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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と愚者の狂想譚 その28

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 ──月──日。

 ……あの野郎、マジで覚えてろよ。

 この手記を読んでいるアイツ以外のヤツ、全員騙されたと思う。
 そう、『俺』が書いた手記であって、これは『私』が関わっていないものだ。

 まあ、伏字は仕様なのか、どれだけやっても変えられなかったんだが。
 情報の秘匿、その神秘性がどうとか言ってやがったな。

 改めて説明しておいてやろう。
 俺たちの種族『■■族』は、光を介してさまざまな事象を引き起こすことができる。

 光を武具にする『装輝』、強化や治癒など身体に作用する『煌躯』、周囲に光を広げて結界とする『耀護』。

 そして、あのとき『俺』と『私』を繋ぎ合わせた『融光』。
 身力の共有、そして一時的な適性の上乗せなどが可能になる。

 だが、『俺』と『私』は同一の存在。
 一時的な繋がりではなく、恒常的に共有することができる……■■共に還元されるぐらいなら、全部持っていってもらいたいしな。

 俺はすべてを譲渡した。
 それゆえに、『俺』が『私』に成り代わって【邪王】となることはない。

 ──『俺』は手記の中の存在、■■族を紡ぐ者だ。

  □   ◆   □   ◆   □


 夢幻の霧。
 それは崩れゆく世界の中でも健在だった。

 残された【魔王】、そして俺。
 これまで童話や異伝クエストでは起きていなかった現象、核を失ったことによる世界そのものの自壊。

 だが、この場に居るのは俺たちだけでは無い……どこからか観ているであろう、その者へ対して語り掛ける。


「……邪神の加護も【魔王】が抑え、運命のクソ女神と悪意の残滓のエネルギーも無駄に使い尽くせた。結果として、こっちは何にも損をしないまま終えられたな」

『────』

「で、どうだ? 俺が独りよがりで進めた賭けだが……お眼鏡に適ったか?」


 王を冠する存在──【魔王】。
 では、誰がその者を【魔王】であると認証するのか──その答えこそが、【魔王】システム(仮)とも呼ぶべき存在だ。

 リョクのような種族としての【魔王】。
 ネロのような職業としての【魔王】。

 この二種類だけでなく、肩書的なものや俺のように『称号』的なものもある。
 だが、システムが認定を担っているのはこの二つだろう。

 システムが【魔王】を選び、就職者はそれに相応しい振る舞いをする。
 そして、その果てに【魔王】としての運命や宿命を全うするのだ。


「見ての通り、【魔王】としての使命をやり遂げたんだ……これから先、絶対に必要になるはずだ。だから、寄越せ」

『────』


 中でも、【○○魔王】と熟語が付いている【魔王】は特別優れている。
 そんな中、唯一【魔王】自身の功績では辿り着くことのできない極致が存在した。

 俺はそれを、【魔王】に与えてやってほしい……そう交渉している。
 もちろん、向こうは席に着いていないし、得をすることなど無いことも承知の上でだ。

 ただまあ、現状を知っている側者として、そう成功率は低くないと思っている。
 ……だからこそ、こんな場所まで種を経由して観に来ているわけだし。


「言葉を交わせるか……まあ、どうでもいいか。今さらだけど俺っていう人間は、無機物にも欲情している変態らしいからな。始まりがどうあれ、最後に望んだ形になればいい。そんな考えだからだと思うけど」

『────』

「まあ……アレだ、俺も顔を見たことの無い相手と接する機会が何度かあるからさ。今度は意思の伝達でもしてくれると、好都合なんだよ……可能であれば女性型で」


 最後に私利私欲丸出しの発言をしてから、【魔王】の下へ向かう。
 ……いや、羞恥心が後ろを振り返ることを許してくれない!


「よし、全部終わったみたいだな」

「…………先ほどまで、まるで誰かに話しているようだったな」

「ん? ほら、俺は念話を多用するからな。一人の時は口を動かすことが多いんだ」

「……そんな癖など知らん」


 どうやら俺の挙動不審な行動は、バッチリ見られてしまっていたようだ。
 だがまあ、この世界だと大半のおかしな行動はスキルやら加護のせいにできる。

 聖職者だって、神託を受けると発狂することがあるからな……本当、一度試した時の反応がおかしかったのは、当人がおかしかったからだと思いたいです。

 まあ、上手く誤魔化せたようで何より。
 結局、【魔王】システムが応じてくれたかどうかは分からない……この空間から出て、確認すればようやくだろうか。

 今はそれよりも、重要なことある。
 目の前の【魔王】には、さまざまなモノが欠けているからだ。


「まあいい。ここに誓約は果たされた、これから私は貴様に従うことになる。もっとも、前払いでずいぶんと弄られたものだがな」

「おいおい、考えてくれよ。異性の囲まれるのと同性に囲まれるの、どっちの方が嬉しいと思う?」

「私は実力さえあればどうでも良かった……だがそれが、あのような──」

「あー、はいはい。過去のことは置いておこう、無かったことにはできないけど、憂さを晴らすことはできただろう?」


 第二の悲劇の際、邪神の影響で暴走した中に裏切り者も混ざっていたし。
 今回、【邪王】の方はその出来事を覚えていなかったが……【魔王】は知っている。


「憂さ晴らしなどできるものか。力に溺れ、末路は違えど破滅したのは私もまた同じことではないか」

「全然違うと思うけどな……裏切り者は自分のため、お前さんは誰かのため。暴れ回るための力が欲しくて、手を付けたわけじゃないだろう?」

「ああ、それだけは無い」

「即答できるなら、それで充分だ……ってだいぶ話が逸れたな。ともあれ、俺は同性より異性を侍らせたい!」


 おっと、これまた本音が滑り出た。
 これは誤魔化しようがない……うん、さすがにその冷たい視線は、肯定的には受け取れませんよ。


「それに、ある【勇者】に同じことをしていてな…………っておい、言っておくけどあの『魔剣勇者』じゃないぞ。祈念者の、俺の眷属に手を出したやつにちょーっとだけ悪戯したら、そのまま当人が嵌っちゃったんだよ」

「…………」

「あーもう、この話終わり! ほら、それより誓約の続きだ続き! これから【魔王】、お前に新しい名前をやる!」


 これもまた、仮に【魔王】システムが応えてくれるならば必要なことになる。
 あと男の名前だけじゃなく、もう一つおんなの名前があると燃え……萌えるからな!


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