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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と愚者の狂想譚 その07

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 ▲月■☆日。

 忌々しい【勇者】共め。
 証拠にも無く、再び攻めてきた。

 主張はこうだ、『人族を苦しめる悪に、正義の刃を下す』と。
 ならば、魔族を苦しめる貴様らは悪にはならぬと? そうではないだろうに。

 だが、【勇者】と【魔王】の因果に関しては俺とて理解している。
 ……それでも、■■族の冥福を祈るこの時期に来たことは度し難い。

 あるいは、それすらも予定調和だとでも言うのだろうか。
 森人と手を組み、迷いの霧を抜けてこちらにやって来た【勇者】共。

 奴らの語る正義は、俺の……■■族の理想とした正義と相反する。
 言葉は交わせない、悪魔の甘言と言い耳にもしなかったからだ。

 ──俺は【魔王】として、正しき判断をしなければならない。

  □   ◆   □   ◆   □


 明魔族たちに別れを告げ、村から離れた直後に転移が行われた。
 そこはだだっ広い荒野、草の根一つ生えていない命の根絶した場所。

 どうしてそんな場所に……と思わなくも無かったが、理由はすぐに分かった。
 荒野には二つの天幕が存在し、その中心部分にもポツンと席が置かれているからだ。


「どうやら、あそこで会談をするみたいなんだけど……これ、どういう状況?」

「……ふむ、少々危ういな。切っ掛けがあればすぐにでも、交渉は頓挫するだろう」

「どうしてそう思うのでしょう?」

「簡単な……いや、これは見れば分かるよ」


 とのことなので、再び[イニジオン]を構えてレンズを覗き込む。
 人族側、そして魔族側を視て俺が思ったことは──


「うん、絶対失敗しますね」

「人と魔、相反する存在を和解させるために必要な物が欠けているようだ。そんな状況で無理に手と手を繫げと言われても、当然懐に刃を忍ばせるだろう」

「それじゃあ……どうすれば、少なくとも被害を出さずに事を済ませられるのでしょう」

「古来、敵同士を繋ぐものは、いつだって決まっているさ──共通の敵だよ」


 ということで、つい先日と同じことをやる羽目に。
 しかしながら、前回と違う点……それは俺がその作戦にまったく参加できないこと。 


「だからって、何もしないというのは気が進まないのですが……」

「ならば、周囲に不穏な影が無いかを見るというのはどうかな? 今回はどちらも主戦力だろうから、油断はできない……だが、君はそれでもやるんだろうね」

「みんなを危険に晒すんですから、僕にも相応の仕事がありませんと……だから、そのように心配せずとも大丈夫ですよ」


 少女たちの表情に、思わずそう言った。
 今の俺は確かに虚弱だが、別に日の光で死ぬだの誰かとぶつかっただけで死ぬ……のはあるかもしれないけども。

 まあ、当たらなければいいわけだし。
 絶対に隠れ続けることは不可能なので、その辺りは何かしら対策を講じておく必要がありそうだけども。


「とりあえずは……魔術で何とかします。僕自身のことは大丈夫、なので諍いの方をどうにかしてください」

「……本当に……?」

「ええ、大丈夫ですよ。リラも、彼らに起きる悲劇を終える手助けをしてください」

「それを望むなら……」


 そうして少女たちは動き出す、シェリンの指示で再び指定の場所へ。
 俺もまた、見晴らしのいい場所……は無いので、離れた場所にあった樹の所へ。

 姿は魔術“不可侵ノ密偵ハイドエンド・シーク”で隠し、気配も魔法薬で証拠隠滅。
 あとは魔力反応や音だが……それこそ、狙撃銃である[イニジオン]の出番だ。


「さて、みんなは……やってるやってる。両方とも、大慌てだよね」


 レンズ越しで無くとも見えるそれは、植物の生えない荒野に突如生まれた巨大な茨。
 荒野を覆い、包み込むように展開され、やがて巨大なドームを構築した。


「って……あれ、仲間外れにされた?」


 たしかにこれならば、逃げられることも援軍が来ることも無いのだろうけども。
 外部に居た俺もまた、内側に入ることができなくなってしまった。

 ついでに言っておくと、茨の範囲は元からスタート地点より手前になっている。
 ……最初から、俺を省く前提でアレは生み出されたわけだ。


「呪いの茨は全耐性持ちだから、どうせ攻撃は通じないんだよね……燃やしても意味無いだろうから、どうしたものやら」


 とはいえ、調べる方法がまったく無いわけでもない。
 スキルのほとんどは使えない……が、技能系以外で唯一使えるスキル。


「スキルも経験値も共有できないけど、なぜか感覚だけはできるんだよね……ハァ」


 一度はその用途があまりに悪辣だったので封印していたが、ちゃんとした使い方をすれば非常に有効的に使える“感覚共有”。

 従魔士系統の職業ならば、そのほとんどで得ることができる。
 ただし、職業ごとに大抵は制限が設けられているが──俺のそれに制限は無い。

 だからこそ、眷属たちに悪用されたわけだけども。
 ゆっくりと目を閉じ、茨の内側に居るであろう眷属を意識。

 俺の願いが作用しているからか、共有の精度は眷属で居た時間が長い方が高い。
 なので俺が感覚を間借りするのは、必然的に彼女になる。


《っ……メルスかい?》

「仲間外れにするなんて聞いてないけど?」

《ははっ、ごめんごめん。名探偵さんに説得されちゃってね。まあ、こっちの様子が見たいならぼくのをどうぞ?》

「うん、そうさせてもらうね……って、いきなり凄いことになってるんだけど」


 許可を貰ったので、真っ暗だった視界の共有を実行。
 突然光が入り、擬似的に俺の脳内にリアの網膜が捉えた情報が伝わってくる。

 ……だがそれは、あまりにも急なもの。
 いったい何をすれば、いきなり【勇者】らしき奴と敵対することになるのやら。


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