上 下
2,237 / 2,519
偽善者と愚者の果て 三十五月目

偽善者と愚者の狂想譚 その02

しおりを挟む


 ●月■□日。

 ……なぜだ、どうしてこうなるんだ。

 統治は順調なはずだった、さまざまな者たちから意見を集め、それらを反映していた。
 貧困も解決し、強大な魔物も退治し、人族の侵攻も防いでいる。

 ■■族の評価は変わるはず。
 そう信じてきたはずなのに……どうして、村が滅んでいる!

 原因は村内部の裏切り者によって、人族が攻めてきた? そんなはずがあるか!
 あの地は魔族しか入れない場所、そして俺たちを道具にしてきたのもお前たち!

 何より、一人として死体を確認できていないのが一番の証拠だろう!
 ……何が安寧だ、俺たちの安寧を奪っておきながら!

  □   ◆   □   ◆   □


 潜入にあたり、問題が一つ生じた。
 途中で確認された結界を、人族では通過できなかったのだ。

 今は因子注入スキルも使えないので、その手段で魔族に化けることは無理だ。
 少女たちに関しては、普通に使える魂魄レベルの偽装スキルでなんとかなる。

 つまり、俺だけが通過できないのだ。
 いっそのこと、俺だけ残して他の者たちで中へ行ってもらいたかったが……彼女たちはそれを許容しなかった。


「認識は魔力によって行われているみたいだね。つまり、向こうの感知能力を掻い潜れるレベルで隠蔽することができれば、進むことができるだろう」

「……でも、今は隠蔽スキルは使えないからどうしようも無いわけだね」

「何、簡単なことさ。君が誰かと共に、隠蔽の効果対象に含まれればいいのさ。そのためには、密着するレベルで近づかなければいけないね」

『…………』


 鋭い眼光がこちらに向けられる。
 そこまでして、俺を中に居れようとしてくれているのか……嬉しい、と思いたいが、なぜか俺の心境は草食動物だった。

 肉食動物に狙われてた彼らもまた、必死に抗うのだろう。
 俺もまた、[アイテムボックス]の中を洗い浚い調べて──見つけだす。


「こ、これで大丈夫だよね!?」

『…………!』

「あ、あれ? みんな、どうしたの?」

「め、メル君……それ」


 俺が用意したのは『魔封じの赤ずきん』。
 目の前でわなわなとしている少女を救った報酬として得られた、魔力を極限まで隠蔽できるアイテムだ。

 当然、被らなければ効果は発揮されないのでそれを装備したのだが……どうやら皆の反応の原因は、それだったようで。


「ね、ねぇメル君、ハグ、していいよね?」

「…………うん、い──むぐっ!」

「お揃い! お揃いだねメル君! そっか、これがあれば大丈夫だったね! じゃあじゃあ、しばらくはずっと被っていないとね♪」


 とても嬉しそうなシャル。
 正直、防災頭巾ぐらいしか被ったことの無い凡人には、そこまで盛り上がれる物なのかと疑念が浮かぶ。

 しかし、大変嬉しそうな彼女の姿には、俺もホッとするものがあった。
 ……なので他の皆さん、自分たちの物もという目で見ないでください。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 交渉役は、探偵であるシェリンが行うことになった。
 コミュ力に欠ける俺は、後ろで臆病な子供の役をすることに。

 白髪の老人に対して、シェリンが現在流浪の魔族というていで交渉を行っている。


「──というわけなんだ。ボクたちにできることがあれば、可能な限り協力しよう。食糧や衣類などもある、そちらを提供しても構わないと思っている……どうかな?」

「え……ええ、よろしいのですかな? それではあまりにも、そちらが損を──」

「損得の問題では無いのさ。君たちの生活に介入する、それがどういう意味なのかはすぐに分かったよ。だからこそ、相応の対価が必要だとボクは思う」

「! ……分かりました。家屋に関しては、幸い空きがございます。後ほど、必要な物はご用意いたします」


 なんて会話が繰り広げられ、俺たちは村の外れにあった家屋で泊れることになった。
 聞いた話によると、昔から詰め所として用いられていたそうだ。

 今は村の外へ出る者も少なくなり、わざわざ使うことも無くなっていたらしい。
 それでも時折利用はされるため、掃除などはある程度行き届いていた。

 そして、こちらは新鮮な食糧やこちらの文化レベルに合わせた衣服などを提供し、歩み寄る姿勢を示す…………ただし、俺だけは詰め所でお留守番だ。


「うぐぐ……今は、体を十全に動かせるようにしないと」


 そんなこんなで、今は腕立てやら腹筋などで筋トレの真っ最中。
 疲れたら『無吸』で高速治癒し、ある程度治ったら再び筋トレ。

 能力値が頼れない以上、素の力──つまり体そのものの強さを上げておく必要がある。
 身体強化も、頑強さVITが足りないなら筋肉が物を言うからな。


「──『明魔族』、だったね。名前的には、意外と陽キャみたいだけど、全然、そうじゃない、みたいだし。光属性への、適性が、その、原因なのかな?」


 シェリンが聞きだした種族の名前。
 俺は[世界書館]が使えなかったので思い出せなかったが、彼女たちはしっかりとその種族のことを調べてくれていた。

 明魔族。
 それは先ほど語った通り──光属性への適性を持ち、なおかつ神聖属性による弱体化の無い極めて稀有な種族。

 種族単位で髪は白く、瞳は黒い。
 身体的な特徴などは見受けられない、かなり人族よりな種族なのだが……過去の文献によると迫害されていた模様。

 だからこその現状、だからこその日記の記述……間もなく、村は魔族に襲われる。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。 彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。 だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。 神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。 アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO! これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。 異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。 そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...