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偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と愚者の狂想譚 その18
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……よくもまあ、ここまでやるものだ。
俺の時とは、状況が全く違うではないか。
もしも、なんて思うことも無い……これは紛れもない、お前たちだけの結果だろう。
そもそも、俺の時に訪れたのは天使であってあんな禍々しい化け物ではない。
いずれにせよ、国を亡ぼすようなふざけた連中ではあるが。
これは愉快、なんとも滑稽な話だ。
本来、約定によって果たされるべきは俺の軌跡の『追想』だったはず。
そこに連中が首を突っ込むかは謎になってしまったが、少なくとも村は滅び、和解は成らず、城は崩されたはずだろう。
それがどうした、何もかもすべてが無事。
向かってくる連中はすべて薙ぎ倒し、■の使徒すら殲滅ときた。
嗚呼、実に面白い。
……だが、この先に救いは無いはずだ。
これが『追想』ではなく『体験』である以上、俺はどのような形であれお前たちと敵対することになるだろう。
約定は果たされている。
ならば俺も、覚悟を決めよう。
……たとえ恥辱に塗れようとも、これもまた約定なのだから。
□ ◆ □ ◆ □
被害ゼロ、その報告を受けて【魔王】は安堵の表情を浮かべる。
そして、俺たちの方を見て……なぜか深い溜め息を吐いた。
「たしかに俺たちは救われた。恩人であるお前たちに、相応の礼は尽くすべきだ……その内容が、情報の秘匿でも無い限りな」
「いやだって、僕たちはすぐに居なくなる存在だし」
「ならば、そのまま名誉を受け入れろ。そもそも、秘匿ができると思うか? あの戦いの光景は、城下のどこからでも見れるようなものだったというのに」
「あははは…………やっぱり、無理?」
深々と頷かれ、淡い期待は潰えた。
まあ俺も、ダメ元で言ってみたんだよ。
しかしながら、【魔王】も【魔王】で一考ぐらいしてくれたもいいだろうに。
「面目を考えてくれ。何もせず、救世主を放り出したとなれば俺への反感も高まる。魔族は実力主義だからな、お前と話したいという女子供も多いだろう」
「…………」
「ほう、何も反応しないとは……いや、理由は分かった」
うん、説明せずとも理解してもらえて何よりです。
俺も背後のジト目を察知できなければ、凡人らしく鼻の下でも伸ばしたかもしれない。
「女には困っていないようだな。ならば、財などで支払いたいが……金品であれば、こことは違う場所であっても同じ価値になるのだろうか?」
「まあ、そうなんだけど。僕たち、お金には困って無いんだよね」
「土地、地位などは無駄になる……ハァ、国宝でも渡そうか、などとも言えない。お前たちの装備を見て、言えるわけがない」
「あははは、お褒めいただき光栄です」
少女たちが身に纏う装備は、そのすべてが俺によって生み出された逸品の数々。
生産神の加護、そして神鉄鉱製の道具で丹精込めて作ったので当然最高級である。
「…………名誉として与えられるものであれば、もう何でもいい。とりあえず、欲しいものを口にしてみろ」
「そっか……じゃあ、ここからは──」
「──ボクが代わりに」
「…………もう好きにしろ」
交渉役を先んじて俺がやっていた理由。
それは【魔王】から、先ほどの言葉を引き出すため……シェリンが相手だと、何でもとは言えないからな。
アレもダメ、これもダメと思考力をじわじわと奪って辿り着いたこの結果。
そして、彼女が交渉の末に報酬を決めたそのとき──アナウンスが脳内で響く。
□ ◆ □ ◆ □
≪第三の■劇:使徒来りて──終了≫
≪二十四時間後、第四の■劇へ転送します≫
・
・
・
≪──物語が彩られました≫
≪閲覧者の能力値・スキルの制限が緩和されます≫
≪──物語が描かれました≫
≪閲覧者の武技・魔技の制限が緩和されました≫
≪評価──■……とナりマス≫
≪評価に合ワせ、■■を実行しマス≫
≪第一、第二、第三の■劇における■評価を確認≫
≪第四の■劇における、難易度を調整……特殊モードへ移行します≫
ERROR 異常なコードを確認。
制限の緩和がかくに……かく……か……■■■■■……
≪──物語が塗り潰されました≫
≪閲覧時、閲覧者の能力値・スキルの制限が初期状態に戻ります≫
≪──物語が踏み砕かれました≫
≪閲覧時、閲覧者の武技・魔技の制限が初期状態に戻ります≫
≪このモードは大変難易度が高いです≫
≪拒否をし、通常モードでの閲覧も可能となります≫
≪■■■■?──〔YES〕/〔YES〕≫
□ ◆ □ ◆ □
……あからさまなまでに、徹底した弱体化なんだろう。
本来であれば、特殊モードとやらを選んでもある程度の補助はあるはずだ。
しかし、そういったものはすべて無し、そのうえで制限だけは元通り。
本来の仕様と噛み合わず、バグッているのだが……強引に突破したな。
そして最後、見ての通り拒否できると書いてあるのにできない。
逃げるわけないよな、と挑発しているのが見て取れる。
(まっ、答えは決まっているけ──)
「……メル君?」
すぐに〔YES〕を押そうとした。
しかし、その僅かな挙動に気づいた者が一人……シャルが心配そうに俺を見ている。
「……次が最後みたいです。そして、その分だけ全力で妨害してきます。もしかしたら、みんなも弱体化させられるかもしれません」
「! でも、その顔……自分がなんとかするとか思ってるんじゃないの?」
「もし、そうだと言ったら?」
「──みんな! メル君がまた何かしようとしてる!」
た、ためらいが無かった!?
突然の叫び声に驚く城内、しかし少女たちだけはすぐに発言の内容を理解して──俺の全身を拘束する。
「なっ……は、放して!?」
「こうでもしないと、すぐにでも君は選択をしそうだからね。やることは決まっている、だが準備が肝心だ。そう、ちょうどいい機会だからネタ晴らしだ──ねぇ、アン君?」
「っ……!?」
なんだかもう、嫌な気しかしない。
だが、縛られた俺には、どうすることもできないのだった。
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