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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と愚者の狂想譚 その09

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 リアが茨ですべてを覆い、強制的に人族と魔族がぶつからないように仕組んだ。
 しかし、どこからともなく現われた黒尽くめの集団……俺はそれを外から狙撃中。

 一度目の会談、その情報は少ない。
 だが、明らかに場違いな連中の侵入は、存在しないはずのイレギュラーとして対応しても構わないだろう。

 オリジナル神器[イニジオン]は、的確に彼の存在たちを撃ち続ける。
 当然、隣に居た仲間が死ねば反応もするのだが……すべてが無駄。


「──“魔弾生成・爆”」


 言葉にして紡ぎ、イメージを補強。
 弾丸は再び不自然なほどに曲射され、射線の見極めのためか設置された土の壁へ──そして、炸裂。

 飛んでくる破片をモノともせず、命中した辺りから直線方向へ大量の魔法を発射。
 姿を隠していることは分かっているだろうし、向こうも荒野だからと容赦していない。

 これでやったか、という口の動きをした者にはプレゼントして弾丸を贈呈。
 俺がまだ死んでいないと分かり、再び意味も無い警戒態勢を取る。


「──“魔弾生成・氷”」


 再び魔弾を生成し、射出。
 弾丸は先ほど寸分狂わぬ場所へ当たり、周囲を一気に凍てつかせる。

 これで向こうが分かることは二つ──着弾する弾丸に、複数の属性が付与されること。
 そして、狙撃手は先ほど狙った場所よりも遠くに居ることだ。

 そうじゃないと思う者もいるだろうが、後者はそう誤解してもおかしくない。
 狙われた方向が同じである以上、こちらが距離に自信を持っている……と誤認する。


「だから、こっちは大丈夫なんだけど……途中で切ったのは不味かったかな?」


 別に念話をしながらでも狙撃はできたのだが、ラグ無しで違和感なく会話はできない。
 それを名探偵のシェリンに聞かれれば、俺が交戦中なのはバレバレだ。

 内部で何が起きるのか分からない。
 狙撃で着実に数を減らしているが、もう侵攻は諦めてでも何かをしたいらしく、その場で儀式めいたことをしている。

 本来狙っていた結果は出せないにしろ、それでも何かしら面倒な事態になるだろう。
 ……ある意味、眷属に来てもらった方が楽だとは思うけどな。


「──怒られても、それでもやりたいから。僕は……バカなんだろうね」


 自嘲気味に笑みを零し、再びレンズを覗き込み──弾丸を射出。
 今回は空間、壁を無視してそのまま内部に居る連中を狙撃。

 防御も無意味だと分かったのだろう、その結果──黒い光が茨の内部から漏れ出る。


「……“感覚共有”」

《! メルス、あとでみんなからお説教を受けるように!》

「……急だね。うん、でも分かったよ。それで、内部の状況は?」

《人族が全員、それとほとんどの魔族が黒い光に呑まれたんだ。で、まだ正気の魔族を問答無用で殺しにかかってる》


 狂気の光、とでも呼ぶべきか。
 それらに魅入られた彼らは、同朋ではない者たちを殺そうとしていると。

 人族が全員というのは……まあ、そういう補正なんだろうか。
 というか【勇者】、こういうときこそ出番だろうに。

 視覚を共有して確認すれば、たしかにおかしくなって剣を振り回す【勇者】の姿が。
 魔族の中にもそうなっている者が居た……しかも、四天王っぽい強そうなヤツも。


《今は僕たちが【魔王】たちと手を組んで、その対応をしている……これがメルスの望んだことなのかな?》

「いや、そういうことじゃない。けど、予想はしていたよ。これは、【魔王】を導く物語だからね」


 狙撃は止めたが、茨の外側で何かが起きている……ということはない。
 どうやら先ほどの儀式で、すでに全員が殉職してしまったようだ。

 命を懸けた禁忌の魔法、それゆえに効果は【勇者】にまで及んだのだろう。
 そして、それをどうにかするのが【魔王】に課せられた使命……。


《茨は解除するよ。だから、すぐに──》

「いいよ、そのままで。こっちから、そのまま撃つから。リアはそのままにして、逃げられないようにしておいて」

《! ……無茶はしないでよ》


 返事はせず、再び弾丸を装填。
 今回もまた、茨を通り抜けられるように空間属性の魔弾に設定。


「──“状態異常付与・極”」


 そしてもう一つ、弾丸にあるものを付与して準備完了。
 息を軽く吸い、停止……リアの視界と千里眼スキルを使い、ターゲットを捕捉。


「──“無身射撃”、“一射殺中”」


 狙うのは──聖職者。
 黒い光を浴びてから、何かをしようとしていたのを視たからだ。

 空間を通り抜け、弾丸はそのまま内部へ。
 聖職者を守るように集まっていた人々をすり抜け──着弾する。


「リア、聖職者を撃った。その影響は?」

《あっ、ちょっと弱くなったかも。気絶させても復活させて面倒だったけど、それも無くなったよ》

「うん、それでいい。あとは【勇者】なんだけど……それは、彼に任せてね」

《名探偵様もそれがイイって言ってたよ》


 改めて、【魔王】の様子を。
 他の者たちはだいたい鎮圧したので、残された【勇者】を抑えればそれで良し。

 ……なお、俺が撃った者も含めてリアが言うように誰も死んでいない。
 なので、まだやり直せる──だからこそ、【魔王】は【勇者】に向き直った。


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