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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者とデート撮影 その02
しおりを挟む夢現空間 研究室(?)
イベントも終わり、優雅な一時を……というわけでもなく、今回の時間を確保した。
そして、俺は彼女に招かれて研究室を訪れた……はずなんだけどな。
「いつの間にこんな施設が……」
「驚いたかい? マスターの世界と言えど、そのすべてを知覚しているわけではないからね。その在り様は、マスターが僕たちにこの世界を委ねているとも言えよう。そして、マスターは僕たちの秘密も許容してくれる」
研究室とは本来、解析スキルに補正が入るだけの場所だった。
眷属たちが施設を利用するようになり、情報を整理するための機材が置かれるように。
──俺が把握していたのはこれだけ。
だがいつの間にか、研究室には複数の扉が取り付けられており。
仮眠室やら培養室、そして検証室という部屋が新たに増設されている。
「当然、マスターが肯定してくれなければ、部屋は消失していただろう。この世界の主はマスターで、絶対的な存在だからね」
「……そういうものか? 知らないから、そのままだっただけじゃ?」
「なら、どうして今も存在しているかい? マスターの仮説が正しければ、知り得ないはずだったこの施設を知った以上、何かしらの反応があるはずだろう。つまり、無意識的に僕たちの行いを許容していたのさ」
「グー……」
何が嬉しいのか、今は一本な狐の尻尾が揺れ動いていた。
グー、【強欲】の武具っ娘である彼女は、自身の知により広げた空間を教えてくれる。
「空間への干渉は比較的簡単だったよ。迷宮と違って、あくまでもマスターが僕たちのために構築した場所だからね。意図的に調節しようと思えば、それなりに簡単だったよ」
「ふむふむ……ところでグー、仮眠室はまあいいとして。培養室……もまあ、用途自体は理解できるからいい。けど、検証室ってどういう用途なんだ?」
「…………文字通り、検証する部屋さ?」
「なぜに疑問形? いや、そうじゃなくて、実験室で散々いろんなことをやってたのに、どうして検証室って部屋が必要なんだ?」
実験室は主に、スキルや魔法、アイテムの性能を確かめるためのもの。
あとは眷属が暇な時、共有した技などを放つための場所だな。
解析班に属するグーも、そこでさまざまなモノを試していた。
……だが思えば、ここを使うとき誰かしらメンバーが欠けていた気がする。
「……おや、検証室にシャッターが」
「ああ、こんな感じか。多分、不信に思うと入れなくなるんだろう」
「それは興味深い……が、今は弁解をしておいた方が良いみたいだね。検証室は他の部屋同様、字の如く検証するための部屋さ。ただ少しばかり特殊な検証が必要なものを、この部屋では試しているのさ」
「それは分かるが……うん、シャッターも全然開かないな」
不信感から下りたシャッターは、説明を聞いてもまったく開かない。
何がダメなのか……嗚呼、改めて思えばこれだけ訊ければ大丈夫か。
「グー、質問に答えてくれ。この部屋は……見せられないというか、危ないものを試すための場所なんだろう?」
「肯定しよう。環境をある程度自在に設定できたり、内部での変化も外部に出れば大半は無かったことにもできるけど、それ以外の部分は実験室とほとんど変わらないよ。あくまで、外にそれらが持ち出されないよう──」
「俺やここを知らない眷属が、心配するからか?」
「…………そう、だね。皆を巻き込みたくはないのさ。これは僕、そしてそれを受け入れてくれた解析班のエゴさ。マスター、そんな理由だけども……認めてくれるかな?」
俺の答えは……決まっていた。
シャッターが消え、再び部屋へ入れるようになったことでそれは証明される。
「案内、してくれるか?」
「ああ、マスターが望むのであれば」
俺たちは中へ入っていく。
そしてそこには──研究室以上の設備が、並んでいるのだった。
◆
「──とはいえ、一部は企業秘密とも言える区画だからね。映像の方は、あとで検閲をさせてもらうよ」
「はいはい、了解しました……ところで、これはどういう用途なんだ? パッと見、俺にはポップコーンの製造マシーンにしか見えないんだが」
「ああ、それは錬金術用でね────を──して、──────するものなんだ」
「はー、まさかこんな物から蘇生薬が出来上がるとはな」
「あまり世に出せない方法だからね。ああ、もちろん合法的にね」
□
「──といった風に、成分の抽出には成功しているんだがね。あと一歩のところで、失敗してしまうんだ……おそらく、権限的なものが足りていないんだろう」
「権限か……システム的な問題となると、あれじゃないか? そういう[称号]が必要になるとか」
「確かにそうなんだが、やはり獲得した者が見つからなくてね……今はまだマスター頼りになってしまっているよ」
「いずれは俺が居なくても……ってのはまあいいんだが、これはちょっとな──超越種にバレたらしばかれそうな気がするぞ」
◆
「──以上で説明は終了だ。ここまでの感想はいかがかな?」
「うーん、テレビでよくやってる工場見学のモザイクが掛かってる部分、あれってそんな感じなのかなぁって思いました」
「実際、企業秘密というのはそういうものだからね。テレビ越しとはいえ、観られれば損失する可能性のあるものは隠したい。だから秘蔵し、他の企業が同じようにできないようにする……知られないからこそ秘密なんだ」
「まあ、そうだよな……ただ、思ったのはそれ以上に──これがそんな工場見学で、グーとのデートって感じがしなかったことか」
研究室や検証室を、グルグルと回っただけだからな。
ただまあ、その都度グーが楽しそうに解説してくれたので、俺的には満足だが。
しかしながら、世間一般のデートという感じでは無かった。
なんというか、まあそれでも触れ合いは楽しめたか──
「……むぐっ」
「いきなりで驚いたかな? だが、マスターがまだ物足りそうだったからね。とっておきのサービスさ」
「……情緒も減ったくれも無いな。アレが生配信だったら放送事故レベルだぞ」
「おや、気に入ってもらえなかったかい? それなら、もう一度した方がマスターも嬉しい──っ」
「……やられっぱなしは、少しな」
──最後の触れ合いは、とても甘い味がしました(編集済み)。
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