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偽善者と愚者の果て 三十五月目
偽善者と愚者の狂想譚 その02
しおりを挟む●月■□日。
……なぜだ、どうしてこうなるんだ。
統治は順調なはずだった、さまざまな者たちから意見を集め、それらを反映していた。
貧困も解決し、強大な魔物も退治し、人族の侵攻も防いでいる。
■■族の評価は変わるはず。
そう信じてきたはずなのに……どうして、村が滅んでいる!
原因は村内部の裏切り者によって、人族が攻めてきた? そんなはずがあるか!
あの地は魔族しか入れない場所、そして俺たちを道具にしてきたのもお前たち!
何より、一人として死体を確認できていないのが一番の証拠だろう!
……何が安寧だ、俺たちの安寧を奪っておきながら!
□ ◆ □ ◆ □
潜入にあたり、問題が一つ生じた。
途中で確認された結界を、人族では通過できなかったのだ。
今は因子注入スキルも使えないので、その手段で魔族に化けることは無理だ。
少女たちに関しては、普通に使える魂魄レベルの偽装スキルでなんとかなる。
つまり、俺だけが通過できないのだ。
いっそのこと、俺だけ残して他の者たちで中へ行ってもらいたかったが……彼女たちはそれを許容しなかった。
「認識は魔力によって行われているみたいだね。つまり、向こうの感知能力を掻い潜れるレベルで隠蔽することができれば、進むことができるだろう」
「……でも、今は隠蔽スキルは使えないからどうしようも無いわけだね」
「何、簡単なことさ。君が誰かと共に、隠蔽の効果対象に含まれればいいのさ。そのためには、密着するレベルで近づかなければいけないね」
『…………』
鋭い眼光がこちらに向けられる。
そこまでして、俺を中に居れようとしてくれているのか……嬉しい、と思いたいが、なぜか俺の心境は草食動物だった。
肉食動物に狙われてた彼らもまた、必死に抗うのだろう。
俺もまた、[アイテムボックス]の中を洗い浚い調べて──見つけだす。
「こ、これで大丈夫だよね!?」
『…………!』
「あ、あれ? みんな、どうしたの?」
「め、メル君……それ」
俺が用意したのは『魔封じの赤ずきん』。
目の前でわなわなとしている少女を救った報酬として得られた、魔力を極限まで隠蔽できるアイテムだ。
当然、被らなければ効果は発揮されないのでそれを装備したのだが……どうやら皆の反応の原因は、それだったようで。
「ね、ねぇメル君、ハグ、していいよね?」
「…………うん、い──むぐっ!」
「お揃い! お揃いだねメル君! そっか、これがあれば大丈夫だったね! じゃあじゃあ、しばらくはずっと被っていないとね♪」
とても嬉しそうなシャル。
正直、防災頭巾ぐらいしか被ったことの無い凡人には、そこまで盛り上がれる物なのかと疑念が浮かぶ。
しかし、大変嬉しそうな彼女の姿には、俺もホッとするものがあった。
……なので他の皆さん、自分たちの物もという目で見ないでください。
◆ □ ◆ □ ◆
交渉役は、探偵であるシェリンが行うことになった。
コミュ力に欠ける俺は、後ろで臆病な子供の役をすることに。
白髪の老人に対して、シェリンが現在流浪の魔族という体で交渉を行っている。
「──というわけなんだ。ボクたちにできることがあれば、可能な限り協力しよう。食糧や衣類などもある、そちらを提供しても構わないと思っている……どうかな?」
「え……ええ、よろしいのですかな? それではあまりにも、そちらが損を──」
「損得の問題では無いのさ。君たちの生活に介入する、それがどういう意味なのかはすぐに分かったよ。だからこそ、相応の対価が必要だとボクは思う」
「! ……分かりました。家屋に関しては、幸い空きがございます。後ほど、必要な物はご用意いたします」
なんて会話が繰り広げられ、俺たちは村の外れにあった家屋で泊れることになった。
聞いた話によると、昔から詰め所として用いられていたそうだ。
今は村の外へ出る者も少なくなり、わざわざ使うことも無くなっていたらしい。
それでも時折利用はされるため、掃除などはある程度行き届いていた。
そして、こちらは新鮮な食糧やこちらの文化レベルに合わせた衣服などを提供し、歩み寄る姿勢を示す…………ただし、俺だけは詰め所でお留守番だ。
「うぐぐ……今は、体を十全に動かせるようにしないと」
そんなこんなで、今は腕立てやら腹筋などで筋トレの真っ最中。
疲れたら『無吸』で高速治癒し、ある程度治ったら再び筋トレ。
能力値が頼れない以上、素の力──つまり体そのものの強さを上げておく必要がある。
身体強化も、頑強さが足りないなら筋肉が物を言うからな。
「──『明魔族』、だったね。名前的には、意外と陽キャみたいだけど、全然、そうじゃない、みたいだし。光属性への、適性が、その、原因なのかな?」
シェリンが聞きだした種族の名前。
俺は[世界書館]が使えなかったので思い出せなかったが、彼女たちはしっかりとその種族のことを調べてくれていた。
明魔族。
それは先ほど語った通り──光属性への適性を持ち、なおかつ神聖属性による弱体化の無い極めて稀有な種族。
種族単位で髪は白く、瞳は黒い。
身体的な特徴などは見受けられない、かなり人族よりな種族なのだが……過去の文献によると迫害されていた模様。
だからこその現状、だからこその日記の記述……間もなく、村は魔族に襲われる。
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