上 下
2,248 / 2,518
偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と愚者の狂想譚 その13

しおりを挟む


 ☆月□■日。

 ……その日はまさに地獄だった。
 こうして記憶を思い返し、書くことも本来であれば嫌になるほどだ。

 だが、それこそが新時代の■を自称する者たちとの契約。
 俺の■■を媒介とし、次代の【魔王】にアレを託すことができるらしい。

 ■に魂を売り渡したようなものだが、それでも俺の生き様に意味を残すことができる。
 ……もうすでに、この世界に俺の生きた証など残っていないのだから。

 ■■族のことも、俺という存在によってしか証明できない現状。
 奴らが現れ、その手によって俺の【魔王】としての誓いは淡くも崩れ去った。

 たとえその行いが、未来において間違いであったと思われようとも。
 真実を、【魔王】が知ることができる……それは大きいことだ。

 改めて語ろう。
 この日、【勇者】と■■の使徒共によって突如として魔王城は滅ぼされた。

 ──そして、俺は■に魂を売った。

  □   ◆   □   ◆   □


 舞台が切り替わり、俺たちの居る場所は強制的に変更される。
 何も無い荒野だったそこは、気が付けば妖しく禍々しい黒染めの城へ。

 そして、そこには俺たち以外にも多くの者が集まっていた。
 玉座に座った白髪の男、そして……突然現れた俺たちに武器を向ける兵士たち。


「……そうか、今日がその日なのか。ああ、この者たちは俺の古き友だ。害は無い、だから武器を収めよ」

『──ハッ!』

「しかし、ついに来たか。いや、来てしまったというべきか……何にせよ、命運を分ける決戦のため、これまで準備は整えてきた。奴ら──神々の使徒に備えてな」


 三回目の舞台、それは魔王城。
 二度目の出来事を覚え、三度目に向けてさまざまな策を講じてくれていた【魔王】。

 残念なことに俺は弱いままだが、それでも一つだけ切り札を用意してある。
 それは[称号]──ここぞというタイミングで、きっと役に立つだろう。

 なんてことを思っていると、城内に激震が走った。
 それと時間差で警報のような音が鳴り響くと、玉座に居た【魔王】が立ち上がる。


「こんなにも早いとは……まあ良い。総員、配置に着け!」

『ハッ!』

「お前たちは……まあ、どこに居ても居なくても活躍はするだろう。俺の権限で、城のどこでも入れるようにする。だから、どうかここを守るのに手を貸してほしい」

「──お安い御用だよ。彼女たち……冗談冗談、僕たちに任せて!」


 非難の視線を受け、台詞を少しだけ修正してしまった。
 そんな俺に対し、変わらぬなとだけ呟いた【魔王】……おい、どういう意味だ。

 それを聞く暇もなく、【魔王】はどこかへ行ってしまう。
 残された俺たち……そして、シェリンが誰よりも早く口を開く。


「助手君、今回もボクでいいのかい?」

「これまでの実績があるからね。うん、よろしくお願いします」

「了解した──では、まずは現状を把握しなければならない。シャル君、精霊たちに助力してもらって、この城と周辺の状況を調べてくれるかな?」

「は、はい! やってみます……」


 シャルが精霊たちに頼むと、壁を擦り抜けて外へ向かった。
 探知スキルじゃ遠くまで調べられないし、城内だからドローンも飛ばせないからな。

 明魔族の村でやったように、精霊たちは集めた情報をモニターで可視化してくれる。
 それによると──天と地、両面から同時に侵攻されているようだ。


「使徒というのは、たしか天使の一種という認識で良かったんだよね?」

「うん、白い翼だよ」

「……天使に当て嵌めるのであれば、いちおうアレは堕天使ということになるんだがね。だが、それにしても──禍々しすぎるね」


 空から降ってくる天の使者。
 御使い、とも称される彼らは手記の通りであれば天使のはずだった。

 だが、翼は黒く……何より、猛禽類の羽に似た構造をしていない。
 それは翼ではなく、ただ背中から理解不能な生物を生やしただけのナニカだった。


「そして、地上からやって来ているのはそのほとんどが黒尽くめの集団……【勇者】君はどうやら、約束を違わなかったようだね」

「辻褄合わせに、邪教徒を使ったということでしょうか? だから、天使ではなくあの堕天使モドキを使っていると?」

「あるいは、また別の理由か……ローブの中身が、本来の来訪者である可能性もある。もう少し、調べてもらおうか」

「あんまり、近づきたくないみたいです。どちらとも、なんだか嫌な気配があるみたい」


 精霊たちが忌避する気配。
 俺の<畏怖嫌厭>を知っている少女たちはすぐにそれを理解し、精霊たちを引っ込めて代わりに通路を確認してからドローンを発進。

 ステルス機能付きの偵察機が、代わりに堕天使モドキと邪教徒たちを調査。
 それによって、敵戦力の異様さを改めて知ることができた。


「……会話は無く、常に『邪神様のために』と呟くだけ。ノゾム君命名の堕天使モドキに至っては、言葉すら発していない。これはもう、明らかなボクらへの妨害なんだろうね」

「手記には、使徒が宣告をしたという記載もありました。なので、少なくとも会話をするだけの知能はあったはずです」

「彼らの目的は、本来と異なり蹂躙だけ……それならばわざわざ記載通りにやらずとも、純粋に力だけに特化した存在を用意してもいいというわけさ」

「……これから、どうしますか?」


 聞かずとも、やること自体は確定済み。
 それを可能な限り被害を抑え、確実に成功するために必要なことを名探偵が考える……思考時間は、彼女にとってほぼ無限だ。


「そうだね──助手君、前に出てもらうよ」

『っ……!?』

「いいんですか?」

「もちろん、ボクたちが全力で守るがね。今回ばかりは、君を安全な場所に……というわけにはいかないようなんだ。何より、そうしたとしても君は勝手に行動する。ならば、手の届く範囲に居てもらった方がいいだろう」


 シェリンの言葉に全員が頷く。
 ……うん、信用されていなかったか。
 正しくは、俺が信用に値しないことを信頼されていたと言うべきかもしれない。

 ともあれ、そんなこんなで俺も含めて打って出ることが決定した。
 シェリンの話をしっかりと聞き、邪魔にならないように頑張ろう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...