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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と愚者の狂想譚 その29

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 ここに、『愚者の狂想譚』は幕を閉じた。
 過去は消えずとも、今を変え、未来を生み出すことができる。

 これを読む者たちよ、忘れることなかれ。
 俺の行いは愚行だった、だが俺一人の選択が変わることは無かっただろう。

 運命を変えたいのであれば、相応の『力』が必要になる。
 そしてそれは、望んでも手に入らない……賢しくとも、委ねる選択をしろ。

 ──俺は、はそれを生涯を経てようやく知ることになった。

       著者:ヴァロン・ゴードヘル

  □   ◆   □   ◆   □


 俺は攻城戦イベントの際、【邪王】だった【魔王】(男)に契約を持ち掛けた。
 女になれば、お前が手記に書いた願い通りに神々を『ざまぁ』させられると。

 文面から見て分かる残念な発言だが、頭のいい人にはちゃんと真意が理解される。
 ……まあ、俺は凡人なのでそこまで深いことは考えないで言ったんだけども。

 ともあれ、すべてはあのときから始まっていたのだ。
 それから必要な物を集め、今回に至ったのだ……がしかし、やるべきことはまだある。

 現在、【魔王】と【邪王】は同一の存在であって別の存在という認識だ。
 性別を変え、夢幻の霧と[称号]の効果で隠しているが……まだ足りない。

 現実世界へ帰還すれば、俺の世界へ収容しない限りいずれバレる。
 ……本来はそれを望んでいるが、俺の我欲であり、何より──世界が許さないだろう。


「新しい名前で存在、魂魄の情報を一部書き換える。邪神(偽)との契約は、リオンと再契約して無かったことにする。そのうえで、新たな【魔王】として一仕事してもらうことになるだろう」

「……そのリオンという者は?」

「ん? ああ、お前の契約した偽物の方の邪神じゃない、本物の邪神だな。ただし、全然性格は邪神っぽくない、権能が危険視されただけのいい奴だ。邪気の生成は可能だから、心配しなくていいぞ」

「…………あの女たちと言い、交流関係の広い男だな」


 そう言われても、それ以上に厄介ごとに巻き込まれている気がするんだが。
 リオンには、アン経由で話は済ませておいた……あとでボコられるんだろうな。

 新生【魔王】に不自由をさせないため、それぐらいは甘んじて受け入れるつもりだ。
 まずは名付け、そしてリオンとの契約。
 そして……先は視てから決めようか。


「じゃあ、さっそくなんだが……もう名前は決めてある──『シャム』。家名の方はそのままで、『シャム・ゴードヘル』だ」

「シャム……」

「まあ、元の名前であるヴァロンと繋がりのある名前だ。心機一転と言っても、お前の過去そのものを否定はできない。だから、その名前にしたんだが……どうだ?」

「……まあいいだろう。気に喰わないわけではない、及第点だな」


 そんなわけで、【魔王】改めシャムとの誓約は果たされた。
 そして、すぐに俺たちは行動に移る──まずは、ここからの脱出だ。

 霧で維持していたこの空間も、外部からかなりの圧を受けている。
 さっさとやれば良かったのだが、名前はこの曖昧な場所で付ける必要があった。


「とりあえず、ここから出るぞ。それからのことは、そっちで話す」

「出れるのか、この場所から……私でも感じ取れるほどに、神威と邪気が外部から圧し潰そうとしているが」

「使ったエネルギーがエネルギーだからな。まあ、問題ない。見とけよ、俺もなかなかやるぞ──“時空開門ゲート”!」


 時間と空間、二つの隔てりを跨ぐための魔法を発動。
 霧の一部を利用し、繋がるための門を現実と繫げれば──道は完成する。


「じゃあ、行こうか──新しい世界へ!」

「……ああ、征こう・・・


 門の形をした時空の捩じれを通り、俺たちは元の世界へ。
 そして──


  ◆   □   ◆   □   ◆

 自由世界 始まりの街


 人種に富んだ人々が溢れる街。
 祈念者があらゆる種族に『転生』するようになったからか、初期よりもこの街で見かける種族が増えている。

 そんな始まりの街、その中でも中央に配置された噴水の前。
 俺とシャムはそこに転移し……注目を浴びていた。


「……なんだ、これは」

「あー、今のお前は美女だからな。それと、俺の邪縛が苛立たせるから注目を浴びているだけだ。とりあえず……っ!?」

「おい、どうし──はっ?」


 周囲もざわつく中、俺とシャムもまた同様に驚く。
 彼女は自身の変化を知り、俺もまた知ってはいたが視てさらに驚いた。

 ……が、思考系スキルが全開で働いてすぐにその驚愕な心情を鎮静化。
 何もできない今の彼女を、この場から隠すために行動する。


(──“輝光シャイン極大マキシム”)

『ぎゃぁあああ! 目がぁぁぁぁあっ!!』

「今だ──飛行フライ!」
(──“空間移動ムーブ”)


 まず、殺傷系の魔法が禁止された街中なので、生活魔法を最大まで強化して発動。
 これにより、大半の者の視界を奪い混乱を生み出す。

 そして、風魔法の“飛行”を発動……したと見せかけ、思考での魔法発動により街中へと一瞬で逃げ込む。

 声を聴いた者は上を調べるし、光に耐えた者も隠蔽系スキルを疑うだろう。
 しばらく待てば、騒がしかった噴水前の広場もだんだんと静かになっていく。


「シャム、大丈夫か?」

「あ、ああ……問題ない」

「しかしまあ、驚いたな。まさか、【魔王】の力が封印されるとは」

「…………おい、何を知っている」


 シャムの現在の職業は【■魔王】。
 交渉の末、【魔王】システムが干渉してくれた結果だろう……だが、欠けているがゆえに今はまだ不完全だ。

 ──今後シャムには、その辺りをどうにかしてもらわないとな。


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