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偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と愚者の狂想譚 その13
しおりを挟む☆月□■日。
……その日はまさに地獄だった。
こうして記憶を思い返し、書くことも本来であれば嫌になるほどだ。
だが、それこそが新時代の■を自称する者たちとの契約。
俺の■■を媒介とし、次代の【魔王】にアレを託すことができるらしい。
■に魂を売り渡したようなものだが、それでも俺の生き様に意味を残すことができる。
……もうすでに、この世界に俺の生きた証など残っていないのだから。
■■族のことも、俺という存在によってしか証明できない現状。
奴らが現れ、その手によって俺の【魔王】としての誓いは淡くも崩れ去った。
たとえその行いが、未来において間違いであったと思われようとも。
真実を、【魔王】が知ることができる……それは大きいことだ。
改めて語ろう。
この日、【勇者】と■■の使徒共によって突如として魔王城は滅ぼされた。
──そして、俺は■に魂を売った。
□ ◆ □ ◆ □
舞台が切り替わり、俺たちの居る場所は強制的に変更される。
何も無い荒野だったそこは、気が付けば妖しく禍々しい黒染めの城へ。
そして、そこには俺たち以外にも多くの者が集まっていた。
玉座に座った白髪の男、そして……突然現れた俺たちに武器を向ける兵士たち。
「……そうか、今日がその日なのか。ああ、この者たちは俺の古き友だ。害は無い、だから武器を収めよ」
『──ハッ!』
「しかし、ついに来たか。いや、来てしまったというべきか……何にせよ、命運を分ける決戦のため、これまで準備は整えてきた。奴ら──神々の使徒に備えてな」
三回目の舞台、それは魔王城。
二度目の出来事を覚え、三度目に向けてさまざまな策を講じてくれていた【魔王】。
残念なことに俺は弱いままだが、それでも一つだけ切り札を用意してある。
それは[称号]──ここぞというタイミングで、きっと役に立つだろう。
なんてことを思っていると、城内に激震が走った。
それと時間差で警報のような音が鳴り響くと、玉座に居た【魔王】が立ち上がる。
「こんなにも早いとは……まあ良い。総員、配置に着け!」
『ハッ!』
「お前たちは……まあ、どこに居ても居なくても活躍はするだろう。俺の権限で、城のどこでも入れるようにする。だから、どうかここを守るのに手を貸してほしい」
「──お安い御用だよ。彼女たち……冗談冗談、僕たちに任せて!」
非難の視線を受け、台詞を少しだけ修正してしまった。
そんな俺に対し、変わらぬなとだけ呟いた【魔王】……おい、どういう意味だ。
それを聞く暇もなく、【魔王】はどこかへ行ってしまう。
残された俺たち……そして、シェリンが誰よりも早く口を開く。
「助手君、今回もボクでいいのかい?」
「これまでの実績があるからね。うん、よろしくお願いします」
「了解した──では、まずは現状を把握しなければならない。シャル君、精霊たちに助力してもらって、この城と周辺の状況を調べてくれるかな?」
「は、はい! やってみます……」
シャルが精霊たちに頼むと、壁を擦り抜けて外へ向かった。
探知スキルじゃ遠くまで調べられないし、城内だからドローンも飛ばせないからな。
明魔族の村でやったように、精霊たちは集めた情報をモニターで可視化してくれる。
それによると──天と地、両面から同時に侵攻されているようだ。
「使徒というのは、たしか天使の一種という認識で良かったんだよね?」
「うん、白い翼だよ」
「……天使に当て嵌めるのであれば、いちおうアレは堕天使ということになるんだがね。だが、それにしても──禍々しすぎるね」
空から降ってくる天の使者。
御使い、とも称される彼らは手記の通りであれば天使のはずだった。
だが、翼は黒く……何より、猛禽類の羽に似た構造をしていない。
それは翼ではなく、ただ背中から理解不能な生物を生やしただけのナニカだった。
「そして、地上からやって来ているのはそのほとんどが黒尽くめの集団……【勇者】君はどうやら、約束を違わなかったようだね」
「辻褄合わせに、邪教徒を使ったということでしょうか? だから、天使ではなくあの堕天使モドキを使っていると?」
「あるいは、また別の理由か……ローブの中身が、本来の来訪者である可能性もある。もう少し、調べてもらおうか」
「あんまり、近づきたくないみたいです。どちらとも、なんだか嫌な気配があるみたい」
精霊たちが忌避する気配。
俺の<畏怖嫌厭>を知っている少女たちはすぐにそれを理解し、精霊たちを引っ込めて代わりに通路を確認してからドローンを発進。
ステルス機能付きの偵察機が、代わりに堕天使モドキと邪教徒たちを調査。
それによって、敵戦力の異様さを改めて知ることができた。
「……会話は無く、常に『邪神様のために』と呟くだけ。ノゾム君命名の堕天使モドキに至っては、言葉すら発していない。これはもう、明らかなボクらへの妨害なんだろうね」
「手記には、使徒が宣告をしたという記載もありました。なので、少なくとも会話をするだけの知能はあったはずです」
「彼らの目的は、本来と異なり蹂躙だけ……それならばわざわざ記載通りにやらずとも、純粋に力だけに特化した存在を用意してもいいというわけさ」
「……これから、どうしますか?」
聞かずとも、やること自体は確定済み。
それを可能な限り被害を抑え、確実に成功するために必要なことを名探偵が考える……思考時間は、彼女にとってほぼ無限だ。
「そうだね──助手君、前に出てもらうよ」
『っ……!?』
「いいんですか?」
「もちろん、ボクたちが全力で守るがね。今回ばかりは、君を安全な場所に……というわけにはいかないようなんだ。何より、そうしたとしても君は勝手に行動する。ならば、手の届く範囲に居てもらった方がいいだろう」
シェリンの言葉に全員が頷く。
……うん、信用されていなかったか。
正しくは、俺が信用に値しないことを信頼されていたと言うべきかもしれない。
ともあれ、そんなこんなで俺も含めて打って出ることが決定した。
シェリンの話をしっかりと聞き、邪魔にならないように頑張ろう。
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