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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と愚者の狂想譚 その24

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 相対する二人の存在。

 片や、運営神に降って堕ちた【邪王】。
 片や、偽善者に欺かれたTS【魔王】。

 どちらが不憫か……それを問うた時、割とどっちもどっちな結果になりそう。
 だが、現場はシリアス──どす黒い黒髪と星明りのような白髪の持ち主がぶつかる。


「じゃあ、俺はこれで──」

「「待て!!」」

「……さすがは元同一人物、息が合うようで何よりだ」


 邪魔者は居なくなろう、そう思った矢先の妨害だ。
 一方からは光が降り注ぎ、もう一方からは大量の化け物による檻が形成された。

 まあ、素では耐えられないのだろう。
 俺が間に入ってどうにかなる問題では無いのだが、居ないよりマシ……みたいな判断が彼らの中で成されたのかもしれない。


「ハァ……ちょっと待ってくれ。すぐに準備する。魔導解放──“世界欺く夢幻の霧”」


 なので俺が構築するのは、この手記の世界そのものを欺くための魔導。
 そして、ここで俺のセットした[称号]である『世紀の大奇術師』が機能。

 これまでの一連の流れ、【邪王】を阻んだ【魔王】(女)の出現を細工する。
 俺が魔法で適当に何とかしたことにし、またその後も魔法でどこかに消えたことへ。

 いっそのこと、魔導“果てなき虚構の夢現郷”を使った方が速いのだが。
 アレはアレで、隔絶した場所へ向かうため後処理が面倒になるのだ。


「これで良しっと……まず【邪王】、今は一時的に上からの眼は届かない。命令は書き換えられないから何もしないのは無理だろうけど、それでも行動に自由が生まれたぞ」

「……そうか、ならば早く殺せ」

「バカが、俺が殺すわけないだろ。で、今度は【魔王】だ。見ての通り、約束は果たしたぞ。報酬はあとで貰うから、さっさと済ませてくれ……結構維持が辛い」


 眷属たちに肩代わりしてもらった制約。
 能力値の方はどうにかなったが、魔力量に関してはどうにもならない。

 元より膨大であり、九割減であろうとも大規模な魔法を連発できるような量だ。
 ……しかしながら、魔導を連発することはできない。

 それでも連発し、この状況まで持ち込むことはできた。
 あとのことは、当の本人たちに任せて休むことにしよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 お互い、目の前の存在が何者であるのかは承知している。
 ただし、【魔王】がすべてを知るのに対して、【邪王】が知るのは断片的な情報のみ。


「……そのような姿になってまで、俺は生を足掻くのか」

「違……! いや、そうだな。私が愚かだったんだ。あの男の甘言に乗り、貴様と会う機会を得た。それ自体は後悔などない……今も昔も、間違っていることに変わりないがな」


 自嘲的な笑みを浮かべる【魔王】。
 さまざまな代償を支払い、【邪王】にまで堕ちた存在──その成れの果て。

 最期の最後、使い捨てられる所を拾われ、ここに至った再起にして再帰の【魔王】。
 捨て去り、捨て去られた過去を見つめ……小さく溜め息を吐く。


「貴様をここで食い止めようと、私の行いはとうに過去として刻まれている。そうとも、これはただの自己満足でしかない。【邪王】よ、『私』は『俺』を終わらせる」

「くっ……くっははははは! 未来、あるいは平行世界の『俺』自身に言われるとは! 気が変わった……傀儡のまま死ぬのも復讐になると思ったが、それではつまらん! 己がすべてを費やし、使い切ってやろう!」


 自らに貸し与えられた邪の力。
 制約により、魔物と呼べない化け物たちを生み出す力を得たが……代償は与えられた邪気、そして──己の生命力。


「……私も『俺』だったのだ、それが何を意味するのかはよく知っている。いいだろう、忌々しい神々の思惑を少しでも阻めるのであれば──あの男に魂すら売り渡し、取り戻した力を以って終わりを与えよう」

「! 先ほども思ったが、使えるのか!?」

「そうだ。我ら明魔族に許された、光を操る稀有な力……【邪王】に堕ちた後、私は使えなくなっていた。だが、今は違う」

「──くっ」


 背に無数の光を生み出され、【魔王】が横に手を薙ぐと同時に【邪王】の下へ飛ぶ。
 とっさに自らの背から化け物を生み出し、身代わりに利用する。

 明魔族の種族性質、それは多くの魔族が神聖弱体を持つ中でも珍しい光属性への適性。
 中でも【魔王】は、時折現れる超希少個体だった。

 一般的な明魔族が光への適性のみに対し、【魔王】は闇への適性も有している。
 その証拠こそ、村の中で唯一の黒髪……彼らはそれを受け入れ、【魔王】を愛した。

 故に【魔王】は明魔族を愛し、地位を高めるべく【魔王】へと至る。
 ……そしてその果て、辿り着いた【邪王】は誇りであった光を失っていた。


「……嗚呼、懐かしいな。その光、村の者たちも使っていた。だが、もうそれはどこにも存在しない。唯一を示し、知らしめようとしていた俺すら……すでにそれを持たない」

「私も俺も、それは自業自得だ。他に選択を委ねた。それが間違いだったのだ」

「ならばなぜ、貴様はそれを使う! 俺と同じく傀儡であることを選び、成れの果てに捨てられた貴様が!」

「…………そうだったな。違いは単純、操る糸の先に居るのが、変人だったかどうかだ」


 再び光を背に、化け物を背に生みだす。
 そして、両者はぶつかる──もう一人の在り方を否定するために。

 ──このとき、どこかですすり泣くような声が聞こえたとか聞こえなかったとか。


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