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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と愚者の狂想譚 その12

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 本来、無かったであろう光景。
 そこでは【勇者】と【魔王】が手を組み、自身らに訪れた問題を解決すべく動く様子が見て取れる。

 彼らは俺……というか、今回の問題に手を出した少女たちを観ていた。
 そして、そのうえで彼女たちが大切にしている(と思いたい)俺を見ている。


「久しぶり……なんだけどね、覚えていないよね?」

「? 何のことだ?」


 俺の突然の発言に、先ほどまでお礼を述べていた【魔王】が訝しむ表情を。
 ……俺も俺で、その反応は分かっていたので苦笑を浮かべる。


「いえ、分かっていたんです。本当は、ある方法で思い出させることもできたのですが、今はそれもできませんので。約束の言葉だけでも──『我が悲願、明魔族の未来のために筆を取らん』」

「! それは……貴様、何故それを!?」

「これを聞けば、信じてくれる。そう、未来の貴方から聞いていたからですよ。改めまして、どうか永い話しに付き合っていただけますと幸いです」


 すでにシェリンが、俺たちがこの世界の存在では無いことを伝えていた。
 確証を持っていなかった【魔王】だが、俺の言葉でその認識を変えたようだ。

 ……わけが分からないと不思議がっている【勇者】には悪いが、少しだけ口を挟ませてもらおうか。


「……すべてを信じるとは言えぬが、それでもアレを知っていることだけは本当のようだな。そちらの娘から、ある程度のことは効癒えている……お前たちの知る未来と、ここはもう違った分岐をしているのか」

「そうですね。端的に言ってしまえば、本来ではお二人が本音を語り合うことなく、そのまま終わってしまいました。そして、最終的に……これまでと同じになります」

「!!」

「……そうか。なるほどな、今回のようなことが無ければ、そうなっていただろうな。第三者、そして第四者の介入。どちらも無ければ、このように腹を割って話す機会も無かったはずだからな」


 本来の会談を俺たちが邪魔し、邪教徒たちが破綻に終わる要因──すなわち裏切り者を消してくれたお陰で、【勇者】と【魔王】は皮肉にも共闘することを選んでいる。

 人族と魔族の和解、それは彼らが胸の内に秘めていた小さな【希望】。
 他者の意思で消えてしまうほどの小さな火種が、悪意によって奇跡的に燃え盛った。

 驚いた様子の【勇者】。
 だが【魔王】は分かっているらしい……手記が正しいのであれば、聖職者たちが両者の主張を交わす前に遮っていたわけだしな。


「──そのうえで問おう、これからお前たちは何を成すのか」

「…………」

「このような場所まで来るのだ、相当に悲惨な未来なのだろう。そして、それはこれからも続く……娘の話によれば、村を救ってくれたのはお前たちだったそうだな。ならば、正直に言え──俺に起きた、そしてこれから起き得るであろう悪夢を」


 手記の内容は誰にも話していない。
 だからこそ、シェリンも話を完全には伝え切ることができていなかった。

 ……俺としては、もともと一人でこなそうとしていたからな。
 誰も幸せにならない、そんな史実を知ってほしくは無かった。


「……これまで通りなら、僕たちの旅路は貴方のアレの記述を基に決められす。そして、それによると──」


 ──魔王城が、【勇者】と神々の使徒の手によって滅びます。


  □   ◆   □   ◆   □


≪第二の■劇:裏切りの決裂──終了≫
≪二十四時間後、第三の■劇へ転送します≫

 ・
 ・
 ・

≪──物語が彩られました≫
≪閲覧者の能力値・スキルの制限が緩和されます≫

≪──物語が描かれました≫
≪閲覧者の武技・魔技の制限が緩和されました≫

≪評価──■……とナりマス≫
≪評価に合ワせ、緩和を実行しマス≫


  □   ◆   □   ◆   □


 説明を終え、再び次の舞台へ向かうまでの準備期間。
 残念……というかやはり、俺に掛けられた制限が緩まることは無かった。

 これに関してはもう諦めて、今回は彼女たちに命運を委ねた方が良いのだろう。
 ……まあ、俺は諦めが悪い方なので、ギリギリまで粘るけども。


「【魔王】の記憶は第一の悲劇の影響を受けていた。つまり、時系列的にはしっかりと繋がっていた……【勇者】と和解できたこと、それは確実に未来へ影響を及ぼすはず」


 侵攻して来た【勇者】と使徒。
 だが、話を聞いた【勇者】はたとえ神託が下ろうと魔王城を攻めないことを誓った。

 人質とかそういう可能性もあるので、絶対では無いが……それでも史実通り、本気で率先して【魔王】を滅ぼす気は無くなる。


「[イニジオン]はリラに貸しちゃったし、また何か方法を探さないとな……またもう一段階、難易度は上がるわけだし」


 没収、とも言えるが現状態の俺が使える最強武器は使えなくなった。
 少女たちは、俺が後方で安静にしていることを望んでいる……無論、脱走するが。

 魔術で戦うことはできても、それはまったく動かない前提。
 あまり向いてないんだよな、現状だとデバイス経由限定なので並列は二つが限界だし。


「技能系スキル、[アイテムボックス]経由で出せる無数の装備、そして魔術……あとはアイテムだけど、現状だとそこまで協力なのは作れないんだよね」


 技能系スキルでそれなりに賄えている生産だが、品質補正には器用さも関わっている。
 そちらの恩恵皆無、プラス無職ということで普段以上に品質が下がっていた。

 それでも称号『生産を極めし者』のお陰もあって、B品質は確定なんだけどな。
 ……だが、それ以上が全然作れていないので、ポーションぐらいしか役に立たない。


「……[称号]か。そういえば、『孤闘者』のままだっけ」


 セットすればソロ活動時、全能力値を三倍にするという破格の称号だが、眷属と居る現状ではほとんど使い物にならない。

 祈念者であれば、それを[メニュー]経由で変更可能だ。
 なので、何かいいものがあれば……と探してみる。


「! こ、これは──!?」


 そんなこんなで、準備時間はあっという間に過ぎ去っていく。
 ──第三の悲劇が、再び【魔王】の運命を大きく揺さぶろうとしていた。


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