2,262 / 2,519
偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と愚者の狂想譚 その27
しおりを挟む俺が【魔王】システム(仮)こと御本尊と勝手に賭けをしていると、ついに【魔王】と【邪王】の戦いが決着の時を迎えていた。
「……終わりだ、『私』」
「ははっ、さすがは『俺』だ。何もかもかなぐり捨てたってのに、届きやしない」
「『私』は『俺』だ。しかし『俺』は『私』ではないのだ。その差だけが、この結果だ」
「…………今さらだが、そんな記憶が浮かんできた。すべてが終わり、塞き止めるものが無くなったからか。嗚呼……そうか、村の者たちが救われる、そんな道もあるのか」
本来の仕様的に、閲覧者は【魔王】を演じて軌跡を辿っていく。
しかし俺が改竄した結果、なぜかそうではなくなり自由な行動が可能となった。
だからこそ、悲劇を食い止め、歴史を書き換えた業績は刻まれる。
手記の中身が書き換わることはない……しかし、新たなページを加えることはできた。
故に【魔王】は光を生み出し、【邪王】は邪を打ち払う。
ありもしないもの、虚像と嘲る者もいるだろう……それでも、存在した真実だった。
◆ □ ◆ □ ◆
「これならば、もう……思い残すことなど何も無──」
「いや、待て」
ゆっくりと瞼を閉じた【邪王】──だったが、ちっとも眠りに着けないだろう。
それもそのはず……瞼の裏漉しでも分かるほど、強烈な光に外部から照らされるから。
「…………」
「──光よ。おい、無視をするな。『私』はまだ、『俺』にやるべきことがあるのだ」
「寝かせろよ、『私』……『俺』にもうやるべきことなんて──」
「本当に、このままで良いと思うか?」
ピクリ、と反射的に瞼が開いた。
その物言いはまさしく、先ほど【邪王】自身が行った安い挑発そのものだったからだ。
忌々しくも目を開けば、そこには男だった面影のほとんどない【魔王】の姿が。
その手に浮かべるのは光、それを眼前に差し出していた。
「……俺には、もう無理だ」
「職業は変われど、種族は変わっていないだろう。光も……今ならば生み出せるはずだ。あえて問うが──このままでいいのか?」
「! お、俺は……」
「……そうだな、『俺』は『私』だったな。ならば、示そう──先の世を」
浮かべた光を【邪王】に突きつける。
すると、【邪王】の脳裏に浮かぶ──神々の駒である祈念者と、より哀れな道化である【魔王】だった【邪王】の姿。
彼は祈念者へと宣戦布告をする前、再びその身を神々によって再構築された。
闇の底から引き摺り出されるように、眠りに着いていたところを叩き出されるように。
そして、言いたくもない台詞を言わされ、陳腐な演技をさせられた。
──その果てに、行動原理すら意味不明な男で出会う。
「……これが、アイツとの出会いか。というか、それで女なのか」
「…………好きで女性になったと思うか? 奴め、わけの分からぬ戯言で論理も関係なくごり押しだぞ? 分かるか、拒否権が無いのに選択を迫られる気持ちが?」
「……はっ、ははははっ! 思った以上に力の代償は重かったんだな! ああ、『私』は想像以上にキツイ、それが知れただけでももう満足──」
「だから、逃げようとするな。『俺』にも背負ってもらうと言っているだろう」
さながら、その男のように選択権の無い選択肢を突きつけた【魔王】。
その華奢な手は【邪王】の顔面を掴み、キリキリと締め付けている。
「『私』と『俺』、共に同じ存在だったが今は違うモノとして扱われている。だからこそ共に存在していられた……が、それでも元は同じ明魔族だ。私たちは共に、アレを行うことができるはずだ」
光属性に高い適性を持つ明魔族は、かつてその高い適性を利用されてその身を『安寧の結晶』という装置に変えられた。
それは、明魔族同士の境界を曖昧にし、一つにすることで構築される禁忌の代物。
……だがそれは、明魔族たちの意思で可能だからこそ、できることを強制しただけだ。
「『融光』、やるぞ。手を出せ」
「──ああ」
再び【魔王】が、そして【邪王】が光をその掌に浮かべる。
色は白でも黒でも黄色でもない、月のように冷たい銀色。
それらを合わせ、光同士を繋げる。
途端、光は眩い銀色を強め、視界を奪うほどに光り輝く。
「主導は『私』だ」
「ああ、『俺』は委ねよう」
「「──融け合うように」」
やがてそれは、ゆっくりと【魔王】の中へと吸い込まれていく。
光が収まった時、【魔王】にも【邪王】にも外見的変化は見受けられない。
──だが【邪王】は突然脱力し、そのまま体が動かなくなる。
「……初めてやったが、本当にキツイな」
「……それはこちらもだ」
同時に、【魔王】も【邪王】ほどではないが軽く頭を抱えた。
彼らが行った『融光』は、明魔族同士でのみ行える秘術。
一方の意思や記憶、そして経験の一部をもう一方へと継承することができる。
その応用で、魔力や適性を譲渡することで強力な結界を構築することも可能だ。
すでに先の無い【邪王】は、己の操る邪に関する経験をすべて【魔王】へ委ねた。
それを受け取った【魔王】は、過去の記憶と【邪王】の経験を合わせることができる。
「……職業の力は引き出せぬか。しかし、得たスキルなどは可能か」
「俺の邪気は全部渡せた……アイツらに利用させるなよ」
「ああ、分かっている。この力、利用し尽くしてみせよう」
「……はっ、なら任せたぞ…………『私』」
「──分かっている、『俺』」
伝えたい、大切な遺志はもう交わした。
満足気な笑みを浮かべ、【邪王】は体を粒子と化して消えていく。
……そして、この世界もまた同様に崩壊していった。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる