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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と愚者の狂想譚 その14

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 ☆月□▲日。

 すべてが瓦礫と化した魔王城。
 繁栄の証は失われ、命は絶えた。

 あの日、【勇者】と■■の使徒共によって侵攻を受けた魔王城。
 裏切り者によって警戒態勢が緩み、その接近に気づくことができなかったが故の事態。

 突然の攻撃に城下は混乱し、城内も対応に遅れた。
 使徒たちは一方的に殲滅を宣言すると、聖なる光を纏った武具で攻撃を行う。

 ただでさえ魔族の弱点とも呼べる聖属性。
 それを人族ではなく、より神に近い連中が使ってくるのだから、魔族の民たちでは対抗することもできなかった。

 そして、それとは時間差で人族が悠々と城下へ侵入。
 自らの行いは正当な行いだと嘯き、魔族は浄化だと叫び──殺し、奪い、侵していく。

 俺も懸命に動いた。
 兵たちに民を守るよう告げ、城外の者を可能な限り殺す。

 だが忌々しくも■■共は、使徒をどれだけ消しても増やしていく。
 やがて、俺は力尽き──強制的に、あの場へと連れていかれた。

  □   ◆   □   ◆   □


 クソ雑魚状態な俺を連れ、少女たちは前線へと向かう。
 空からは堕天使モドキの使徒、地上からは邪教徒たちの侵攻。

 それらを防がなければ、魔王城及び魔族の皆様はロクでもない死に方を迎える。
 手記を読んで得た情報は、すでに二度目の悲劇で少女たちと【魔王】に伝えておいた。

 没収された神器[イニジオン]。
 代わりとなるこれといった武器も無かったため、現在の俺は──なぜか二つ折り型の編み笠を頭に被っていた。

 昔の和風旅人みたいな状態で、なんというか時代や場所に合っていない感が否めない。
 だが、安全面を考慮し、様々なアイテムを装備している現状では何も言えなかった。


「『守護のペンダント』に『蓄魔のペンダント』まで持ち込むなんて……みんな、過保護すぎじゃないかな?」

「その台詞は、そっくりそのまま君に返ってくる言葉だよ。その笠、だったね? とんでもないほどの力を帯びているじゃないか」

「──『破天笠[ドラグリュウレ]』。今の僕だと、性能を完全には出し切れませんけどね。それでも、自衛ぐらいには使えますよ」


 かつて、その名を冠していたのは生み出されたユニーク種『覇天劉』だ。
 その個体から抽出された編み笠は、尋常ではない竜種の力を帯びている。

 ──そりゃそうだ、元の個体がフィレル、シュリュ、ソウの因子を持っているからな。

 太陽に愛された吸血龍姫、始まりの劉帝、そして元生命最強の白銀夜龍の力を使える。
 弱体化し、能力に制限が入っていても……常人ではありえない力を体現可能だった。


「……と、話はここまでのようだね。では、事前に決めた通りに」

『了解!』

「それじゃあ助手君も、準備はいいね?」

「はい、いつでも」


 城壁へ向かったところで、少女たちは各自が成すべきことを成す。
 俺とシェリン、そして護衛としてジリーヌが残り、各戦線のサポートを行う。

 共に魔術デバイスを嵌め、魔術を起動。
 彼女は事前に使った“集団合結マルチタクティクス”で、必要な情報の伝達を。
 そして、俺は──


「──『万色魔力オールカラー』、『純薄色彩カラーリング』」


 属性を自在に変えられる魔術、そして自身の属性適性を弄れる魔術を使っていた。
 変える色は白、属性適正は光に特化──それらを宙に浮かべるだけの簡単なお仕事。

 現状、俺は戦力として期待されていない。
 シェリンが俺を前線に連れてきたのは、後方に居るよりも安全だから……というか、そのとき言われた通り独断専行を防ぐためだ。

 俺には俺でたしかに企んでいることがあるので、その辺りは否定できない。
 そのうえで、信頼されているのであればと[ドラグリュウレ]を用いている。


「みんな、サクサク倒してますね。魔族の人たちも驚いています」

「君の関係者は、誰も彼もが君に比肩せんと弛まぬ努力をしているからね。あの程度、どうってことないんだろう」

「……それは、お姉さんもですか?」

「さて、それはどうだろう──」

「母君は最近、他の探偵の方々の下を訪れてさまざまなことを学んでいますよ。少しでも父君のため──むぐっ!」


 娘であるジリーヌの口封じをするシェリンは、ニコリと笑みを浮かべるだけ。
 ……せっかく隠したのに、その分だけ羞恥も増したのか顔が赤い。

 しかし、あの世界の探偵はどいつもこいつも超常的なことをするからな。
 それを学んだら……うん、未来予知とか余裕でやりそうな気がする。

 俺の表情から、何を考えているのかすぐに分かったのだろう。
 大人しく口から手を離し、少々すねた様子で呟く。


「……悪いかい? ボクだって、君の役に立ちたいんだ」

「あっ、えっと……うん、嬉しいですよ。でも、大丈夫なんですか? だって、他の方々とは……」

「そちらは問題ないさ……ね、ジリーヌ?」

「母君は──な、なんでもありません!」


 ……ああうん、無茶したなこれ。
 もともと、あの世界の『探偵』としての基準を満たしていなかったと、シェリンの待遇は良くなかった。

 それを俺と事件を解決することで、ある程度は改善したが……それでもまだ、火種はあちこちで燻ぶっていたはずだ。

 だが、それも多少強引な方法で何とかしてしまったらしい。
 ……本当、俺の周りの女性は強かな人たちばっかりだ。


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