2,257 / 2,518
偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と愚者の狂想譚 その22
しおりを挟む★月■▼日。
────。
──────。
────────。
・
・
・
ある程度制御が終わった。
俺はもう、日記を書く暇がない。
なので■■の力を使い、代筆する化け物を生み出した。
最初の方は、その練習だ。
アレでも力の制御を他で済ませ、筆を持つ力加減を覚えさせたのだからな。
失敗作だというこの力も、ある程度慣れれば割と便利だった。
あらゆる形で生み出し、■気に関する能力であればある程度自由に付与可能だからだ。
ただし、制約によって侵攻の際は化け物しか生み出すことができない。
……俺という【魔王】を貶め、奴らにとって都合のいい存在にするためだ。
だが、それゆえに隙が生まれる。
奴らの弱点は────────だ。
そこを突け、次代の【魔王】であるお前ならばきっと────────できるはずだ。
□ ◆ □ ◆ □
ふと、事前に読んでいた【魔王】の手記を思い返す。
故意では無い伏字は最初からあったが、代筆をさせた辺りから隠された部分があった。
おそらく、都合の悪い部分はそもそもとして書かせていなかったのだろう。
与えた力に後から干渉できない、そんな決まりは無いからな。
「眼が痛い……早く済ませないとな」
「……何者だ」
「過去とは繋がっていないみたいだな。初めまして、ということにしておこう」
転移した先、そこには男が一人。
漆黒の髪に闇色の瞳、そして──背後から無尽蔵に魔物と呼び難い禍々しい化け物を生み出し続けている。
「かつての【魔王】、そして邪に仕えし愚かな傀儡よ。俺は────」
「──死ね」
待機していた化け物の一体が、猛スピードで俺にぶつかってきた。
だが、その直前に空で視ていた転移眼で移動し、化け物は樹にぶつかり自滅。
「俺はメルス、趣味で偽善者をやっている」
「ほう、ならばメルスよ。上のアレ、貴様の仕業か?」
「ああ、綺麗だろう? さっきも王国に変な化け物が来てな、その迎撃に使った」
「……予定にはない出来事だ。だが、それすらも予期していた事態、か。いいだろう、貴様と少し遊んでやる──がしかし、あの国には滅んでもらわねばならぬのでな」
化け物たちがいっせいに飛び出し、人族の国へと向かう。
この場の個体だけなら俺だけでもどうにかなるが、そこら中から現れている。
魔眼を起動し、もう一度同じことをやってもいいのだが……眼の方も普通に痛いし、そう何度もやりたくない。
「どうした、何もせぬか?」
「いいや。同じ方法がつまらないだけさ。魔導解放──“天下る地平の雷轟”」
「!」
空の魔眼は一度止めて、今度は別の魔導を発動する。
空から……ではなく、地面から空へと延びる無数の稲妻が、化け物たちを焼き焦がす。
生物である以上、内部から電気熱で焼けば構造上確実に息絶える。
だが、ここはファンタジー世界……一部の個体は電気自体は耐えていた。
それでも、ただの雷属性の攻撃と違い、この魔導は雷という性質をしっかりと体現した代物だ──電流は流れれば流れるほど、同時に熱を発した。
雷の瞬間最高温度は二万度を超える。
しかし、それは空気中を流れる間に物凄い速度で低下してしまう。
普通であれば、そこまで熱など通らない。
だが、この魔導が生み出す雷は大気ではなく地中から突如として生まれている──熱もまた、自在に操作可能なのだ。
「……全滅、か。雷属性を無効化した個体も居たはずなのだがな」
「それだけ、俺の技が特別だってことだ」
「そう、そこだ。貴様のような異物には、制約が掛けられているはず。なのになぜ、そこまでの力を出せている」
「……愛ゆえに、ってヤツだ。恥ずかしい、言わせんなよそんなこと」
普通、弱体化していてはこうも喰らい付いてはいけなかっただろう。
本来解けるはず制限は失われておらず、なおかつ立場が違っている。
どうやらそれらの情報も、事前に聞き及んでいるようだが。
これまで相対して来た【魔王】とは違う、正史……誤ってきた【魔王】なのだろう。
だからこそ、俺はここで食い止める。
すでに【魔王】がやって来たことは変わらない……が、それでもこれ以上、死を与えないためにも。
「剣製魔法──“剣器創造・輝紡剣”」
「…………それは、聖剣か?」
「それに似たナニカ、だな。ただ、性能は保証するぞ?」
奴から見た俺は、聖剣の担い手として目の色まで変えているように見えるはずだ。
その色は金──爛々と光る鈍い金色ではなく、純粋なまでに澄んだ黄金色に。
「この剣はただ光り続ける。俺が歩みを止めず、人々を救う象徴──【希望】で在り続ける限りな」
「光るだけならば玩具でもできる。その程度で、俺を止めることができるとでも?」
「たしかにできないだろうよ。今の俺には、な……だから、それができる人の力を借りるだけだ──“剣軌再演”」
魔法を発動した途端、剣を持つ手から変化が始まる。
凛とした佇まい、そして静かに握る剣から放たれる鋭い剣気。
精神力が剣から迸って生まれるものだが、それは剣と一体となった武人のみができる所業……俺もできるにはできるが、今ほど鋭く一本の剣を模すことはできない。
その変化に【魔王】も気づいたのだろう。
ただ光属性に対応しているっぽい黒い個体だけでなく、いかにも剣が通じなさそうな粘液やら固そうな個体が生まれ始める。
「獣剣聖姫ティルエ・リュキア・ハワードが弟子、メルス──いざ参らん」
「……名は捨てた、【魔王】としての証も捨てた。今はただの【邪王】だ」
聖剣(モドキ)を握り締め、【魔王】改め【邪王】へと迫る。
迎え撃つ【邪王】……その顔は、やはり満足気であった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる