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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と陣営イベント番外篇 その09

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 ありとあらゆる技を模倣し、俺が使用可能にする神器『模宝玉』。
 その力は心象による世界改変とも呼べる魔導にすら及び、他者の在り様すら真似れる。

 今回発動した魔導“明るき未来の証”。
 それは<勇魔王者>たるミシェルが、幾度にも及ぶ【勇者】と【魔王】のカンスト&転職を繰り返す中で発現させた魔導だった。

 アルカはアルカで【賢者】の力を用いて魔導を発現させたが、ミシェルは【魔導勇者】という職業によって成し得ている。

 システムの補正があるとはいえ、発現する世界は紛れもなく彼女の在り様そのもの。
 今回の“明るき未来の証”は、そうして得た彼女の生き様──その片割れ・・・・・である。


  □   ◆   □   ◆   □


 膨大な魔力に圧し潰され、一面黒に染まっていた世界がさらに塗り替えられていく。
 闇色だったそこは突如として、色鮮やかなものと化す。


「ミシェルが見せてくれた時とは違うね……これが私の未来、ってわけでもないか。つまりこれが──貴方が見ることのできる未来の一つってことだね」

『…………』

「ん? アレは街かな……それも廃都──」

『共都パラシオン、廃都じゃない……』


 見覚えのある城の形に、つい零してしまった廃都の名前。
 だがそれを咎めるように、訂正してきたこの世界の主。

 黒かったであろうソレは、今や青年としての姿を取っている。
 そちらの姿に見覚えは無いが、おそらく構築された都に関わった何者かだろう。


『あそこは……俺が仲間たちと共に創った理想郷だ。魔族たちとも上手くやって、共に支え合って。そんな時間が続いていた、少なくとも俺が死んだ後も』

「……じゃあ、貴方は」

『何の因果か、俺はあそこに残された。だが長命種な仲間も居たからな、そこまで寂しくは無かった。だが、だんだんと何かがおかしくなり始めた……今思えば、すべてが初めから仕組まれていたのだろうな』


 都そのものに願いは使われていない。
 だが、何らかの形で願いを果たしていた。
 その結果として、彼はあの地に囚われ──無限に続く悪夢を見させられている。


『やがて人族も魔族も、あの地を攻めた。理由なんて後付けだ、後世においてなんて語られているだろうか? 少なくともそれは、こちらの納得のいかないものだった。だからこそ対抗し──成す術もなく敗れ去った』

「貴方はどうなったの?」

『そうだな、気が付けばあの地に──何もない廃墟に立っていたよ。そして、ただひたすらに彼の地を訪れる者たちを追い返した。文字通り、骸の王としてな』


 ……俺が相対さなかった、廃都の城前に居たというボスモンスター役だったのか。
 王なのに城へ入れてもらえず、門番役をやらされていたわけね。

 だが、自由民の姫様や祈念者の力によってそのくびきから解放された彼。
 問題は解放されたことが、彼にとって幸福だったかどうか……ということだ。


『あの場所から解放された後も、まだ俺は残された……せっかく感謝の言葉まで伝えたのにな。そして、願いの魔法陣がどういったものかを子供に教えられた。それこそが、俺と共都を台無しにしたものだとな』

「…………」

『黒いナニカが、やがて俺を包んでいた。それこそがすべての原因だと分かっていた……それでも、俺はそれを取り込んだ──俺ごとすべてを消し去るためにな。だが、どうやらそれには失敗したらしい』


 中核となっていたからこそ、彼の姿になっていたのか。
 だが内なる衝動に耐え切れなかった結果、時間差で迷宮を起点に暴走を始めた。


『……どうやらもう限界らしい。最後に、あの光景をもう一度見れて良かった。再び都は蘇り、人と魔が共に暮らすことができる。それが分かった以上、もう思い残すことなど無くなった』

「本当に、それでいいの?」

『いいんだ。満足した後も残ればどうなるのか、それは俺が一番知っているはずだ。だから終わりにしてほしい──それが俺の、魔法に祈りたくない願いだ』

「うん、分かった──[禍福]」


 斧と同じく、オリジナル神器の一つ。
 銘は『崩槌[禍福]』、運命を打ち砕くために創り上げられた逸品だ。

 イメージ元となったのは打ち出の小槌。
 願いを魔法に求めない彼には、魔法とは違う形で願いを叶えてあげよう……そんな偽善めいた行いの表れだ。


「貴方とこの世界、それをいっしょにどこかへ飛ばすよ。私は神様じゃないから、それがどこなのかは分からない……けど、貴方はいつかこの光景をもう一度、また別の形でだけど観ることができる」

『…………かたじけない』

「これは私の我が儘、貴方が望んでいなくても私が勝手にやることだから。汝の未来に、幸あらんことを──“運命打壊”」


 コツンッと小槌を彼の頭にぶつける。
 悪意に呑まれて消えるはずだった彼の魂の運命は、神器の力によって改変された。


『嗚呼……温かいなぁ』

「もし聖女様みたいな人に出会えたら、私の名前──メルの名前を出してほしいな。少しサービスしてもらえるかもしれないから」

『メル、メルか……ありがとう、君の名前は絶対に忘れない』

「いいよ、私よりも覚えておかないことはたくさんあるはずだからね。だからもう、ゆっくりと休んでね」


 スッと目を閉じた彼は、やがて光の粒子となって消えていく。
 同時にこの場所も、元在った迷宮モドキと共に粒子化を始める。


「……利用もできたけど、偽善者として願いには応えないとね。嗚呼、やっぱり偽善じゃないと救えない人はいるんだ」


 要望通りでは、こうはならなかったはず。
 悪意と分離していなければ、再び何もない場所を延々と彷徨う……なんてこともあったかもしれない。

 やらぬ善よりやる偽善、やっても救われない善よりは救われる偽善の方が俺は好きだ。

 空間が崩壊し、迷宮都市が再び俺の視界に入ってくる。
 どこからともなく飛んでくる、可愛い子犬と天使を見て……俺は小さく笑うのだった。


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