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偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と愚者の狂想譚 その03

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 □月★日。

 ……やはりだ、やはり思った通りだった。
 ようやく一人が情報を吐き、村を襲った真実が明らかとなった。

 今となってはもう遅い、情報を聞き終えたら即座に殺してやった。
 その情報を確かめた者から、順に殺して捕縛していた関係者は全員殺し終えた。

 忌々しい、俺たちが……■■族がいったい何をしたというのだ。
 下らない、何が『安寧』だ……俺たちから安寧を奪ってそれを語るか!

 俺たち■■族を使い、創り出された膨大な数の『安寧の魔結晶・・・・・・』。
 それらによって、人族との戦争に優位な状況を生み出すだと……下らない、下らない!

 しかもそれを、愚かな奴らのせいで人族に奪われてしまっている。
 ……なんとしても、どのような手を出そうとも──取り返さねばなるまい。

  □   ◆   □   ◆   □

 深夜、予め設置しておいた罠に何者かが反応した。
 魔物には発生しない仕掛けなので、あくまでも相手は魔人族だろう。


「──みんな、出番だよ。リア、リラ、輝夜様は村の外で対処を。シャル、シェリンお姉さんは村の人を守って。僕は……まあ、適当に何か──」

「却下。ボクたちの配置に関しては、そのままを採用しよう。君は野放しにしておくと、とんでもないことをやりそうだし……そうだね、シャル君の護衛をしてもらおうか」

「えっ、でも……」

「君は彼女の騎士なんだろう? 元助手として、今回はボクの提案に乗ってみては?」

 うぐっ、それを言われるとなぁ。
 俺は俺で、この状態でも使えるイニジオンで狙撃プレイを……と思っていたのだが、どうやらバレてしまっていたらしい。

 まあ、シャルの護衛をすることに関しては異論はないのでいいのだが。
 実際のところは、俺ではなくシャルこそが護衛役なんだろうな。


「それじゃあみんな、この村を守って!」

『了解!』

「えっと、輝夜様もお願いしますね」

「まあ、たまにはよかろう。五宝の力、存分に振る舞える機会も稀有なのでな……分かっておるわ、かぐやも急かしておるし、向かうとしよう──『燕の産んだ子安貝』」


 一人、ゆっくりと巨大な貝に乗って上空から村の外へ向かう輝夜様。
 今日は月も出ているし、彼女もいい仕事をしてくれるだろう。

 俺は俺で、狙撃手ができなくなったのだからと別のことを模索。
 一日の筋トレでは、少し重たい武器を持てるようになった程度……無茶はできない。


「ハァ……また今回も生産かな?」

「で、でも、メル君がいっぱいポーションを作ってくれたら、絶対みんな喜ぶよ!」

「そう、ですかね……シャルを守れるカッコイイ騎士の方が、僕としてはいいと思うのですが」

「……もう充分カッコいい、じゃなくて! せっかくこんな機会が来たんだもん! いつも言ってるでしょ、ワタシもメル君を守れるぐらいに強くなりたいって。だから、今日だけは立場交代ね」


 そうなると、俺がお姫様役になってしまうのですが……ああうん、姫プレイですか。
 なんだか、シャルと違って別の『姫』な気もするが、今は気にしないでおこう。


「シャル、頼みたいことがあるんだ」

「……メル君がお外に行くことなら、協力はできないよ?」

「非常に魅力的な話だけど……それをやるとみんなが心配するからね。シャル、精霊たちにお願いして、みんながどう頑張っているのかを観れるようにできないかな?」

「『テレビ』みたいに、ってことだよね? うーん、ちょっとやってみるね」


 童話世界の少女たち全員が、リア同様に機械文明に多少なりとも触れている。
 それはセントラルターミナルにも、機械が導入されているからだ。

 シャルにはそれをイメージしてもらい、遠くの状況をこの場に反映してもらう。
 精霊たちが映像化をし、ここで放映してくれれば……よし、成功だ。

 彼女の職業は【精霊妖姫】。
 精霊たちを統べる妖精の姫、生まれながらに持っていた天性の才覚を、真の意味で覚醒させた証拠である。

 そして、彼女が現在頭に被る赤頭巾は最初に付けていた魔力を隠すモノでは無い。
 銘は『妖精頭巾[ティアリー]』、本来無軌道な妖精を操ることができる代物だ。

 それをシャルが使うことで、精霊だけでなく妖精をも従えることができる。
 また、精霊であれば今まで以上に複雑な指示も可能になるとのこと。


「こ、こんな感じかな?」

「……ありがとうございます、姫様。お陰で作業効率が格段に上がります」

「うわっ、本当に早くなってる……それ、どうやってるの?」

「愛ゆえに、かもしれませんね」


 理屈は簡単、過保護に注いでいた保険の一部を解除しただけ。
 使われていた魔力を俺の身体強化に回し、ポーションをサクサク作っている。

 作ったポーションはシャルが精霊たちを経由し、まずはシェリンの下へ。
 そこから彼女が的確に指示をして、適材適所へと回していく予定だ。

 さて、俺は俺で彼女たちの活躍を見ておかなければならない。
 スキルとして思考系スキルすら使えない現状だが、それでも並列思考は可能だ。

 ポーションを半ば自動で作りながら、シャルが用意してくれた映像を確認。
 複数のモニターが並ぶ中、一つひとつで少女たちが動きを見せている。

 ……気のせいか、時々こちらに視線を向けている気がするのだが。
 えっと、こっちを意識して無茶をするのだけは控えてくれよ?


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