳を昏く光らせ、そう俺は答える。
 慾、つまりエゴに基づく欲望──それはまさに、【強欲】ではないか。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 というわけで、今回は【強欲】の力を引き出しながらの縛りプレイだ。
 前回と違って、これといった目的は無いのだが……まあ、いつもの思い付きである。

 俺の名前を聞いた狗妖獣は、すぐにそれを触れ回るために駆け回った。
 そんな中、俺は独りである人物……そして神物に会いに行く。


「──巫女、用件は分かっているな?」

「……お待ちしておりました。慾王様、でよろしいのでしょうか?」

「ああ、それでいい。それより、さっさと始めてくれ」

「畏まりました」


 傍から見れば二足歩行のワンコ。
 そんな狗妖獣の中でも、彼女は巫女服を来た特殊な個体だ。

 彼女はその見た目に相応しく、巫女としての仕事──神との交信ができる。
 そして俺がここに来たのは、そんな力で神と話すためだ。

 祈りを捧げてもらうと、社に奉っている木彫りの人形に空から降ってきた光が宿る。
 光はやがて人形中に行き渡り──俺の脳内に直接意思を伝えてきた。


《お久しぶりですね。神非ざる身にして、神の域に辿り着きしお方》

「長いな……まあ良い、貴様も相変わらずだな、観測者よ」

《それこそが、私の使命ですので》


 観測者、それは狗妖獣たちが捧げた祈りによって彼らへ協力する神。
 ただし、上級神──おそらく運営神──によって、干渉は最低限に制限されていた。

 それゆえの観測者、神としての役割ではなく己が望んだ観測者。
 だが、それでも神……運営神という存在が居る中でも活動が許されている神だ。

 そのすべてを信用するわけにはいかない。
 信頼もまた同じこと、それは狗妖獣への感謝から行われていることなので、運営神が取引を持ち掛ければ裏切る可能性があるしな。


「本題に入ろう。俺が留守の間、よからぬ企みはしていないであろうな」

《それは……私が、ということでしょうか》

「それもある。だが、狗妖獣に危険が及ぶ以上それはまだ・・あるまい。早急に対処すべきは四体の魔者、奴らの動向を聞きたい」

《……分かりました。では、信用されるためにも観測者として出せる限りの情報をお伝えしましょう》


 神による情報伝達は、イメージによる抽象的なものだ。
 故に神託は、受信者である聖職者や巫女が高い感受性を持たなければならない。

 まあ、俺の場合は思考系スキルが優秀なので全部の情報を保存したうえで整理できる。
 イメージごと受け取った情報を、そうして調べると……分かったことが一つ。


「……北の次は南か」

《留守の間、ゲンブに代わりを務めさせていましたね。それが露見し、東西の魔者が北へ向かいました。そして、南の魔者がこちらへ侵攻してきます》

「ずいぶんとタイミングが良いのだな」

《それはゲンブが、守りに長けていたからこそです。予め築かれた城塞、そしてゲンブの力があったからこそ、ここまでバレずに持ち堪えていたのです》


 先に攻められていたから、そんな理由で一番最初にゲンブの領域を陥落させたが……どうやら正解だったようだな。

 お陰で時間稼ぎが上手くいき、俺が来る今日まで持っていた。
 ……本当なら一番最初に会った狗妖獣、彼はその件を報告したかったかもしれないな。


「そうか……俺から奪おうとしているのか。そして、東西の者たちがこちらへ来ないのは舐めている証拠なわけだ」

《現状、ゲンブが実力で敗れたとは思っていないのでしょう》

「……なるほどな。神よ、観ているがいい。今度は南、そして東西を潰す」


 東西はまあ、ゲンブに任せるとして。
 攻めてきている南に関しては、どうせ対処しなければならない……さて、どうやってやろうかな。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...