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偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と愚者の狂想譚 その26
しおりを挟む追い込まれた【邪王】。
彼自身、全力で挑み……そのうえで辿り着いた命の果て。
しかし、神は……邪神はそれを許さない。
その身を、その魂すらも喰らい、何もかもすべてを無理やりに捧げさせ、それらは邪気と化す。
「──光よ」
名に反し、光を操る【魔王】。
これまでと同じように、邪気を滅するべく生み出した光を放つ──のだが。
「……届かない、か」
「──ァアアア……」
これまでと違い、魂すらも燃やし尽くして生み出された邪気。
それは更なる深淵となり、光を呑み込む暗黒の瘴気となる。
「ならば、より強い光を……!?」
「ァアあアあア……うぉおおおお!!」
それならば、より強い光を以って邪気を払うという考えは、ある意味潰えた。
理性を失い、ただ叫ぶだけだった【邪王】の瞳に──理性が宿ったからだ。
邪気が濃くなる。
だが、その速度よりも速く、己の根源から魔力を引き出し魔力を創り上げていく。
命の消耗を、命の消耗によって防ぐ。
それは愚行でしかない……しかし、命の主導権だけは得ることができる。
「ハァ、ハァ……俺は、『俺』だ!」
「ふっ、殺さずとも良いのか?」
「ここまで来た、ならば絞れるだけ絞り尽くしてやろうぞ、『俺』よ」
「いいだろう、全力で来い!」
──といった風に、彼らは盛り上がっていき、俺だけが取り残される。
まあ、魔導の維持が大変なので、早め早めに終わってほしいとは思うが。
一方的に有利だった【魔王】。
しかし、【邪王】が邪気を捻じ伏せて以降は一進一退の戦いを繰り広げるように。
理屈は単純、主導権を奪ったことで邪気の使い方もある程度自由になったから。
化け物ではなく、武器型のナニカ……禍々しいそれらを展開するように。
「まあ、時間の問題だろうな……だからこそ二人とも、全力を今使い切ろうとしている。いいねぇ、頑張るねぇ……なあ、お前もそう思わないか?」
『────』
「俺が触媒にしたのは【魔王】の手記、そして『魔王の種子』。それらをより完全な形で使うための動力源として、悪意の塊と運命の女神の神威を混ぜた。要するに、二柱の神の力が存在しているわけだ」
蚊帳の外、暇を持て余す俺はここには居ない何者かに語り掛ける。
現在、この領域を観測できる者は俺が許可した者だけ。
故に先ほど悪さをした邪神も、あくまで体内の残滓が自律的に判断してのことだ。
そして、もう一柱の神の力……しかし、こちらの気配は魔本内部には無い。
リアの時みたく、突然使徒を出されても困るからな。
計算し、魔本化ですべてのエネルギーを消化し切るよう計算しておいた。
なので、クソ女神がこちらに干渉することは不可能。
悪意の残滓も俺が消し滅ぼしたので、今さらこちらに手を出すことはできない。
それでも、【魔王】を生み出す種子には、相応のエネルギーと悪意が存在する。
つまり、【魔王】システム(仮)染みた概念が残されていた力を利用し干渉してきた。
「なあ、【魔王】……向こうと分けるのが面倒だから、御本尊とでも呼んでおくか。御本尊には、【魔王】を与える力があるはずだ。そして、まだ世に出して無いとびっきりのモノがあるはずだ」
『────』
「なぜ知っているか? ちょうど、物知りな使徒様が居てな。なあ、それを俺……は無理だから、アイツにくれてやってほしい。条件なら、満たせるはずだ」
『────』
命を懸け、己と己が築いたものすべてを台無しにした連中の邪魔をする【邪王】。
それに応え、それが自分自身であっても全力を以って殺そうとしている【魔王】。
その光景を人々はどう思うのだろうか。
誰かは尊い、誰かは浅ましい、誰かは茶番でしかないとバカにするかもしれない……正解なんて、そもそも存在しないけども。
文字通り、己との戦いだ。
運命を狂わせた神への反逆、そんな大義を騙ってやっているわけじゃない──それはただ、決別したいだけの自傷行為。
俺が【魔王】システム(仮)──御本尊に望むのは、そんな行為に見合うだけの報酬。
この世界は童話世界と違い、あらゆるシステムが歪だ……報酬なんて期待できない。
「そうだな、賭けをしよう。別に乗らなくてもいいが……つまらないだろう?」
『────』
「内容は、最後がどうなるのか。それを御本尊が当てられなかったら、アレをくれ」
なお、御本尊は俺に対して意思を伝えてきてはいない。
なので、向こうが俺の独り言に応えなければ何の意味も無い発言だ。
だが、世界はソレを必要としている。
これまでソレが現れなかった理由は聞いていないが、いずれ来るべき時に居るか居ないかで大きく違ってくるはずだ。
「まあ、俺が偽善者として結果を出すだけ。そこに救いがあるかどうかは【魔王】次第だからな……」
『────』
「さて、どうなるのやら」
光、そして闇の力も操りだした【魔王】。
対する【邪王】はどういった心境か、再び生み出し始めた化け物に、武器を持たせて吶喊させている。
──すでに、【邪王】の体は動かない。
それでも足掻き、生み出される化け物。
やがて、【魔王】はこれまででもっとも強い光を放つ。
「まだだぁあああああ!!」
「──輝きよ」
対抗するように、【邪王】は闇色の奔流を解き放つ。
一瞬、鬩ぎ合う白と黒……しかしそれは、【魔王】の一言で一瞬で潰えた。
──そして、決着の時。
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