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偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と愚者の狂想譚 その10
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明日はいよいよ、【勇者】と会談だ。
改めて思う、【魔王】に相対する存在である【勇者】とはどういった存在なのか。
俺とて【魔王】の知識を持つ者。
それがどれだけ険しく、厳しいものになるのかは百も承知。
だが、■■族の同朋たちはそれを強く願い俺を送り出した……。
その期待に応えることこそ、『■■魔王』として【魔王】へ至った俺の役割だ。
人族と魔族の融和、四天王たちはそれに賛同してくれた。
……もちろん、全員が、心から受け入れたわけでは無いが。
俺が【魔王】、もっとも力ある魔族であるからという理屈でもある。
ならば、否定が肯定になるよう……力を振るい続けなければなるまい。
だがもし、【勇者】や人族が俺たちを受け入れてくれたのであれば……過去の因果を断ち切り、分かり合う世を築くことができるのであれば──■■族は救われる。
人族からも、魔族からも忌み嫌われた俺たち■■族。
その生に意味があったことを、俺が証明せねばなるまい。
□ ◆ □ ◆ □
相対する【魔王】と【勇者】。
だが、正義を歩むはずの【勇者】が錯乱。
それでも聖職者を無力化したことで、狂気の光の影響がだいぶ弱まったようで。
本来ハイスペックな【勇者】の耐性を引き出したか、理性を半ば取り戻している。
だからだろう、ボロボロと涙を流す様子がリアの視界から目に映った。
「──リア、感覚は切るよ」
《……いいのかい?》
「これは【勇者】と【魔王】のお話で、お邪魔虫は要らないだろうからね。リアたちは、決着がついたら茨を解いて外に居る教団の処理をしてほしい」
《了解。他のみんなにも、そう伝えるよ》
ここまで来れば、どのように幕が閉じるかなど観ずとも分かる。
ならば俺がやるべきことは、もっと別のことだろう。
「──“無限射程”、“追尾”」
邪教徒たちが狂気の光を生み出した儀式。
そこで生み出された邪神の気配……それを[イニジオン]で補足していた。
「一発限りだけど──“魔弾生成・神聖”」
魔力をかなり籠め、弾丸を一発装填。
聖なる力を極限まで高めたそれを、追尾スキルが示す場所へ構える。
「──“一射殺中”」
そして、引き金を引く。
弾丸は真っすぐ飛んでいき、やがて隔てられた次元の壁すらも超えた。
弾丸がどうなったのかは不明。
しかし、[イニジオン]は告げる──確実に着弾したと。
「……とりあえず、これで……大丈夫かな」
そして、ここで体力の限界。
抑え込んでいた反動の影響、そして撃ち続けるために消費してきた魔力もガス欠状態。
相応の代償、とも言えるだろう。
元より有り得なかったイレギュラー。
しかも、邪に堕ちたとはいえ神まで干渉しての大惨事。
これを止めるために支払ったと思えば、安いものだ。
……【魔王】との約定だ、果たさないわけにはいかない。
『…………』
「あっ、もう終わったんですね。少し、気を逸らしてしまっていました」
「メル君……正座!」
「正座? ……あっ、はい」
誤魔化しは通じないらしく、眼前には涙目で怒るシャルが。
こうも訴えかけられては、降参だ……言われた通りに正座をする。
「もう、ワタシたちがどれだけ心配したと思うの! もう……もう、もう!」
「姫様、牛さんみたいですね」
「誤魔化さないで!! 今のメル君、全然大丈夫じゃないでしょ! 精霊たちに頼んでも全然治せないし、回復魔法も通じない! それでどうして安心できるの!」
「…………僕の本懐は、みんなを──」
「そのみんなに、どうしてメル君自身が含まれていないのさ!?」
それは……という返答は、声になる前に俺の中で消えていく。
シャルには悪いが、これはいったい何度目の返事となるのだろう。
比較的扱いやすい[イニジオン]だが、それでも神気を用いた逸品であることになんら変わりはない……神気を自然に扱えぬ今の体では、内外から影響を及ばされるようだ。
「何度も何度も、同じことを言ってきましたよ。僕は死にたくない、だけどみんなを死なせたくない……僕以上に死なせたくない。僕が僕である限り、何度だって」
「だからって──!」
「うん、でもこれが僕だから。人として、どうかしているとは思うけど……僕からは、頼むことしかできません。こんなダメな僕を、支えてはくれませんか?」
シャルに向けて手を……伸ばせないまま、届かずに地面に。
だがその直前、彼女が俺の手を掴み、そのまま自分と繋げた。
「……世間一般からすれば、僕って最低のクズになれる資質がある気がします」
「……うん」
「周りを女の子ばっかりで、男は近づけさせないで、そのうえ過保護で……なのに自分は好き勝手にやって」
「……うん!」
おや、なんだか周囲の空気が薄くなっている気がする。
俺のやって来たこと、それはただひたすらに【傲慢】で【強欲】で【色欲】だからな。
これ以上は何も言わない。
だが、シャルは俺に問うてくる。
「……もう、こんなことしない?」
「必要とあれば、何度でも」
「……ワタシたちのこと、どう思う?」
「約束します、生涯守り抜きますと。この命に代え──むぐ」
手を引っ張り、俺を起こした。
そのまま無抵抗な体は、シャルの小さな体に包まれる。
「今はこれで……やっぱり、メル君は騎士には向いてないと思うよ」
「……そう、ですか」
「だから、メル君だけに無茶はさせない。これはもう、決定事項です!」
「それはどういう……こ、れは……」
体が重くなり、自然と瞼が落ちてしまう。
間違いなくシャルの仕業だ……しかし、俺がそれに抗うことはない。
「今はもう、休もう? あとのことは、このままワタシたちに任せて……ねっ?」
「……でも、しかし──」
「騎士であるメル君に、命令です」
「……否定したのに。でも、うん……少し、休ませて、もらいます」
やがて、意識は完全に断絶──はしないけども、それでも俺は意識を闇へ沈める。
それを少女たちが望むなら……と考えている内に、眠りに着くのだった。
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