上 下
2,254 / 2,518
偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と愚者の狂想譚 その19

しおりを挟む


 少なくとも、外見はショタな男を茨で縛り上げる少女たち。
 ……なお、それをやっているのは魔王城、しかし城の主は見て見ぬふりをしている。

 というか、今回やら前回で彼女たちへここに居る誰も対抗できないと知られていた。
 無駄なことはしないのだろう……反感を買いたくない、というのもあるだろうな。


「くっ、殺せ!」

「そんな、君の世界の女騎士みたいな台詞を言われてもね。安心してほしい、アン君が完全な形で施術をしてくれるはずだ」

「──と、いうことですので。さぁ、ノゾム様。大人しく、受け入れてください」

「……裏切り者ぉ」


 本当の意味で、俺を裏切ることはない。
 なのでアンの目的は、俺がこの先で死なないこと……そのためなら、少女たちに多少の犠牲を強いるだろう。


「──ご不満ですか?」

「……うん、不満だよ。何のために、僕はこうしていると思っているのさ」

「普段のノゾム様風に言うのであれば……それは酷く【傲慢】で、【強欲】で──そして【怠惰】です。考えることを止め、ただ己の身の犠牲ですべてを丸め込む。なんとも悲劇のヒロイン染みた献身ですね」

「…………ハァ、そんなにダメだった?」


 コクリと頷かれては、もうこれ以上の抵抗は無駄なのだろう。
 俺の行いは独りよがりで、そして偽善ではない……独善だったと言いたいのだ。

 さすがにそれは、俺としても改善しなければならない。
 ──そしてそれを行うべく、アンはここに来ているわけだ。


「現在、ノゾム様の体に施された邪縛のようなものを、すべて皆様に移します。一人ひとりで背負うものを調整すれば、肉体的な負担は受けなくなります」

「本当に大丈夫……かなんて、野暮な質問はしない方がいいよね。うん、それで全部が解消されるのかな?」

「いえ、スキルの方はせいぜい固有スキルぐらいまででしょう。能力値の方は全員に均等に背負ってもらい、それでも九割は残るはずでしょうが……本来の御力を発揮されるのであれば、問題ないはずです」

「……そっか。みんな、我が儘を言っちゃうけど──力を貸してくれるかな?」


 茨で縛られながら、それでも俺は顔を上げて少女たちを見る。
 ……良かった、嫌そうな顔をしている人は誰も居ないや。


『……妾、嫌なんじゃけど』
「輝夜様!」
『分かっておるよ、ここはかぐやに免じて特別じゃ』


 うん、一人はアレだったようだが、それでも問題ないようだ。
 アンは俺に触れ、しばらく目を閉じ──強い衝撃が俺を襲う。


「うぐっ……!」

『!?』

「これが現在、ノゾム様を蝕んでいた邪縛を擬似的に実体化させたものです……よくもまあ、今まで平然としてられましたね」

「あははは……演技は下手だけど、平然としていることだけは慣れているからね」


 俺の中から飛び出したそれは、光すら呑み込むレベルの黒さを秘めたナニカ。
 全員に均等に分けられるはずだった強力な制約を、一人で抱え込んだ代償。

 俺はそれを、なぜかその部分だけ機能している{感情}の抑制機能を使って抑え込んでいたのだが……どうやら異常だったらしい。

 アンが溜め息を吐いてから何らかの処置をすると、そのナニカは変化する。
 少女たちと同じ数である五つに分かれ、その色もちょっと暗いぐらいの黒色になった。


「ジリーヌ様に関しては、この影響が強く体に作用する危険性がありますので用意はしておりません。また、五人でも六人でもそこまで影響に差はありません──いずれにせよ、苦痛ではありますので」

「アン……!」

「ノゾム様、本来であれば【一蓮托生】や上位版である[生精留転]を使いたいところ。すべては、ご自身が動けなくなるほどの制約を独りで受けたことが始まりなのですよ」

「……すみません」


 引っぺがされたナニカだが、今はまだ俺と結び付いている。
 可視化は擬似的なもので、言うなれば延長コードで伸ばしただけなのだ。

 それを少女たちと繋げ、送り込む。
 俺個人としては忌避すべきそれを成し得てようやく、俺はこの超虚弱状態から解放されることになる。

 少女たちはそれでも、覚悟を決めていた。
 苦痛がどれほどのものなのか、ある程度は予測できているのだろう……だが、アンがナニカから切り離した残滓を飛ばすと──


『っ……!!!?』

「みんな!!」


 全員、苦し気な表情を浮かべて地面に手を付いてしまう。
 残滓でこのレベルって……アレ、もしかして俺って──鈍感!?


「温い、まったく以って足りませんよ。皆様には欠けているものがあります……そう、ノゾム様への──」

「アン、シャラップ♪」

「…………メルス様・・・・、これは必要なことですよ?」


 アンが何を言おうとしているのか、それは俺が一番分かっている。
 だが、それはいけない……言うにしても、俺が言わねばならない。


「かもしれない。けど、ここじゃアレだからね……【魔王】様、どこか部屋を借りられないかな?」

「…………いいだろう。すぐに用意させる」

「ありがとう。たぶん、そのまま僕たちはまた別の世界へ行くと思う。だから、もうお別れだね……明魔族のこと、これからも大事に守っていってね」

「! ……そうか、知っていたんだったな。ああ、俺はもう間違えない。守るべきもの、それを見極めることができたからな」


 そう別れの挨拶を済ませ、俺とアンは少女たちを連れて用意された部屋へ。
 ──それは一人ひとり、個室として用意されている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...