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偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と愚者の狂想譚 その08
しおりを挟む□月■▽。
あの【勇者】は正しかったのだろう。
だがそれは、人族にとっての正しさだ。
行われた会談は、ただ言葉を交わすだけで終わった。
特に有益な話ができるでもなく、ただ一方的に怒鳴られるだけ。
魔族は悪、村を滅ぼし人肉を喰らうことを罪だと語っていた。
ならば人はどうだと問えば、聖職者が神によって許された行いだと嘯いた。
職業という神の与えた代物に、レシピという形で魔物を用いた物が載っていると。
捕虜からそうした話を聞いたことはあったが、それを方便にするとは愚かな。
同じく、人の材料とする禁忌の錬金の話をしてやれば、唾を飛ばす勢いで魔族が与えたものだと唱えていた。
……レシピは神が与えたのならば、作れる時点で神が認めたも同然だろうに。
以降はただ罵詈雑言を吐くだけ、嫌気が差して会談を終えてしまった。
そのときの【勇者】は、まだ何かを語ろうとしていたが。
腹が立っていた俺は、そのまま魔王城へ引き返したのだった。
□ ◆ □ ◆ □
茨の中に囚われた魔族と人族。
別々に脱出の術を探し、どちらももう片方の仕業だと初めは告げていた。
しかし、【勇者】と【魔王】が彼らでは無いと宥め、とりあえずは落ち着いている。
……そんな様子を少女たちは眺め、次なる手を打とうとしていた。
「というか、アレが【魔王】か……うん、明魔族と同じ白色だね」
《たしか、メルスの記憶だと黒いはずだったね。つまり、そうなるだけの理由があると》
「僕の世界みたいに、ただのイメチェンですとかそういう理由ならいいけど。こっちの世界だと、色が変わるなんて超特殊なケースだもんね……」
《その割には、メルスは十四色ぐらい色を変えられるわけだけど》
そう、強烈な『侵蝕』による作用、そしてそれに匹敵するだけの干渉能力。
何らかの要因さえあれば、魔力という謎物質が体に影響し、髪の色を変えてしまう。
──そして、その中には祝福も含まれる。
俺のように複数授かっていたりすれば影響もほとんど無いが、カグのようにもう神様が中で見守ってます……レベルで祝福されていると、そりゃあ影響も受けるわけで。
攻城戦イベント時、【魔王】はどっぷりと偽邪神に祝福を受けていた。
大量の祈念者を相手にするので、相応のバフは確かに必要だろう。
しかし……それは、その場仕込みで急遽与えられた物なのだろうか。
もしかしたら、邪神から祝福を貰えるような出来事を、すでにやり終えた後なのでは。
「まっ、それも含めてこの中で全部分かるんだろうね……ところでリア、それは?」
《観て分からないかい? 御覧の通り、巨人のつもりだけれど……》
「いや、僕の視点はリアと同じ視点だから。茨の一部が上に盛り上がっていることしか分からないよ」
《おっとそうだった……ふっふっふ、機械が好きな僕ではあるが、フィギュアの方にも少し興味があってね。見るがいい、これこそが1/1ガ──》
一時的に音声は遮断、代わりにリアの視点が動いて見えるようになったものを確認。
……うん、宇宙戦争をやっても、頭部を破壊されても戦えそうな機体(茨)だな。
間違いなく、俺の記憶から引っ張ってきた情報を基に造られた代物だった。
そこまで詳しくは無いが、アニメの方は一通り目は通しているからな。
そんななんちゃってガ……機体は、その手に持ったビ……茨の剣を振るう。
狙うのは魔族と人族、両陣営に向けられた切っ先を──【勇者】と【魔王】が防ぐ。
《ふむふむ、一時休戦をするようだね。で、力を合わせてアレを倒そうと》
「……マッチポンプ感が否めないけど、こうでもしないとダメなんだよね」
《らしいね。その間に僕たちは、それぞれの種族絶対主義者をどうにかして、無力化するみたい。ちょっと強引だけど、元より強引な人たちらしいし、どうにも説得はいかないみたいだから……交渉をね》
「……交渉(物理)、でしょ。まあでも、実際上手くいっているみたいだし………………うん、しばらく僕は休んでいるよ。そっちの方も成功を祈るよ」
《! まさかメル──》
共有を断絶し、うーんと伸びをする。
中の方は、任せておけば大丈夫だろう。
俺の方は……っとレンズを覗き込むと、茨に近づく怪しい連中を確認。
黒尽くめのフード姿……犯罪組織は犯罪組織でも、宗教系の連中だな。
「さてと、気を付けないと──“千里眼”」
自前の物では無く、神器[イニジオン]に組み込まれたスキルを起動。
視界確保、魔力視、外線視、俯瞰といったスキルを内包した便利な眼の補正スキルだ。
「──“禽目”、“魔弾生成”」
レンズ越しに見える景色が、よりズームされた状態に。
鷹目、鷲目スキルの統合スキル禽目は、正確に狙うための場所を教えてくれる。
そして、狙撃銃に装填される魔弾。
現実同様の弾丸では、最悪たった一発でどこに居るのかを捕捉されてしまう。
逃げようにも、今の虚弱スペックではどうしようもない。
なので魔弾、イメージしたのは無軌道に暴れ回る弾丸だ。
武技を使えれば、幅広い戦術も取れたかもしれないが……今は使えない。
やむを得ない、と使うのは武技とは違うこの神器が持つ文字通りの必殺技。
「──“無身射撃”、“一射殺中”」
音が出なくなる射撃と、音が鳴るまで射撃が気づかれなくなるスキル。
そして、当たったら確実に死ぬし、装填した一発目に限り必ず中てられる射撃スキル。
この二つが組み合わさるとどうなるか……射撃は認識できない場所から行われ、しかも避けても必ず中るし必ず死ぬ。
探そうにもいっさい姿を捉えることはできず、また次の被害も防げない。
……デメリットとなるクールタイムとキャストタイムも、神器の加護が消している。
そう、絶対に狙撃銃が持ってはいけない性能だけが注がれた最凶最悪の神器。
それこそが、[イニジオン]……『神魔穿銃[イニジオン]』なのだ。
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