2,258 / 2,518
偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と愚者の狂想譚 その23
しおりを挟む★月■△日。
奴との戦いは長く続いていた。
すでに堕ちた身、いかに奴であろうとも因果が失われた以上いずれは潰える。
──なあ、【勇者】よ。
俺も貴様も、間違えたのだろう。
俺は顧みず、貴様は顧み過ぎた。
今では俺は【邪王】、貴様も魔剣を捨て聖剣を振るっているではないか。
かつて『■■魔王』と『■■勇者』と呼ばれた俺たちは、当に死んでいる。
だからこそ、俺は……貴様を魔剣で殺してやったのだ。
意思の力で化け物を捻じ伏せ、純粋な魔剣として物質を生み出すことができた。
その時の貴様の驚いた顔と言えば、後でこれを読み返すのが楽しみだ。
……貴様が死に、護る者の居なくなった国はすぐに滅んだぞ。
俺もそう、長くは持たないだろうがな。
制約に背き、魔剣を生み出したのだ……わざわざ聖剣で刺し貫かれずとも、■■共は平然と俺の命を徴収するはずだ。
────め。
□ ◆ □ ◆ □
光の軌跡が宙に描かれる。
その都度、化け物たちが聖なる光にやられて消滅していく。
光は振るえば振るうほどに、その輝きを増していた。
やがては闇夜を照らすほどに……【希望】の光を体現するがごとく。
「くくっ、聖剣……か。元より、奴が聖剣を使うようになったとは聞いていたが。それとは別に、このような物があったとはな」
「神造聖剣なんかより、刺激的な戦いを提供するぞ?」
「ああ、理解しているとも。だが、いつまでもここで足止めを喰らうわけにはいかぬのでな──そこを退け!」
「やなこった! その体にへばりついた汚い物、まずは全部浄化してやるよ!」
真っ黒なスライムやゴーレムなど、斬撃が通じそうな個体が何度も生み出されている。
しかし、俺の振るう斬撃はその聖気と流麗な太刀筋を以って無理やり彼らを切り裂く。
理屈は簡単──剣技が凄いから。
もちろん、俺では不可能だ……しかし、剣に愛された天才ティルエ・リュキア・ハワードであれば話は別である。
「……こやつらの性能が低いのか、それとも貴様の剣技が異常なのか。切れぬ物が何故切れるのだ」
「ああ、そりゃあ俺……というか師匠の剣技が異常だからだよ。曰く、なんとなくなんだとよ。お陰で弟子である俺も、その恩恵にあやかれるわけだ──“十剣網操”」
「訂正しよう。おかしいのは貴様そのものであると」
新たに生み出した剣、それらは何ら特殊な効果を持たない普通の剣。
しかし、俺の持つ『輝紡剣』が一瞬光り、その輝きをそれらの剣へ付与していく。
そして、現在発動している“剣軌再演”もまた同様に。
手の届かない範囲へ向かいそうになっていた化け物を、徹底的に切り刻んでいく。
「どうした? 光の力を使うなんて、お前でもできたことだろうに」
「……そうか、貴様は知っているのだな。だが、今の俺にそれはもう無い。この忌々しい力が、貴様を殺す手段となるのだ」
「このままじゃ延々とこれを続けていそうだな……仕方ない──“聖域”」
瘴気や邪気に対抗するなら、やっぱり聖なる領域か。
なんて甘い思いで生み出した白い空間……しかしそれが、だんだん黒に侵されていく。
「ただの【魔王】であれば通用しただろう。しかし、【邪王】である俺にそれは通じないのだ──“邪薙暴虐”」
「! マジかよ……」
完全に黒色に染まり切った時、至る所から生み出される化け物たち。
俺を躱し、そのまま都市へと向かう……食い止めようにも数が多すぎる。
「策士策に溺れる、というヤツだな。これで良い、これで……終わることができる」
「後は俺に殺されて一件落着か? そんなことできないぞ」
「……分かっているとも。だが、貴様は俺を殺すことができる。多少のミスはあろうと、どれだけ手を尽くそうとも、俺が貴様に届くことはない。奴らも、それを理解しているからこその忠告だったのだろう」
「ハァ、嫌だ嫌だ。最初から死ぬ気の奴と戦うってのは、これだから面倒なんだよ」
現【邪王】にとって、すでに目的は果たされたも同然。
死んでも手記が残り、それを次の【魔王】が読めば遺志は紡がれる。
先のことを知らないからこそ、俺というイレギュラーにもこんな対応なのだ。
ただ自分を殺してくれる、手記を完遂に至らせるための駒として俺を利用している。
……まっ、そんなの許さないけど。
「──俺は契約をしたんだ。運営神を虚仮にする。そして、奴もそれに応えた」
「何を言って……」
「これまでのお前は【魔王】だった。だからこそ、同時に存在するための手続きが面倒臭いからやってこなかった。けど、今のお前は【邪王】だからな──【魔王】じゃない」
「っ……この気配、まさか!?」
王国の上空、未だ曇天だった空から降り注ぐ白い光の数々。
それらは王国を包み込むと、化け物たちを通さない薄くも堅い壁となる。
すぐにその正体に【邪王】は気づいた。
当然だ、自身にとってかつてもっとも馴染み深いものだったのだからな。
「知ってるか? とある【魔王】は、その死後一人称を変えているんだ。『俺』ではなく『私』へ。【邪王】になろうとも、神の道化になろうとも。今度こそ、同朋の信頼に背かないように──その戒めにな」
それは、真っ黒な髪と瞳を持つ者だった。
それは、真っ白な光を輝かせる男だった。
それは──不服そうな表情の女性だった。
「……誰だ、あの者は?」
「お前」
「………………あの──」
「お前」
俺の言葉が信じられないのか、完全に思考がフリーズしている様子。
向こうも向こうで、哀れむような同情するかのような……そんな目でここを見ている。
俺からこれ以上の説明は不要だろう。
光が国を守護する以上、わざわざ俺が戦う必要は無くなった──ここからは、自分との向き合いだ。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる