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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と愚者の狂想譚 その21

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 ★月■▲日。

 ついに■共から指令が下った。
 人族への侵攻を行い、その■■を■■へと捧げろと。

 忌々しくも契約を交わした以上、俺はそれに逆らうことはできない。
 今や俺を■■族だと分かる者は、たとえそれが【賢者】であっても不可能だろう。

 髪の色は黒く染まり、■■族の御業だった■の力はもう使えない。
 与えられた■■の力が、俺という存在を都合のいい道具として弄繰り回したからだ。

 これを書いている最中も、俺は俺が望む望まないに関わらず力を行使し続けていた。
 背後には夥しい量の■気が生まれ、そこから無数の魔物とも呼べない化け物が現れる。

 それが■■から無理やり与えられた力。
 意識的、そして無意識的に■■の眷属になり得る存在を生み出すというものだ。

 ……そのとき耳に挟んだ話だと、これは失敗作なんだとか。
 何かを模そうとして、不完全に出来上がったそれを俺で実験しているらしい。

 ていのいい道具扱いそのもの。
 そんなふざけた一連の流れにも、俺は逆らうことができなかった。

 ──だからこそ、俺は俺の死を以ってこの手記を終わりに導きたい。


  □   ◆   □   ◆   □

 ──というわけで、俺は十全もとい九割がたの力を取り戻した。


《なお、その過程については有料での配信となります。眷属の皆さん、ぜひともチャンネル登録をお願いします》

「……人様のアレやコレ、商売に使わないでもらいたいな」

《では、無料配信にしますか?》

「…………了承を得てから、有料で」


 もともと眷属たちとの日々は、暇な時に撮影している。
 自己紹介の映像も、かなり視聴されているとアンに言われたことがあった。

 最近は機材を持ち込んでのデートもしているが、そちらは有料での公開だ。
 …………だというのに、全然再生回数が落ちていないんだとか。

 先に言っておくが、俺がついさっきまでしていたことは別にやましいことではない。
 うん、たぶんギリギリ最近の少女向け漫画ならイケる気がする。

 まあそんなこんなで、少女たちにプレゼントをしてからアンが施術。
 俺の中で暴れていた制約は、完全に少女たちへと移譲されたのだった。


《甘い言葉を囁き、物で釣って利用。そしてその後はポイッ……最低ですね》

「それ、当事者が一番自覚してるから。でもさあ、それ以外の正解ってあったのか? 俺の人生はラブコメじゃないし、かといって超刺激的なバトル物でもない……世間一般、普通にやりそうなことじゃないか?」

《複数人、それも間髪入れずに行っていたではありませんか》

「……転送したお前が言うか」


 しかも、俺とのやり取りを後続の少女たちが確認可能というオプション付き。
 幸い、やらかす前に知ることができたからよかったものを……危なかった。

 一人ひとり、日頃の感謝を伝えたが、それだけでは上手くいかず。
 誰とは明言しないが、かなりのことを求められたりもした。

 そうしたトラブル(?)を乗り越え、俺はここに居る。
 キリッとした表情で見据えるのは、どこからともなく暗雲が立ち込める人族の国。


「全員、回収できたんだよな?」

《{夢現空間}が発動可能になった時点で、すでに。ただし、この世界に居ることに変わりありませんので、メルス様の死が直接彼女たちの死となることをお忘れなく》

「好き好んで自爆特攻をするわけじゃないから大丈夫。それより、今はアレをどうにかしないとな」


 普段、眷属が住んでいる夢現空間……とは少し違う。
 少女たちが匿われているのは、そこへ向かうための擬似空間のようなもの。

 言うなれば、待機室のようなものだろう。
 現状では向こうへ繋ぐ回廊のようなものが接続されていないので、それまでの時間を潰すための場所……みたいな?

 なので俺は、少女たち──眷属たちを守るためにもスキルの維持が必須となる。
 使用はアンがしているが、スキルの核となる俺が死ねば強制的に解除されてしまう。

 ……だからこそ油断はできない。
 わざわざ国の中心まで行って、そこから全員を守るために防御……なんて愚行も、するわけにはいかないのだ。


「魔導解放──“満天広がる眸子の夜空”」


 暗雲が立ち込めていた空が、突如として更なる黒へ染まっていく。
 だが、一つ二つと光が空に灯ると、やがてそれは満天の星空と化す。


「魔眼は何でもいいや──やれ」


 俺の意思と共に、星々がひと際輝く。
 否、それは星ではなく……見開いた瞳。
 それらが捉えるのは暗雲の正体──瘴気を纏う膨大な数の化け物たち。

 眼前に立ち、見据える。
 その瞬間、化け物たちは突然さまざまな現象に呑まれて死んでいく。

 ある個体は発火、ある個体は冷凍、ある個体は感電……捩じれ、貫かれ、発狂し、炸裂し──あらゆる形で死を迎える。


「痛~~~~ッ。眼が痛い!」


 要はこの魔導、同時に魔眼を展開して発動しているだけ。
 ただ浮かべるだけなら問題ないが、発動するとなると勝手が違う。

 媒介は俺の瞳、そして使えば使うほどその負担が両目に行く。
 情報処理と眼への魔力供給、その二重の痛みが俺を同時に襲っていた。

 普通なら失明を覚悟するレベルなのだが、俺の場合は体が特別製なので問題ない。
 ただ、痛いものは痛いので、そこだけは声に出して時間が過ぎるのを待つ。


《──処理が終わりましたよ。メルス様、魔導を解除してください》

「了解……っと、残念だがもう少しだけ使わないといけないみたいだ」


 魔眼をランダムにしていたお陰で、ソレを捕捉することに成功した。
 アンには悪いが、眼はあとでどうとでもなる……今はやらねばならないことがある。

 浮かんでいた一つ、転移眼を使い俺は補足した座標へと向かうのだった。


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