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偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者とデート撮影 その03
しおりを挟む赤色の世界 紅蓮都市
かつてそこには、『終炎の海溝』と呼ばれる巨大な穴があった。
今はそこに蓋がされ、一つの都市が築かれている。
そのうえで、蓋の内側には迷宮が造られ自給自足が可能になっているが……それが行われているのは、あくまでその表層に限った。
「深層はまだ人が生存できないほど、熱気と邪気に包まれているからな……迷宮の自浄作用も働いているが、まだまだ時間が掛かっているみたいなんだよ」
そんな未開拓の深海(炎)に、俺と共に降りていく一人の美女。
真っ赤な髪を──燃やし、背中から生えた鳥の羽を嬉しそうにパタパタ揺らしている。
「ご主人、それはそうだろう。なんせ、あのカグとカカが長い間封印されていた場所なのだからな」
「だよな……まあ、フェニの要望に一番最適なのがここだから、来たんだけども」
「ふっ、さすがはご主人だ。我の望み、叶えられるのはご主人しかいない! 嗚呼、我はご主人に呼び出されて良かった!」
「……灼熱の中で楽しみたい。そんなことを言われて叶えるヤツは、狂人か変態か俺だけな気がするがな」
さて、そんな要望をしてきた彼女──フェニは大変悦んでいた。
彼女は死と再生の象徴である不死鳥──要はどれだけ死んでも治らないドMである。
そんな彼女の願いは、自身の力が最大限に発揮できる炎の中で死にまくりたい。
通常よりも再生速度が上がる炎の中で、それを上回る速度で死んでみたいと。
普段から眷属に降りかかる危険を恐れる俺だが、彼女の死は割と許容している。
むしろ、彼女の能力的に死ねば死ぬほど強くなれるからな。
そのため、眷属たちもよくフェニを殺している……一定時間に一度ずつだけど。
だが、今回はフェニが最高のパフォーマンスを発揮できるの炎の中。
──ならば俺も、いつも以上に殺し愛おうじゃないか。
◆ □ ◆ □ ◆
俺の持つ複数のオリジナル神器。
よく使う双剣、槍以外にもさまざまな神器を製作している。
銃型の[イニジオン]、斧型の[裂覇]、槌型の[禍福]だったり……。
そして今、彼女を細切れにしているのは糸型の神器──『天魔創糸』。
「まだ改良の余地があるんだよな……」
「な、ならばご主人! ぜひともそのテストは我に任せてほしい!」
「……そこまで満面の笑みで言われたら、ダメとは言いづらいな」
「ご主人!」
細切れになった体は、炎に包まれると瞬間的に復活する。
不死鳥たるフェニは、周囲の炎を取り込むことで自在に失ったものを取り戻せるのだ。
撮影用の機材が映すのは、俺とフェニとの逢瀬──死合い。
ただのバトル……のはずだが、フェニの表情は死ねば死ぬほど紅潮していた。
しかし、世間一般では望まれるがままに愛する人を殺すヤツって……。
間違いなく狂人認定だろうが、俺と彼女の関係は元よりこれから始まった。
始まりはレベリング目的。
だが、俺の見合う強さを得ようと努力した彼女は、やがて人の姿をも得る。
現金な俺は、自分の好きにできる美女に強い感情を覚えた。
……そして、【色欲】の赴くままに想いを吐き出し──すべてが始まる。
「思えば、フェニが始まりだったんだな」
「どうかしたのか、ご主人?」
「あのときは制御できなかったけど、フェニに俺の想いを伝えたからこそ……俺は自分の欲望を諦めなかった。まあ、大衆から見ればただの女好きなんだろうし、事実そうなんだけども」
「……なるほど。あのときは、我も驚いたものだ。ご主人であり、そうではないご主人からもアドバイスを貰ったのでな。受け入れることにした……そしてそれは、間違っていなかった」
当時、まだ未覚醒だったローペの一部が表に出てきたのだろう。
俺であり、【色欲】であり、■■である存在だが……たしかに俺の本音を伝えた。
そして、それからも眷属であり、寵姫である女性を増やし……今に至る。
その選択は間違っていない、そう眷属たちに思わせるために奮闘する日々は楽しい。
「……なあ、このタイミングで日頃の感謝を伝えようとするのは人としてダメか?」
「ふむ……おそらくそうだろう。だが、ご主人は元より、自身をダメだと言っているではないか。我らもまた、そんなご主人を愛している……それで充分ではないか」
「お、おう……フェニ、顔が赤いぞ」
「……それはご主人も同じだぞ。ご主人に殺してもらうのは悦ばしい、だがご主人に自身の想いを告げるのはまた別の形で嬉しいぞ」
うん、フェニが超可愛いな。
長身の『ナイスバデェ』な女性が、頬に両手を当てて恥ずかしがっているその姿ときたら……マジで惚れてしまいますわ。
「フェニ、改めて言おう。俺はフェニが好きだ、昔から俺を支えてくれたし、俺のハーレムへの道、その第一歩を歩ませてくれた。こういうときに笑う顔も、悦ぶときの顔も好きだ……いつもいっしょに居てくれ」
「我も好きだぞ、ご主人。我を愛し、引く以上に死を以って想いを告げてくるその強さ。能力など関係ない。我はご主人が想いを告げれば、どの世界でも応えていたことだろう」
「……?」
「ふっ、こういうときの察しはやはり悪いなご主人。つまり──こういうことだ」
撮影機材はここで映像を止める。
だが、最後に映ったその姿は──二人の影が重なるものだった。
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