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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と愚者の狂想譚 その22

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 ★月■▼日。

 ────。
 ──────。
 ────────。

 ・
 ・
 ・

 ある程度制御が終わった。
 俺はもう、日記を書く暇がない。
 なので■■の力を使い、代筆する化け物を生み出した。

 最初の方は、その練習だ。
 アレでも力の制御を他で済ませ、筆を持つ力加減を覚えさせたのだからな。

 失敗作だというこの力も、ある程度慣れれば割と便利だった。
 あらゆる形で生み出し、■気に関する能力であればある程度自由に付与可能だからだ。

 ただし、制約によって侵攻の際は化け物しか生み出すことができない。
 ……俺という【魔王】を貶め、奴らにとって都合のいい存在にするためだ。

 だが、それゆえに隙が生まれる。
 奴らの弱点は────────だ。
 そこを突け、次代の【魔王】であるお前ならばきっと────────できるはずだ。

  □   ◆   □   ◆   □

 ふと、事前に読んでいた【魔王】の手記を思い返す。
 故意では無い伏字は最初からあったが、代筆をさせた辺りから隠された部分があった。

 おそらく、都合の悪い部分はそもそもとして書かせていなかったのだろう。
 与えた力に後から干渉できない、そんな決まりは無いからな。


「眼が痛い……早く済ませないとな」

「……何者だ」

「過去とは繋がっていないみたいだな。初めまして、ということにしておこう」


 転移した先、そこには男が一人。
 漆黒の髪に闇色の瞳、そして──背後から無尽蔵に魔物と呼び難い禍々しい化け物を生み出し続けている。


「かつての【魔王】、そして邪に仕えし愚かな傀儡よ。俺は────」

「──死ね」


 待機していた化け物の一体が、猛スピードで俺にぶつかってきた。
 だが、その直前に空で視ていた転移眼で移動し、化け物は樹にぶつかり自滅。


「俺はメルス、趣味で偽善者をやっている」

「ほう、ならばメルスよ。上のアレ、貴様の仕業か?」

「ああ、綺麗だろう? さっきも王国に変な化け物が来てな、その迎撃に使った」

「……予定にはない出来事だ。だが、それすらも予期していた事態、か。いいだろう、貴様と少し遊んでやる──がしかし、あの国には滅んでもらわねばならぬのでな」


 化け物たちがいっせいに飛び出し、人族の国へと向かう。
 この場の個体だけなら俺だけでもどうにかなるが、そこら中から現れている。

 魔眼を起動し、もう一度同じことをやってもいいのだが……眼の方も普通に痛いし、そう何度もやりたくない。


「どうした、何もせぬか?」

「いいや。同じ方法がつまらないだけさ。魔導解放──“天下る地平の雷轟”」

「!」


 空の魔眼は一度止めて、今度は別の魔導を発動する。
 空から……ではなく、地面から空へと延びる無数の稲妻が、化け物たちを焼き焦がす。

 生物である以上、内部から電気熱で焼けば構造上確実に息絶える。
 だが、ここはファンタジー世界……一部の個体は電気自体は耐えていた。

 それでも、ただの雷属性の攻撃と違い、この魔導は雷という性質をしっかりと体現した代物だ──電流は流れれば流れるほど、同時に熱を発した。

 雷の瞬間最高温度は二万度を超える。
 しかし、それは空気中を流れる間に物凄い速度で低下してしまう。

 普通であれば、そこまで熱など通らない。
 だが、この魔導が生み出す雷は大気ではなく地中から突如として生まれている──熱もまた、自在に操作可能なのだ。


「……全滅、か。雷属性を無効化した個体も居たはずなのだがな」

「それだけ、俺の技が特別だってことだ」

「そう、そこだ。貴様のような異物には、制約が掛けられているはず。なのになぜ、そこまでの力を出せている」

「……愛ゆえに、ってヤツだ。恥ずかしい、言わせんなよそんなこと」


 普通、弱体化していてはこうも喰らい付いてはいけなかっただろう。
 本来解けるはず制限は失われておらず、なおかつ立場が違っている。

 どうやらそれらの情報も、事前に聞き及んでいるようだが。
 これまで相対して来た【魔王】とは違う、正史……誤ってきた【魔王】なのだろう。

 だからこそ、俺はここで食い止める。
 すでに【魔王】がやって来たことは変わらない……が、それでもこれ以上、死を与えないためにも。


「剣製魔法──“剣器創造クリエイトソード輝紡剣ウィーバー”」

「…………それは、聖剣か?」

「それに似たナニカ、だな。ただ、性能は保証するぞ?」


 奴から見た俺は、聖剣の担い手として目の色まで変えているように見えるはずだ。
 その色は金──爛々と光る鈍い金色ではなく、純粋なまでに澄んだ黄金色に。


「この剣はただ光り続ける。俺が歩みを止めず、人々を救う象徴──【希望】で在り続ける限りな」

「光るだけならば玩具でもできる。その程度で、俺を止めることができるとでも?」

「たしかにできないだろうよ。今の俺には、な……だから、それができる人の力を借りるだけだ──“剣軌再演リプレイソード”」


 魔法を発動した途端、剣を持つ手から変化が始まる。
 凛とした佇まい、そして静かに握る剣から放たれる鋭い剣気。

 精神力が剣から迸って生まれるものだが、それは剣と一体となった武人のみができる所業……俺もできるにはできるが、今ほど鋭く一本の剣を模すことはできない。

 その変化に【魔王】も気づいたのだろう。
 ただ光属性に対応しているっぽい黒い個体だけでなく、いかにも剣が通じなさそうな粘液やら固そうな個体が生まれ始める。


「獣剣聖姫ティルエ・リュキア・ハワードが弟子、メルス──いざ参らん」

「……名は捨てた、【魔王】としての証も捨てた。今はただの【邪王】だ」


 聖剣(モドキ)を握り締め、【魔王】改め【邪王】へと迫る。
 迎え撃つ【邪王】……その顔は、やはり満足気であった。


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